46.馬車を改良しよう
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作者は馬車や車に詳しくありません。矛盾などありましてもご容赦ください。
山賊を殺したことを意識しないようにしていたのか、俺達は無意識に、連日依頼に精を出していた。
「流石にオーバーワークだろ」
「そうだな」
「少しは落ち着いたしね」
「私達も成長したのだと思いましょう」
「少し整理する必要があるな」
俺達は護衛依頼を受けて村を巡回して、帰りに村からの収穫物納品を請け負うと商会に収穫物を納品する。翌日討伐依頼を受けて、その行きがけに収穫物納品の代金を渡していたりした。
そして討伐依頼が済んだらまた護衛依頼の繰り返しだ。
「ちゃんと休みを入れようぜ」
「護衛依頼の間は休めないけど仕方が無いね」
「村への代金を渡しに行くのが手間ですね」
「行商人の護衛は、大体午前中に終わるんだが午後に代金を渡せればなぁ」
「納品を済ませて、2,3の村を半日で回るのは無理だね」
「やっぱりそうかぁ」
「馬を増やすか?」
「二頭立てにすると言う事ですか」
「ああ、速いし半日なら馬を休ませなくてもいけるだろ」
バルトが珍しくまっとうなアイデアを出している。
「なるほど、二頭立てなら帰ったその日の内に代金を渡しにいけるか」
「やってみるかい」
「そうだな」
・・・・・・・・・・
「だああぁぁ」
「横転しそうだよ!バルト」
「神様、私達を護り給え」
二頭立ての馬車は確かに速い。だが、速い分だけ曲がるのが難しいのだ。何故かって?俺達が使っている馬車は一本の車軸の両端に車輪がついている。それが前後にあるだけの四輪。自動車のように車輪が向きを変えたりしないのだ。つまり曲がるのは馬の力で強引に曲がっている。
「なんとか考えないとその内、事故を起こすな…」
ゴトゴトと馬車に揺られながら、馬車の構造がなんとかならないか俺は考えていた。今は村の巡回行商人の護衛依頼の最中で移動はゆっくりだ。この速度なら無理やりまがっても大丈夫なんだけどな…
左右の車輪が連動して同時に回るから無理やり曲がるしか無いんじゃないか?もし4つの車輪が独立して回転できればその場で旋回だって出来るんじゃないか?
インターネットで『馬車』『4輪独立』『回転』と検索してみるが、『検索結果はありません』。うーん、バルトが大怪我した時に思ったが、インターネットで検索できるのは、異世界の知識だけで、元の世界の事は検索出来ないんじゃないか?異世界に来たばかりの時はお約束で薬草採取して日銭を稼いでいたけど、少し考えてみるか。
マヨネーズは乳化しなかったな、もしかしたら物理現象自体も違うのかもしれない。『輸血』で検索しても分らなかったし、この世界では医療は発達してないのか?『輸血』自体が存在しないのかもしれない。
それに『造血ポーション』の事も良く分からない。初めて作った時は名前が分らなかった。それなのに、次の日に俺が名前を思い浮かべたら『造血ポーション』と名前が付いた気がする。
しかし、よく考えたらこんな便利な能力が知れ渡ったら俺を利用しようってヤツも出そうだな…今後もこっそりインターネット検索を使う事にするか。
なんとか確保できるようになった休みの日に、そんな事を思いながら手を動かし模型作りに精を出していた。
「何か作っているの?ユウト」
「馬車の…模型ですか?」
「へたっぴだなユウト、左右の車輪の位置がずれてるぞ」
「まあ、見てくれ」
俺はそう言って馬車をひっくり返して車軸側を見せる。車軸が4本あるが、車軸には車輪が1つしか付いていない。その4本が前軸に2本、後軸に2本配置され4つの車輪が前後左右に一応均等らしく配置されている。
「なんで車軸が4本もあるの?」
「4つの車輪を独立して回すためだ。こっちが前に作った車軸2本の一般的な馬車」
2つの模型を見せながら説明する。
「独立して回ると何か良いことが有るのか?」
「多分、曲がりやすくなる…と思う」
2つの模型を手でカーブさせながら実演してみせる。
「うーん」
「確かに滑らかに曲がっているようですね」
「車軸が4本もあると折れた時に大変だね」
「そうだよなぁ。まあこれ以上は俺には無理だ。次の休みに錬金術師ギルドに持ち込んで鍛冶師ギルド辺りに渡りをつけてもらうさ」
「大きなシノギの匂いがするな…」
「バルト、いつの間にフリーメイソンに入ったのさ?」
・・・・・・・・・・
「なるほどねぇ面白いじゃないか」
次の休みの日、さっそく錬金術師ギルドに行くと、ヒルデガード婆さんに面会して2つの模型を見せて説明する。
ヒルデガードの婆さんが手で動かしてみてカーブさせている。
「模型じゃ上手くいくんだけどな。実際の馬車で上手くいくか分らん」
「大丈夫さ、鍛冶師ギルドにこの模型を持ち込めば目の色を変えて考えるさ」
その日の午後、さっそく鍛冶師ギルドのギルド長に渡りをつけたヒルデガード婆さんに連行されて、鍛冶師ギルドでも模型を使った同じ説明をさせられた。
なお、この車輪の構造について『誓約の奇跡』を使って契約で縛ったのは言うまでもない。
・・・・・・・・・・
「出来たぞ。ついでにサスペンションも付けといた。後シートベルトは標準装備だ!」
1ヶ月した後、鍛冶師ギルドのギルド長アルフレドが『星屑亭』に乗り込んで来てデカい声で言う。この赤ら顔で団子鼻の頑固そうな爺さんはとにかく声がデカい。まあ、槌音で喧しい鍛冶場で働いてるからだろうが、可哀想にエリルがおびえて耳を押さえてプルプル震えているじゃないか。
「ギルドに停めてあるから今から見に来い!」
「分ったよ。アルフレド爺さん」
俺達4人はそろって鍛冶師ギルドに連れていかれた。
「来たかいユウト、まってたよ」
ヒルデガード婆さんも先に来ていた。あんたらギルド長の癖にフットワーク軽すぎじゃないですかね。
馬が1頭つながれ、テストの御者なのだろう、全身モコモコの服を来て兜をかぶった人が御者台に登った。
「上手くいってるようだねぇ」
「俺達が作ったんだ上手くいくにきまってるだろ!」
アルフレド爺さんが自信満々だ。
しばらく御者が色々な挙動をさせては、技術者連中が車軸やサスペンションを覗き込んで問題が無いか確認している。俺達も馬車の下を覗き込んでいる。なるほど、接地しない側には小さな車輪がはまっていて車軸が抜けないようにストッパーになってるのね。
「問題ないぞ!さあ持っていけ!」
アルフレド爺さんがそう言うが俺達には馬車を置く場所が無い。それどころかアイデアは出したが馬車を買う事までは考えいなかった。
「俺達、馬車を置く場所が無いんですけど」
「知らん!なんとかしろ!」
「それに馬車を買うことは考えて無かったぞ」
「それなら問題ない!後はコイツに任せた」
鍛冶場にある事務所から1人の女性が現れた。
「鍛冶師ギルドの事務官ノーラです。事務的な事はお任せください」
「ノーラさん、俺達はアイデアは出しましたが馬車を買うまでは考えて無かったんですよ。置き場所も無いですし」
「置き場所はともかく、馬車の代金についてはいただきません。レンタルいたします」
「はあ…」
「それで、『光の翼』の皆さんには使用感を言っていただいて次の改良に組み込みます」
「なるほど」
「改良した新型はまた皆さんにレンタルいたします。もちろんメンテナンスも鍛冶師ギルドで負担します。耐久性も調べなくてはいけませんからね」
「そうですか」
「よかったじゃないか、ただで馬車が手に入って」
ヒルデガード婆さんが無責任に言ってくる。
「馬車代は助かったが、置き場所はどうするかなぁ」
「冒険者ギルドで預かってもらったらどうだい?それなりの場所があるんだろ」
「副ギルド長のアンドルーさん、相談に乗ってくれるかなぁ」
とりあえず、馬車は鍛冶師ギルドにおいて冒険者ギルドに相談に行く。本当に困ったときの受付のお姉さんですまない。
「相談したいことが有ってですね。冒険者ギルドで馬車を預かって欲しいんですけど」
「…少々お待ちください」
受付カウンターの奥のアンドルー副ギルド長の執務室に通される。
「馬車を貸すのは通常業務だが、馬車を預かるとは思ってなかったぞ」
「すいません」
「まあ良い。馬は借りていくんだろう?」
「お願いします」
「分かった冒険者ギルドで馬車は預かろう」
早速、馬を借りて鍛冶師ギルドから冒険者ギルドに馬車を移した。流石に街中でいきなり走らせる度胸は無かったので手綱を引いて歩いて俺達は移動した。狭い街中でもするする曲がれるところを見るに、当初の目的は達成できたようだ。
「少し早い気もするが、君達は家を借りた方が良い気がするな。馬小屋と馬車置き場の付いたそれなりの家を」
アンドルー副ギルド長にそうアドバイスされてしまった。
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