54.新人育成:その1
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「俺をあんた達のパーティに入れてくれ」
ある日、冒険者ギルドで依頼を済ませて買取品の査定を待っていた俺達に声をかけてくる冒険者が居た随分と気が強そうだ。見たところ、体格は良いが歳は精々12,3歳といったところだろう。
「随分若いようだが、いくつだ?」
バルトが代表して聞いている。
「12歳になる」
おいおいおい、エリルより年下じゃないか。俺は小声でギルベルトに聞く。
「未成年だが、冒険者ギルドに登録できるのか?」
「できるよ。森の外で薬草採取が精々だけどね」
「ランクは?」
「Eランクだ」
再びバルトが聞くとギルドカードを差し出しながら胸を張って答えた。
この歳でEランクになるってことは相当に薬草採取を頑張ったのか?そう思って目の前の相手を画像検索する。
おおう、この歳でゴブリン2匹を相手に倒してるぞ。しかも初戦は10歳で村に迷い込んだ1匹のゴブリンを1人で倒している。
「流石に子供をパーティに入れられないな。せめてEランクの駆け出し同士でパーティを組んだらどうだ?」
なんだか、俺とバルト達が出会った時のアランさんのようなことをバルトが言っている。バルトも成長したもんだ。
「もう、どこのパーティにも断られた。あんた等草刈りなんだろう?それなら俺が足はひっぱる事は無い」
「お前がどう思うかは勝手だが俺達の仕事について来れるとは思えないな」
バルトが少しムッとしながら答える。
「お前じゃない、俺はハーヴィだ。これでも剣には自信がある」
腰に下げた剣を叩きながらハーヴィが抗議する。だが、剣以外の装備はお粗末なものだ。革の手袋に胸当てだけだ。
「何といっても子供をパーティに入れる気は無い」
「なんだと!」
「まあ、バルト待て」
「なんだ?ユウト」
「ハーヴィが剣に自信があるのは本当のようだ。少し話を聞いてみないか?」
「まあ、ユウトがそう言うなら」
ハーヴィは12歳にしては確かに強いが、この向こうっ気の強さでは同ランクでパーティを組むのは難しいだろうし、上位のパーティが受け入れる事は無いだろう。
俺達は放りだして、ハーヴィがパーティを組まずに1人でこのまま戦えば、早晩死んでしまうだろう。俺としてはそれはなんだか後味の悪い気がしたのだ。
「ハーヴィは随分剣に自信が有るようだが、誰かに剣を習ったりしたのか?」
「死んだ親父に教わった。親父は冒険者だった」
「なるほどね。その歳で冒険者になることに母親は反対しなかったのか?」
「お袋も先月、病をこじらせて死んだ。村で邪魔者扱いされながら生きてくのはごめんだ」
「それで、冒険者にか…」
ハーヴィが頷いている。
「おい、ユウト本当にコイツをパーティに入れる気か?」
「バルトの心配ももっともだけどな。アランさん達がバルトとギルベルトをパーティに入れなかったのはアランさん達がダンジョン攻略者だからだ。ダンジョンのとんでも無い化け物相手に戦ってるから、あの時のバルト達は足手まといでしかなかった。いや、今の俺達だって足手まといかもしれん」
「まあ、そうだな」
「それに対して、俺達の今の仕事は近隣の村の害獣や魔物討伐に巡回行商人の護衛だ。駆け出しでも足手まといと否定しなくても良いだろう」
「護衛依頼はDランク冒険者からですが問題ありませんか?」
「それは大丈夫だよ。パーティの半分以上がDランク冒険者以上なら受けられるよ」
「俺達は行商人の護衛で村に行くときとか、あまり乱暴な言動は歓迎されないそのあたりは改められるか?それから無茶な事をして死なれても困る。俺達の指示には従えるか?ハーヴィ」
「努力する…」
「と、言う訳だ。俺としてはパーティに入れても良いと思うがどうだ?リーダー?」
「しかたないな。俺は『光の翼』のリーダー、バルトだ盾役と斥候だ。ハーヴィ、お前をパーティに迎えよう」
「俺はユウト。槍で攻撃担当だ、後は渉外やパーティの運営管理もやってる」
「僕はギルベルト。魔術師だけど、弓も使うよ」
「私はユリアです。神官で回復や支援、それに攻撃の補助もします」
おれは視線でハーヴィに自己紹介するように水を向ける。
「俺はハーヴィ、剣を使う」
そうして俺達は新しい仲間をパーティに迎え入れた。
「ところで、ユウト。パーティの運営管理っていつの間にそんな役割をやってたんだ?」
「バルト…今までさんざんユウトのお世話になってるでしょ」
バルトよ、今までの俺の苦労をなんだと思っているんだ…
・・・・・・・・・・
「よろしくね!ハーヴィ」
「あ…ああ、よろしく」
さっそくハーヴィを俺達の家に連れて行くと、エリルが持ち前の人懐っこさでハーヴィを圧倒している。まあ、元々『星屑亭』で荒くれものの冒険者相手の下働きをしていたんだ。ハーヴィ程度の我の強さなんて、可愛いものなんだろう。
「4人部屋に空きがあるから、ハーヴィは俺達と一緒だ。後で寝台を買ってやる。家の事はエリルに任せているから分らなかったら相談すると良い」
「ああ」
その後、エリルの作った夕食をとりながら作戦会議だ。
「パーティの担当は前に言ったとおりだが、ハーヴィはユウトのフォローだな。頼めるか?ユウト」
「任されよう。ハーヴィ、くれぐれも勝手に動かず指示に従ってくれ」
「分かった」
「まあ、最初の内は俺達のパーティの戦い方を見て覚えるのが仕事だ。勝手に戦うなよ」
「あ…ああ」
翌日ハーヴィのマントや毛布、背嚢を買って、俺達は軽めの討伐依頼をこなすことにした。
・・・・・・・・・・
「新しいメンバーの方ですか」
「そうです。チキネ村の村長ワレリさんだ。ハーヴィ、挨拶をしろ」
「ハーヴィだ、です…よろしく」
まあ、ぎこちないが問題ないだろう。
「ではワレリさん。俺達は依頼のゴブリンを討伐にいきます」
「よろしく頼みます。帰りには野菜の納品依頼も受けてくださいね」
「分かりました。受けましょう」
そう言って俺達は森に入っていった。
「まずは俺達のいつものパターンからだ。よく見ておけよハーヴィ」
ゴブリン10匹程度の群れから少し離れて、バルトが作戦を伝えている。そうは言ってもゴブリンだ。ユリアが『鼓舞の奇跡』使い、木立の陰からギルベルトが『フラッシュバン』で群れをあらかた昏倒させる。後は、地面で悶絶しているゴブリンをバルトと俺が止めを刺すと続いてユリアとギルベルトが昏倒しているのを次々と屠っていく。
「早い…」
「後は日が傾くまで薬草採取だ。夜は村でテントを張るぞ、野営の仕方を教えるからな」
テント張りは敢えて手を出さず指示とフォローに徹して、安全な村の中でハーヴィに組み立てをやらせる。少し時間はかかったが初めてとしては上出来だろう。
夕飯は村長のワレリさんの厚意を申し訳なかったが断って野営飯の練習もさせる。
「ぐっすりだな」
「ハーヴィが思ってたのよりハードだったんだろう」
ハーヴィは飯を食って寝床に入ると力尽きたように眠った。
「ついて来れるのかな」
「ハーヴィ次第だな」
「…俺達も寝るか」
夜が開けて、俺達は収穫物の納品依頼も受けてカラドの街に一旦帰るとトンボ返りにチキネ村に取って返して代金を渡す。それから夕方までにカラドの街に帰るが、もちろん薬草採取も忘れない。
「草刈りって本当だったんだな」
ハーヴィがぐったりとした様子で言ってくる。
「薬・草・採・取」
俺は威圧を込めながら言うとハーヴィが訂正する。
「こんなに薬草採取してて稼げるのか?」
「まあ、一週間も金を貯めてみろ」
・・・・・・・・・・
一週間ほど、雑魚を相手に俺達が駆け出しのころの魔法だけで戦ったり戦い方をハーヴィに見せていく。夕食前の鍛錬も忘れないが、戦術も教えていく。小石を俺達や敵に見立ててバルトが指導教官だ。
「それじゃあギルベルトの負担が大きすぎる。死んだぞ」
「あーもー、じゃあどうすれば良かったんだよ」
「俺が真っ先に飛び道具持ちにつっこんで潰す。とにかく厄介な相手から黙らせるんだ。まあ混戦では手近なのから潰すがな」
「結局行き当たりばったりじゃねぇか」
「状況次第ってことだ」
「バルトが指示をだすんだろ。俺がこんなこと覚える必要があるのか?」
「ただ指示に従うのと、理解して指示に従うのでは大違いだ」
「…むう」
ハーヴィはあまり頭を使うのは得意では無い様だった。それに対して剣の腕には非凡なものがある。戦闘の才能なら俺よりはるかに上だろう。
そして一週間もしたころ貯まった金で『角笛の音』の親父に装備一式を見繕ってもらう。懐かしい、俺達も使った革装備一式だ。
「これで俺も一人前か?」
「いいや、ブーツを金属板で強化したり、まだまだだなボウズ」
親父がハーヴィの背中をバンバンと叩いている。まあ、半人前くらいにはなっただろう。
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