45.山賊殲滅
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更新は基本的に毎日10:00前後です。
今回の更新はもう少し早めにやっておくエピソードだったかなと反省しています。
「村からの収穫物の納品を請け負わせておいて、ほったらかしじゃあ行商人の名が廃る」
カラドの街についたブライアンさんはそう言って、俺達が収穫物を商会に納品するまで付き合ってくれた。
いつもなら野菜が傷んでいるんじゃないかとかケチをつけられて、値段交渉から始まるそうなのだが、こちとら時間停止付きのマジックバッグで運んでいる。朝摘み野菜がそのままの鮮度でお届けだ。
ブライアンさんに言わせれば、門外漢だが通常より良い値段がついてるのでは?と言われた。
実際、収穫物の代金を村に納めに行くと、いつもより良い値段で買い取ってもらっていると言われた。木箱2箱の少量依頼だったが、おまけして銀貨1枚の納品依頼の報酬をもらったくらいだ。今回はお試しだったが、村長さんから次からは馬車で運ぶくらい頼みたいと目の色を変えて言われた。
それから、俺達は懇意にしている行商人から次々に指名の護衛依頼を受け、行きは肥料、帰りは収穫物の納品を請け負って忙しく飛び回っていた。
・・・・・・・・・・
そんな時だった。行商人のハンスさんの護衛で村の間を移動している時だった。ついに山賊に襲撃されてしまった。
「警戒!山賊だ数が多い」
危険を察知したバルトがハンスさんに叫ぶ。山賊は山から下ってくるようで、ハンスさんを街道の山側から離して停車させると。俺達は馬車を降りて山賊を迎え撃つ。
「ハンスさんを先に逃がしたらどうかな?」
「いや、伏兵が居たら襲われる危険がある。目の届く範囲に居た方が良い」
「バルト来るぞ!」
俺の目でも森の木々の合間から、山道を駆け下りてくる山賊の姿が確認できる。
「ギルベルト『フラッシュバン』だ!数を減らせ。近づいたら『スリープクラウド』。混戦になるまでに出来るだけ数を減らしてくれ。その後は弓で援護だ。
ユリアは『鼓舞の奇跡』『守護の奇跡』。混戦になりそうになったら相手の数に応じて『軽歩の奇跡』。状況をみて近接戦だ。
俺は手ごわそうなのを抑える。ユウトはとにかく手当たり次第に潰せ。
ハンスさんに近づかせるなよ」
「「「了解」」」
「『勇士の魂を顕し給え』『アテナよ堅固なる盾を授け給え』」
ユリアが支援をかけてくれて山賊相手でも気持ちが萎えず、戦意が高揚する
山賊は山道を下りきる寸前だ。ギルベルトの『フラッシュバン』が木々の中に飛ぶ。音の問題は解決して俺達には轟音は聞こえないが、木々の隙間から閃光が見える。
「ぐあっ」
「ぱぎゃっ」
山道を走って下っていた山賊が『フラッシュバン』で昏倒して、勢いのまま木に激突している。ありゃ何人か死んだな。
『フラッシュバン』から逃れた山賊の後続が何人か街道に姿を現わすが、続いて発動させた『スリープクラウド』でバタバタと倒れてその場で眠りこける。
それでも8人程が肉薄してきた。さらに木立の中に2人射手がいる。
「『アイシクルランス』」
隠れている射手にギルベルト特製の改良版『アイシクルランス』が飛ぶ。木立から悲鳴が聞こえてくる。あれは命中はしなくても余波で凍り付いたな。残りの1人も木立のなかでは不利と判断したか姿を現わし、走りながら弓でギルベルトを狙う。
「手ごわい!混戦に巻き込め!」
山賊の1人が叫ぶ。冒険者くずれか、とにかく指揮のとれる頭領がいるようだ。バルトが即座に頭領に向かって突進する。大盾を叩きつけ体勢を崩させると剣を叩きつける。普段、大物相手には防御に専念して普段は剣を使わないがバルトの重い剣が山賊頭領の鉈を腕ごと叩き切り無力化させる。
山賊たちは早くも戦意を喪失して逃走しようとするが、身体強化で駆ける俺とユリアからは逃げられない。次々と山賊を打ち取っていく。
ギルベルトも弓に持ち替え、早々に射手を射貫くと続いて遠間の山賊を射貫いている。
多少数が多くても、魔熊だって相手にした俺達だ山賊ごとき、奇襲さえさせなければ敵ではない。
『スリープクラウド』で眠っているヤツを2人、俺とバルトで蹴り起こすと山賊の死体を山の中に捨てさせる。もちろん反撃できないようにギルベルトが死体を運ぶ山賊を油断なく弓で狙っている。
俺とバルトとユリアがまだ息のある山賊、眠りこけている山賊、『フラッシュバン』の衝撃でまだのたうち回る山賊に止めを刺していく。そして、生かしておいた山賊に運ばせ続ける。
『鼓舞の奇跡』の効果が切れてきて精神的に辛くなってくる。バルトに目配せすると同じ気分のようだった。
「ユリア、もう一度『鼓舞の奇跡』を頼む」
「はい。『勇士の魂を顕し給え』」
ユリアも戦闘が終わっているのに何故とは聞かなかった。
最後に生かしておいた山賊を剣と槍で脅して、バルトと俺は山の中に入っていく。死体を運び終わった生き残りを始末しなくてはならない。せめてもの慈悲にそれぞれ一撃で止めを刺す。
山の中から戻った俺達をギルベルトとユリアがむっつりと黙って出迎える。
「…その、大丈夫かね?」
ハンスさんが心配気に尋ねてくる。たぶん色んな意味を含んでいるだろう
「大丈夫です。山賊どもは殲滅しました」
俺達を気遣う気持ちは、敢えて無視したのだろう。バルトが固い声で答える。
正直に言えば、精神的にはかなり辛い。だが依頼人の手前、弱いところは見せられない。弱い護衛の冒険者では指名の護衛依頼は出されない。冒険者はタフでなくてはならない。ましてや俺達はCランクを目指すのだ。俺達は自分に言い聞かせて、次の村に移動した。
さいわい、次の村がハンスさんの巡回の最後の目的地だった。現地での空き時間に討伐依頼などは受けなかった。考える余裕が無くて交渉したりするのが億劫だったのだ。俺達は薬草採取する事に没頭して、考えないようにしていた。
その後も定期的にユリアに『鼓舞の奇跡』を使ってもらう。戦意が高揚して眠れなくなるが、心が折れそうになるよりマシだった。
何とかハンスさんをカラドの街まで護衛して依頼を完了すると、冒険者ギルドで報告をして報酬をもらう。村からの収穫品の納品は明日にしよう。そう思って冒険者ギルドを出ようとすると、副ギルド長のアンドルーさんに呼び止められた。
「経験してきたようだな…冒険者の顔になった」
俺達はよほど張り詰めた表情をしていたのだろう。
「慣れろとは言えないが、気にするな。帰ってゆっくり休め」
アンドルーさんに言われ、『星屑亭』に帰り着くと、いつものように女将さんとエリルが出迎えてくれる。
いつものようにただいまも言わず、固い表情で立ち尽くしている俺達を怪訝におもったのかエリルが俺に駆け寄ってきた。
「ユウトどうしたの?どこか怪我したの?」
俺は駆け寄ってきたエリルを思わず抱きしめていた。
「うっ…くっ…」
涙が滲んでくる。エリルが目を白黒させているが、そんな俺とエリルの上からみんなも覆い被さって抱きしめて涙を堪えている。
やっと俺達はいつもの日常に帰ってきた気がした。
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