47.家を手に入れよう
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「家ねぇ…」
「確かに馬車も持ってしまうとね」
「冒険者ギルドに預けるにしても、長期となると御迷惑でしょうし」
「俺、この間『星屑亭』の女将さんに裏庭の使用料貰おうかって言われたぞ」
「まあ、ほとんど俺達が占領してしまってるしなぁ」
「自分たちの家を持つのも悪くないかもね」
「家ってどのくらい金がかかるんだ?」
「俺達は村出身だから街の家がどのくらいかは分らんぞ」
「街では住居はほとんど賃貸ですね。年に金貨1枚から2枚くらいでしょうか」
「明日、商業ギルドで物件探ししてみるか…」
「おう、そうだな」
俺達が『星屑亭』の食堂で夕飯をとりながら、家を持つ相談をしていると給仕をしているエリルが近づいて来た。
「ユウト達、『星屑亭』を出て行っちゃうの?」
妙に寂しそうなその声に思わず。
「考えてるだけだ。まだ決まった訳じゃないぞ」
俺は慌てて言い募ってしまった。エリルが他にテーブルに行ってしまった後に。
「すっかりエリルにも懐かれてしまいましたね」
「『星屑亭』の近くで馬車を置ける家とか無いかなぁ」
「とにかく、商業ギルドに行ってみようぜ」
「そうだね、良い物件があるといいけど」
・・・・・・・・・・
「家をお探しですか」
翌日、俺達は商業ギルドの不動産関係の受付のお姉さんに相談していた。
「ええ、馬小屋と二頭立ての馬車が置けて、冒険者ですので鍛錬の出来る庭のある。男3人と女1人住める条件で」
「そうですね。そのあたりの条件になると年に金貨3枚くらいの家賃ですかね」
「ちょっと高いな」
「私の知識は一般家庭の家賃でしたね」
「まあユリアも実際に家を持った訳じゃないし」
「まあ、探してもらおう」
「そうですね、条件に合う物件ですが、なかなかございませんね。部屋が大部屋1つならありますが」
受付のお姉さんが台帳を繰りながら条件にあう物件を探そうとするが、なかなか見つからないようだ。
「馬車や馬小屋の有る家なら行商人の住む商業地区には多いですが、鍛錬の出来る庭は無いですし。そもそも冒険者の方が市壁の中で家を持つ事が珍しいのですよ、宿屋暮らしが基本ですし。
高位の冒険者ですと市壁の外に大きな家を建ててクランを持ちます。市壁の中で条件に合うような冒険者は名誉を持った方ですので、街の中心街に豪邸を持ちますね。」
「うーん、とりあえず見つかった物件に案内してもらますか?」
「承知しました。ご案内します」
俺達は商業ギルドの職員に連れられて物件の下見に行くが、案内は受付のお姉さんでは無かった。やたらとゴツイ印象の男性職員だ。いや、物腰は丁寧なんだけどね。
「こちらでございます」
「う、うーん」
正直、微妙だった。スラムが近い、それで案内が強面のお兄さんだったのね。依頼で頻繁に家を空ける俺達には、防犯上不向きだし。家自体もボロボロで立て直した方が良いんじゃないかという作り。それに井戸も無くて共同井戸に水を汲みに行かなくてはならない。案内してもらった井戸もあまり衛生的とは言えなかった。
まあ、売れ残っていただけの事はある物件。そういう結論だった。
失意の俺達が商業ギルドにもどる途中、住宅街と宿屋街の境目にポツンと空地を俺は見つけた。
「あの空地に家を建てる事は出来ないですか」
立地的に治安も問題なさそうだし、馬車を出す大通りまでも直ぐだ。井戸も手押しポンプが残っていてそのまま使えそうな感じだ。
「あの空地は所有していた商人が手放して売りに出ていたはずですね。隣が宿屋街なので泊まっているガラの悪い冒険者を嫌ってあまり借り手の付かなかったアパルトメントが立っていたはずですが」
まあこちらも冒険者だ、ガラの悪い冒険者は気にしなくてもいいだろう、むしろ住宅街の方に気を使いそうだ。
「冒険者の方と伺っていましたが、不動産運用でも始めるのですか?」
「どういうことです?」
「土地を買うとなると、あのくらいの土地でも取得するのに概算でも白金貨10枚はかかるでしょう。それに建物所有税もかかります。不動産運用は商人が何代もかかって利益を回収する事業ですよ」
なるほど、それで賃貸が一般的なのね。これは作戦の練り直しだなぁ
俺達は『星屑亭』で夕飯をとりながら再びの作戦会議をしていた。
「市壁外に家をたてようぜ、それなら土地は只だろ」
「建物所有税もかからないしなぁ、家を建てるだけなら金貨30枚程度らしいしな」
「金貨30枚を程度と言えるくらいには僕達の金銭感覚もおかしいね」
「とはいえ、白金貨10枚からは大金ですね」
「市壁の外なら井戸も掘ってもらわないとだなぁ」
「それに治安も心配だね」
「大手クランなら腕自慢ばかりだろうから心配なさそうだが」
「管理人を住まわせておくと言うのはどうでしょう」
「管理人を雇うならメシが美味いのがいいぞ」
「冒険者相手の勝手が分ってるといいね」
「…やっぱりユウト達出て行っちゃうんだ…」
いつもまにか俺達のテーブルの傍にいたエリルがつぶやくと、走り去っていく。
「なあ、管理人にエリルを雇わないか」
「ユウト、市壁の外の家でエリルのような子供に留守を任せるのは無理だよ」
「なら、市壁内の土地を買おう。どうせ俺達の飯や洗濯なんかの身の回りの世話を任せられる人間は必要だし。エリルなら冒険者相手の勝手も分かってるし、付き合いも長いから信用して家を空けられるだろ」
「あいつ、エリルの事になると急に早口になるよな」
「ユウトなりにエリルの事を気遣っているんだよ、バルト」
「このロリコンどもめ!」
「えーい、ロリコンちゃうわ」
「僕もロリコンじゃないよ」
「お金の問題さえ解決できれば、エリルさんの件も含めて良い考えだと思いますが…」
「金さえ解決すればいいんだな?」
「またユウトが無茶をしそうな気がするね」
「自覚は…ある…」
・・・・・・・・・・
次の休みの日、俺は錬金術師ギルドのヒルデガード婆さんを尋ねていた。
「で、金を貸してほしいと…」
「マジックバッグの時に借りた金も返してないのに、こんなことを頼むのは気がひけるんだが」
「いいさ、土地代に建築費、生活に必要なもの一切合切合わせて白金貨20枚まで都合してやろう。年利は2%の単利だよ」
「ありがたいけど、なんでこんなに良くしてくれるんだ?」
「ゲーランの錬金術師ギルドから伝わってるよ、どうせマジックバッグで白金貨250枚も貸したんだ。借りた金額が大きくなると借り手の方が強く出れるってもんさ」
「そうなのか?」
「それはともかく、錬金術師ギルドとしては、ユウトお前さんを囲い込んで置きたいのさ。色々思いつくからね。研究アイデアの対象としても手放したくないってのが本音さね」
「それで借金させて、依存させようと?」
「分ってるじゃないか。そう言う事だ、だから借金を返すためにじゃんじゃんアイデアを出しな、権利料で儲けさせてやるよ」
「そう言う事なら世話になる」
「紹介状を書いてやるから支払いは錬金術師ギルドにツケておきな」
・・・・・・・・・・
「結局、錬金術師ギルドに借金するんだね…」
「今、総額どのくらいの借金があるんですか?」
「あんまり考えたくないな!」
「現実逃避してやがる」
「まあ、そう言う訳で女将さんと話してくる」
俺は『星屑亭』の女将さんと厨房で話をすることになった。
「で、エリルを家の世話を任せる管理人として引き取りたいと」
「そうです」
「ちゃんと養ってやれるんだろうね?」
「毎日、銀貨1枚のお給料を出そうかと。もちろん食材とか諸経費は俺達が負担しますんで」
「剛毅だねぇ、あたしを雇わないかい?」
「えーまーそのー」
「冗談だよ。はあ、エリルはそのうち養女にして婿を取らせて、宿屋を継がせるつもりだったんだがねぇ…」
「すいません」
「だけど、ユウト達は冒険者だろう?いつ死ぬかも分からない。その時エリルをどうするつもりだい?」
「俺達が死んだら土地はエリルの物になるように手続きしようと思います。売り払うなり、残った家を生かして他の冒険者を住まわせるなり出来るかと」
「だ、そうだ。エリルはどうしたい?」
聞き耳を立てていたのだろう、エリルが厨房に入ってくる。
「あたしは…ユウト達と暮らしたい」
「しょうがないねぇ。ユウト、エリルを泣かしたら承知しないよ」
「それはもう」
「よろしくね、ユウト」
「ああ、よろしくだエリル」
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