43.マジックバッグ
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頂いたレビーのフレーズを活かしてタイトルを変更してみました。
俺達は慎重にバルトの様子をみながら依頼のランクを上げていったが、1ヵ月もすれば完全に元の調子に戻っていた。
とは言え、無策でまた魔熊なんかと戦うのは御免だった。なにか安全に稼げる方法を探さねば。そう考えながら俺達は少し長い護衛依頼を受けていた。
以前、Dランク昇格試験でも受けたトマーゾさんの商隊の護衛だ。今回は俺達を含むDランクパーティ3つが護衛についての行程だ。
途中、ゴブリンの襲撃を受けたりもしたが概ね問題もなく。隣り街のゲーランに着く。久しぶりのゲーランの街。前回同様2日の滞在だ。
「オークションを見てみたいんだが、みんなはどうだ」
「俺も見たいな」
「僕も」
「私もです」
「じゃあ、行ってみるか」
以前ジェフリーさんに案内してもらったオークションに行ってみる。前回は出品予定の下見だけだったが、今回は明日がちょうどオークションだそうだ。なにか掘り出し物がないか見ているとギルベルトが驚きの声を上げた。
「ユウト!マジックバッグが出品されてるよ」
「マジか!」
『明けの星』でも一つしかないと言っていたマジックバッグ。これがあるだけで随分冒険が楽になるという。絶対に欲しい一品だった。
「馬車2台分の容量ってとんでもないぞ」
「予想落札価格もとんでもないよ」
「それに時間停止の魔法がかけられてるそうです」
「何々、白金貨200枚って白金貨ってなんだ」
「白金貨1枚で金貨100枚だよ。金貨20000枚分…」
「俺達じゃ手が出ねーよ」
「そうですね…」
いや、これが有ればもっと楽に安全に稼げるに違いない。金を何とかできないか…錬金術師ギルドで溜まってる金でも足りないだろうが…いや、そうでもないか?
「悪い、俺はこれから錬金術師ギルドに行ってくる」
「いきなりなんだ?」
「ちょっと金策にな」
「本気で落札する気なの?」
「無理ですよ」
「まあ、やるだけやってみる」
俺はゲーランの街の錬金術師ギルドのギルド長、パトリックさんに会いに行った。
「パトリックギルド長に相談がしたいんですが、会えないですか?」
「少々お待ちください」
待たされる事、数分。パトリックさんの執務室に通される。
「今日はどういった御用向きで?お支払いするお金も相応に増えていますが」
「今日は借金をしに来ました。オークションでマジックバッグを見かけてぜひ欲しいのですが、とても手が届きません。力を貸してください」
「ふむ、予想落札価格は如何ほどでしたか?」
「白金貨200枚」
「さすがに錬金術師ギルドといえど右から左へ準備できる金額ではありませんね」
「無理ですか」
「ですが、他ならぬユウトさんの頼みです。低級マナポーションで定期的な利益も出ていますし、錬金術師ギルドからお貸ししましょう。なに、現金でなくても錬金術師ギルドの名義で分割支払いにしましょう。以前もこの方法で素材を落札したことがありますので問題ありません」
「ありがとうございます」
「限度額としては、そうですね最大白金貨300枚分まで貸しましょう」
「そんなに上がりますか」
「オークションですから、競ってくると予想を上回ることも多々あります。絶対に落札したいのでしょう?」
「そうですね」
「金利は一年間で2%の単利でどうでしょう?錬金術師ギルドとしても限度です」
「白金貨200枚でも利息だけで白金貨4枚ですか…返しきれるでしょうか…」
「今後の低級マナポーションの売れ行き次第でしょうね、この一年でユウトさんにお支払いする額は、白金貨3枚にはなっています。それに新しいポーションも開発したとか?」
ず、随分稼いでるんだな俺。ちょっと冒険者辞めたくなるな。いや、バルト達を放りだして隠居する気なんて無いけどな。
「分かりました。お願いします」
「では明日のオークションに私も立会人として参加しましょう」
「お願いします」
マジでマジックバッグを入札できる金が用意できてしまった。気が付けば手汗がすごいことになっている。こんな調子でオークションは大丈夫だろうか。
・・・・・・・・・・
翌日になって俺達はオークションの会場に乗り込んだ。整然と並べられた椅子の一画を陣取り演台にお目当てのマジックバッグが出てくるのを待つ。
いくつかの品物が落札され、最後にいよいよマジックバッグがが出品される。
「こちらのマジックバッグはダンジョンで見つかった古代に作成された逸品でございます。時間停止の魔法がかけられており、収納したものは、いつまでも劣化しません。容量は馬車2台分に相当します。もちろん、物を収納しても重さは変わりません。それでは白金貨100枚から開始いたします」
競売人が説明を行い。オークションを開始させる。
「白金貨150枚」
いきなり吊り上げたのは俺だ。金額を刻んではかえって煽りかねない。
「…白金貨160枚」
「165枚」
予想通り、刻んできた。
「白金貨200枚」
俺はさらに吊り上げるが、白金貨200枚なら予想している金額だ。これで決まってくれ。
「白金貨205枚」
「…208枚」
「210枚」
「…213枚」
商人でも冒険者でも垂涎の品だ、誰もなかなか引かない。
「白金貨250枚!」
思い切って吊り上げる。頼む、決まってくれ。心臓はバクバク言ってるし、握った手に汗が気持ち悪い。錬金術師ギルドのパトリックギルド長は黙って頷いているが、これ以上は心臓とお財布に悪い。
「白金貨250枚でよろしいでしょうか」
「…」
オークション会場は水を打ったように静まり返る。
「それでは白金貨250枚です。錬金術師ギルドのユウト様おめでとうございます」
それまで詰まっていた息を吐き出す。バルト達も同様に安堵した息を吐いている。
「ユウトさん、おめでとうございます。それでは手続きに参りましょう」
パトリックギルド長が俺を先導してくれる。正直言ってもう立ち上がるもの億劫だがそうもいかない。ギルド長立ち合いの下、震える手で契約書に金額とパトリックさんとの連名で署名するとマジックバッグが俺の物になった。
見た目はポーション入れのポーチと大差ない。腰につけるポーチだが、これで馬車に2台ぶんの容量があるという。身に着けているだけで緊張する貴重品だ。
だが、それだけでは終わらなかった。
「ユウトさん、早速『誓約の奇跡』でマジックバッグの所有を縛りましょうか」
「所有ですか?」
「これだけの貴重品ですからね。盗難など気を付けなくてはなりませんよ」
「でも、誰と誓約するのですか?今回は相手が居ないと思いますが」
「神とですよ。その場合には宣誓する形で神に権利を守ってもらいます」
「神…ですか」
「宣誓の内容はあまり問われませんがね、『マジックバッグを悪用しない』程度でも良いのでは無いですか?取り締まりの対象の品物を運ぶのに、こんなに適している物は無いですからね」
「宣誓の重さで守ってくれる内容は変わってくるのでしょうか?」
「そうですね、重い宣誓の方が強く守ってくれると言いますね」
「分かりました。では、加えて『マジックバッグで得た稼ぎを独占しない』事にします」
「よろしいのですか?ユウトさんの物なのに」
「元々、パーティみんなで稼ぐ方法のために欲しかった物です。損はありませんよ」
俺は、『誓約の奇跡』で縛って。俺以外の者がマジックバッグを使用できない事、また俺の意に反して使用させられない事を神と誓約した。
「これで、安心してマジックバッグを使えますね」
「そうですね。ありがとうございます」
パトリックギルド長にお礼を言うと、俺達は宿泊している宿屋に帰ってきた。
「「「「…」」」」
まだ緊張でみんな言葉が無い。ようやくバルトが。
「とりあえず何か入れてみようぜ」
「持ち物で大きな物ね」
「テントではどうでしょう?」
「分かった入れてみよう」
俺は背嚢からテント一式を取り出すと、マジックバッグの蓋を開けて『入れ』と念じながらテントに触る。すると音もなく、にゅるんといった感じでテントがマジックバッグに吸い込まれていった。
「入ったな」
「ああ」
「重さはどうだい」
「変わらないな」
「出してみましょう」
「分かった」
マジックバッグに手を突っ込むと入っている者が頭に思い浮かぶ。テントを取り出すと念じて手を出すと入れた時の逆回しのようにテントが飛び出してきた。
「便利だね」
「そうだな」
「もう荷物は全部ユウトにもってもらうか?」
「最低限、保存食や水袋などは各人でもつべきでは?」
ユリアが至極真っ当な指摘をするとバルトは頭を掻いた。
「あと松明や毛布、最悪孤立したときの備えは各自で持つべきだね」
「まあ、それ以外は俺が持つよ」
「それでユウトは無理な借金までして、どうしてマジックバッグが欲しかったの?ただ荷物を軽くしたかっただけじゃないでしょ」
やはりギルベルトは鋭い。
「実はな、輸送業をやろうと思う」
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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