42.バルトの復帰
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「で、どうしてこんな大怪我することになったの?」
エリルがドアの前に仁王立ちになっている。俺達はその前に正座して並んでいる。なお、バルトだけは病み上がりのためベッドで寝る事を許されている。
この世界では16歳で成人、つまり19,18歳の俺達は立派な成人なのだ。それなのに、なんで12歳の女の子にたしなめられているんだろう…そんな趣味はないぞ。
「ユウト、なにか違う事考えているでしょ!」
エスパーか何かか君は。
「俺がただの熊討伐と思って依頼を受けたから…」
「僕がもっとしっかり魔物を拘束できたいたら…」
「私が迂闊に魔物を攻撃に出たから…」
「討伐なんかせずに薬草採取していれば…」
「「「いやその理屈はおかしい」」」
何故だ!?味方が居ない。
「もう!みんなちゃんと反省してるの?死ぬところだったんだよ」
エリルがまた泣きそうな表情になる。
コンコンッ!
ドアがノックされる音がすると、救いの神アランさんの声がする。
「入ってもいいかな?」
エリルが渋々といった様子でドアを開けると、アランさんに続いてジェフリーさんも入ってきた。
「バルトが大怪我をしたと冒険者ギルドで聞いてね」
「その割には元気そうじゃねぇか」
「昨日まで真っ青な顔で意識が無かったんだよ!」
エリルが唇を尖らせて抗議する。
「ま、まあ明日明後日とは言わんが、早めに討伐こなしておけよ」
「そんなのダメ!」
エリルがジェフリーさんに噛みつく
「いや、ちゃんとした理由があるんだ。大怪我をした後、雑魚でもいいから直ぐに勝てるイメージを取り戻すんだ。でないと恐怖で体が竦んで動けなくなる冒険者もいる。それで引退した冒険者も知っている」
イップスとか言うやつだっけか。アランさんが理路整然とエリルを説得している。
「それなら…」
良かった、エリルも納得してくれたようだ。
「それじゃあ俺達は帰るが、ちゃんと体を回復してからだぞ。バルト」
「了解ッス」
・・・・・・・・・・
「じゃあ、造血ポーションを昼飯の後に飲ませてやってくれ」
「分ったよユウト」
「すまんが行ってくるな」
俺は新たに2本作った造血ポーションの1本をギルベルトに渡すと、もう1本を持って錬金術師ギルドに向かう。やっつけで作ったから錬金術師ギルドでちゃんとした解析をしてもらいたかったのだ。
ヒルデガード婆さんの研究室に通されるとバルトが瀕死になった経緯から話を切り出した。
「新しいポーションを作ってなんとか回復したんだが、ぶっつけ本番だったんで本当に効果があって安全か確認して欲しいんだが」
「分ったよユウト、なんとも見たことの無い色のポーションだね。しかも成分抽出した触媒から作ったポーションかい」
「出来るか」
「あたしらを誰だと思ってるんだい?研究のためなら悪魔にだって魂を売る錬金術師だよ」
怖えーよ。そんな話初めて知ったぞ。
「まあ、それは冗談として確かに預かった。このポーションの権利も誓約しておこう」
「…分かった誓約する」
なんだかバルトの怪我で金儲けするようで気がひけるが、錬金術師ギルドが作成販売してくれれば、失血で死ぬ冒険者も減るだろう。
・・・・・・・・・・
「じゃあバルトの世話を頼むなエリル」
「分かったよユウト。任せて」
俺は造血ポーションの完成版を魔力の限度まで作ってエリルに渡して頼んだ。
錬金術師ギルドに造血ポーションを持ち込んだ翌朝、必須の材料や精密な魔法陣の構成まで判明した。有効性に安全性を確認されて本当に錬金術師ギルドは優秀だ。そのかわり、研究員がみんな寝不足に見えるのは気のせいだろう。
俺達はソポの村で魔熊を倒した後、依頼完了の確認ももらわずに帰ってきてしまったので事後処理に行かなくてはならなかった。バルトが居ないが事後処理だけなら行って帰ってくるだけだ。3人でも問題ないだろう。
「行ってくる」
「気を付けてね」
エリルに見送られて俺達は出発する。ソポの村には昼頃には到着するだろう。
やがてソポの村に着くと村長に出迎えられる。
「怪我をされた方は…」
「大丈夫だ。問題ない」
「それは、ようございました」
「ありがとう。今日は先日依頼完了の確認もとらずに帰ってしまったので改めて来た」
「そうですな、それからこちらを…」
村長は魔熊に弾き飛ばされたバルトの大盾と魔熊の魔石と毛皮を運ばせてきた。
「肉は傷むといけませんので村の皆で分けてしまいました。申し訳ございません」
「いや気にしないでくれ。盾や毛皮を回収しておいてくれただけ十分だ」
律儀な村長だ。なんにしてもバルトの装備が回収できたのは助かった。その後、俺達はカラドの街に夕方には帰還して冒険者ギルドに討伐依頼の完了を報告したが、副ギルド長のアンドルーさんに謝られてしまった。
「すまなかったな。討伐対象を見抜けなかった私たちのミスだ。バルトが助かって本当に良かったな」
「はい。回復してからですが、軽い討伐を受けようと思います」
「そうした方が良い。恐怖が染み付いてトラウマになる冒険者もいるからな」
アンドルー副ギルド長のアドバイスをもらって『星屑亭』へ帰りながら俺達は相談していた。
「バルトの鎧を買いなおさなきゃね」
「いっそのことパーティの貯金から貸しても良いだろう。復帰は早い方が良さそうだし」
「私もそう思います」
「ならワンランク上の鎧でも良いかな?」
「バルトの命には代えられないからな。いいと思うぞ」
「こういう時パーティ貯金をしておいて、本当に良かったと思います」
俺達はバルトの回復を待って武器屋『角笛の音』へバルトを連れて行った。
「親父、バルトの鎧を見繕ってくれ。鎖帷子も鎧下のキルトもダメになったから全部だ。鎧は予算内で一番良いヤツを頼む」
「分ったよ。ユウトが使っている革鎧と同じものが買えるからそれにしてやろう」
「頼む」
「おいおい、俺にどれだけ借金させる気だよ」
「命には代えられないと痛感したろ。これまで以上に装備に金を使えよ」
「利子は取らないから大丈夫だよ」
「私も少し強化できないか相談してきます」
親父には一緒に買い物に来るなと忠告されたが、やっぱりみんなでする買い物は楽しい。俺達は装備を整え直すと、翌日、上機嫌でゴブリン討伐に出かけた。
「体は少し鈍ってるが、鎧は軽いな」
バルトの調子は悪く無い様だった。むしろユリアが新しくした籠手やブーツに振り回されている。
「じゃあ、行くぞ」
以前と変わりなく、バルトの指揮でゴブリンを襲撃した。敢えて反省点を挙げるなら、ユリアのバルトへの支援が過剰すぎるくらいで、ゴブリンの群れを3つも叩くとバルトは感覚を取り戻したようだ。
「問題ない。いけるぞ」
バルトの表情は自信に溢れていて、俺達のリーダーが帰ってきたのだと、みんなで笑いあった。
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