44.輸送業
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タイトル元に戻しました。混乱させてしまいまして申し訳ありません。
総合評価が600ptを越えました。ご愛読ありがとうございます。
「輸送業ですか?」
「なんだ?それ」
「荷物を運ぶのだけを専門で請け負うんだ。俺達だけなら自衛できるから護衛は要らないし、マジックバッグが有れば重さが無いから一頭立ての馬車でも速度が出せる。だから移動も早い」
「でもマジックバッグはユウトの物なのに僕達まで報酬もらってもいいの?」
「俺1人でそんなことしても山賊に囲まれて終わりさ、みんなで戦えるから成り立つのさ。みんなで稼げるなら、みんなの懐も温かくなって良いだろ」
「…ユウトがそう言うなら良いけど」
「ここはユウトに甘えさせてもらおうぜ」
「バルトさんは装備を買いなおしたので、パーティ貯金から借金もありますしね」
「それは言ってくれるなユリア」
「まあ、そんなのもひっくるめてだ。みんなで幸せになろうよ」
「分ったよユウト、ありがとう。でも伝手はどうするの?護衛依頼の度に行商人に交渉するの?」
「いや、商業ギルドのトマーゾさんを頼ろう。ギルド長だから口利きをしてもらえるよう掛け合う」
「いつの間にそんな人脈を…」
「シートベルトを作った時にね。シートベルトの作成を頼んだ職人が工房を首になりそうになってたんで、利権に一枚噛ませる代わりに職人を支援してもらった」
「じゃあ、この護衛依頼が終わってカラドの街に帰ったら相談するんだね」
「そう言う事」
・・・・・・・・・・
「お前等じゃ無理だな」
マジックバッグを使った輸送業のプランは、トマーゾさんにバッサリと切り捨てられた。
「大体だな、なんで護衛を雇って危険を冒してでも、商人が足を使って荷物を運ぶと思う?」
「「「「…」」」」
「分らないようだな、売れ筋の商品は何か?目利きってものがある。商才が必要だからな。お前等に荷物だけ運ばせて終わりじゃないんだよ」
「でもトマーゾさんの様な大商人なら、毎回商隊を組んで足を運んでる訳じゃないんでしょう」
「確かにな、各街の支店に信頼出来る部下を置いてそいつに時流を判断させてる」
「なら!」
「だがな、支店を持たないような荷馬車一台の行商人は自分の目利きが全てだ。他人に任せるような事はしない」
「ならば、支店を持つような商人相手ならどうです」
「それにはお前達の信頼が足りない。おっと待て、個人的には信用してるさ。だがな、お前達は冒険者としてはDランクだろう?価値のある荷物を預けて変な気を起こして荷物を持ち逃げされたらどうする?それにお前達が道中襲われて荷物を奪われたりしたら誰が責任をとる?
客観的で社会的な信用ってものがお前達には足りないって事だ。『明けの星』とまではいかなくても、せめてCランク冒険者ならな…」
返す言葉が無かった。
「それにな、金の受け渡しの問題がある。ある程度の規模の商人なら協会がやっている銀行業を利用しているからな。お前達に金を扱わせずに銀行を介して金のやり取りができるが、行商人は直接金をやり取りする。他人の金を預かる覚悟があるか?」
ダメ出しだらけだった。マジックバッグを持ったところで、所詮素人の思い付きじゃだめなんだろうか。
「なんなら冒険者なんか辞めて俺の商会に入らないか?お仲間も専属護衛として一緒にだ、稼がせてやるぞ」
トマーゾさんが俺達を挑発するように言った。
「なんっ!」
「俺達にも成りたいものがあります」
トマーゾさんの挑発に、思わず撃発しそうになったバルトを遮って俺は言った。
「成りたいものに挑戦もせずに冒険者を辞める気はありません。それに金を稼ぐことだけが目標ではありません」
大鹿の肉に沸き立つ村人を見つめて、英雄になりたいと言ったバルトの姿が思い出される。目に力を込めて、俺もトマーゾさんの目を真っ直ぐに見つめる。
「良い目をするじゃないか。本当に商人にならないか?」
トマーゾさんが表情を和らげて言った。このおっさんは隙あらばこっちを試すような事をするから油断ならない。
「分かった。お前達がCランクになったら他の商人に紹介してやろう。まずは行商人に口を利いてやるから、まずは行商人に護衛として同行して荷物持ちから始めるんだな。荷が軽くなればそれだけ早く遠くまで商売に行ける。さしあたって肥料運びからやったらどうだ?」
「肥料ですか」
「そうだ、あれは重くてかさばる割に儲からない。まあ農耕地に運ばず放っておいても役に立たないから、領主から半ば義務的に村に格安で販売するように指示されている。マジックバッグで運んでくれれば行商人が空いた荷台で付加価値の高いものを運べる」
「分かりました。それから始めます」
「そうしろ、ところでCランクになって他の商人に紹介してやったら、稼ぎの何%を紹介料としてよこすんだ?」
こんどは完全に俺達をからかった表情になって言ってくる。
「それまでに相場を考えて、Cランクになってから交渉します」
「悪くない答えだ」
俺達はトマーゾさんの口利きで行商人の護衛依頼を指名で受けるようになった。
・・・・・・・・・・
「今回もよろしくな」
俺達は何回も護衛依頼を受けたことのあるブライアンさんから、護衛依頼を指名で受けていた。トマーゾさんの口利きだ。
「よろしくお願いします」
「肥料は君達が運んでくれると聞いている。肥料以外の荷は商業地区に置いてある荷車に準備済みだ」
「肥料はどこで受け取りましょう」
「こっちだ付いてきてくれ」
俺達は落ち合った冒険者ギルドから、ブライアンさんに案内されて『肥料公社』の街外れの倉庫に案内された。
「『肥料公社』ではゴミやクリンスライムから肥料を作り出して集積している。その倉庫がここだよ。領主様の指示で運営されていてね。行商人が村に行くときには規模に応じて運搬販売を指示されている。僅かだが補助金も出る。だけど、重くてかさばるからあまり歓迎されない商品だね。なにせ体を壊しかねない」
ブライアンさんが腰をたたく。確かに重そうな麻袋が山のように積まれている。
「どのくらい、運びましょうか?」
「私の割り当ては30袋だが、運べば運ぶほど利益になる。今回は60袋受け持っているが、大丈夫かい?」
少し不安そうに確認してくる。
「大丈夫です。任せてください」
俺はマジックバッグを開けると肥料袋を次々に収納していく。
「たいした物だな…重くはないのかい?」
ブライアンさんが呆気にとられている。
「重さはありません。なんならもっとでも大丈夫です」
「今回は60袋で申請してあるから、これでいい。それじゃあ出発しよう」
「はい。分かりました」
俺達の馬車にブライアンさんも乗せると、商業地区に寄ってブライアンさんの馬車を拾うと馬車2台連れ立ってカラドの街を出発した。
・・・・・・・・・・
昼食休みを取りながら話していると。
「これは良いね。肥料の代わりに農機具をいつもより多く運んでいるが、それでもいつもより随分荷台が軽い。おかげで馬を休ませる頻度が少なくて済む」
「そうでしょうね。ブライアンさんからも他の行商人の方に宣伝してもらえると助かります」
俺が営業をかけてみると。
「いっその事、独占したい気分だけどね。分ったよ。『光の翼』を宣伝しておこう」
ありがたい言葉だった。
行商自体は行程にゴブリンの群れに出くわしたくらいで、俺達が簡単に殲滅した。前にも巡回した村に行くと、肥料も卸す。
「ところで肥料を売ってしまえば君達は、空荷になってしまうのだよね」
「そうですね」
「行商人は空荷でもどると効率が悪いから村で何か仕入れて戻るのだが、君達は何か村から荷物を請け負ったりはしないのかい?」
「それは考えていませんでした。何か村から運んでもらいたいものがあれば、もちろん請け負いますが」
「そうか、今夜村長さんの家に泊る時に相談してみようか」
そう言うと、ブライアンさんは露店の準備にとりかかり、俺達は臨時で村から受けた猪退治に向かった。
夜になって村長さんのお宅で夕飯を御馳走になっているところで、ブライアンさんが村長さんに切り出す。
「私の護衛の『光の翼』ですが、村から街へ荷物を運ぶのも請け負っていましてね。野菜や燻製肉の納品を任せてはどうです?」
「ワシらとしても収穫物を運ぶのを任せられるなら、街へ納品に行く若者の手間を減らせるし、襲われる危険も減らせるから良いが…」
「代金の受け渡しですね」
「そうだな…村の人間ならともかく、冒険者に任せるのは少々不安だな」
「確かにそうです。ですが、彼等は誠実ですよ。何回も護衛を任せていますが安心して任せられます」
「そうですね『光の翼』には以前、家畜を襲う狼を退治してもらった事がありますし、ブライアンさんがそう言うなら…」
結局、信頼を得るなら地道に実績を積むしか無いのだろう。トマーゾさんが行商人相手から始めろと言ったのもそう言う事なのかもしれない。
「では収穫物を納品した代金は、後日に俺達『光の翼』が納めに来ます。納品依頼の報酬は代金を納めに来た時にもらいます。これで良いですか?」
俺はパーティを代表して言った。
翌日、朝早くに村長の指示で燻製肉や野菜を少量木箱に詰めたものが2箱用意された。
「これをオズウェル商会に納品してください。これが紹介状です」
村長さんが書いた紹介状を受け取る。
「荷物を預かります。代金はそうですねこの護衛が終わってからになりますから、そうですね一週間後くらいに渡しに来ます」
俺達はその後、ブライアンさんに付いて2つの村を回ったが、両方でブライアンさんの口利きで両方の村からのお試しに少量の納品依頼を受けた。
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