41.生還
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「薬師は居ないか!」
カラドの街についた俺達は冒険者ギルドに駆け込み叫ぶ。すぐさまギルド職員がカウンターから出てきて、バルトの様子を確認する。
「外傷は完全に治療されているが血を流し過ぎたんだろう、傷がふさがっても意識が戻らずそのまま亡くなる時がある。後は彼の体力次第だ。とにかく宿で休ませなさい」
冒険者ギルドでも対処は無い様だった。俺はようやく失神から回復したギルベルトと2人でバルトを『星屑亭』の俺達の部屋に運び込むとベッドに寝かせる。
その様子を見ている女将さんもエリルも顔が青ざめている。
「ユウトの嘘つき…危険なことはしないって言ったのに…」
「…ごめんなエリル。今はごめん…」
「…」
ユリアはバルトの横に跪いて一心に神に祈りをささげている。ギルベルトは深刻な顔でバルトを見つめている。
神に祈りが通じたのだろうか?ユリアが顔を上げると。
「今、奇跡を授かりました!」
「バルトを癒せるの!?」
「分かりません。でもやってみます!」
『今一度立ち上がる力を授け給え』
ユリアが奇跡を行使する。バルトの顔から苦痛が抜けて僅かに安らぐが、直ぐに苦しい表情に戻る。
「そんな『賦活の奇跡』が効かないなんて…」
ユリアが呆然とする。
「一度は楽になったんだ。もう一度頼むよ」
ギルベルトがポーションのポーチからありったけの低級マナポーションを抜き出すとユリアに差し出す。ユリアが強く頷く。
おれも低級マナポーションをユリアに預けると、バルトを画像検索で詳細に観察する。
『状態異常:失血』
そんな情報が目に飛び込む。血が足りないなら輸血すればいい。急いで『輸血』と検索するが『検索結果はありません』。
ああ、もう!本当に肝心な時に役に立たないな!このインターネットは!!
「女将さん、厨房を貸してくれ!」
俺は返事も聞かずに階下の厨房に駆け込む。考えろ!失血状態なら血が足りないんだ!血を増やすにはどうすれば良い?普段なら肉食って鉄分とか摂れば良いんだろ!
『血を増やす方法』で検索。『検索結果はありません』くそっ!
俺はいつものポーション作成の要領で厨房にあった豚肉やほうれん草を鍋に放り込むと、骨髄で血が生産される様子をイメージを苦労しながら魔法陣に変換すると魔力を注ぐ。だが、出来上がったものを画像検索すると、『豚肉とほうれん草のスープ』としか表示されない。
「こんな時に料理ですか…」
『賦活の奇跡』を連発したのだろう。魔力を使い過ぎて疲弊したユリアが、水を飲みに来た。ユリアも余裕がないのだろう声に棘がある。
「バルトを助けるためだ…」
俺は意識して冷静な声を搾り出す。ユリアが厨房を出ていく。考えろ。もう魔力はポーション1本かそこら作るのがやっとだ。冷静になれ。
「…加熱するのがダメなのか?」
分らない。でも栄養素には熱で壊れる物もある。くそっ栄養学の知識なんてないぞ!成分だけ取り出せれば何とかなるのか?
「成分だけ?」
『これは成分抽出の術式の魔法陣さ。低級マナポーションを少しでも性能を上げられないか試しててね』
不意にヒルデガード婆さんの言葉が思い出される。成分抽出の魔法陣ならもらっていたはずだ。部屋にとって返すと、物入れをひっかきまわして成分抽出の魔法陣の描かれた羊皮紙を探し出す。
羊皮紙を掴んで厨房に戻ると、そこらへんの血肉に成りそうな物をかき集めて、成分抽出の魔法陣に乗せて魔力を込める。何かは分らないが赤黒い粉末が出来上がる。それを水に溶き、頭の中で魔法陣を意識する。『骨髄で血が作られるイメージ』自分の体の中で行われるそれを再現する工程を意識して魔力を注ぐ。
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■■ポーション
血液を増やす効果がある
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画像検索すると名前の分らない赤黒いポーションが出来ている。しかし血を増す効果はあるようだ。魔力の使い過ぎでフラフラしながら、なんとか階段を上がると部屋に入り。バルトの枕元に向かう。
「ユウト?それは?」
「もしかしたらバルトを助けられる」
「頼むよ…」
ギルベルトが祈るように言ってくる。
「バルト飲んでくれ…」
ギルベルトががバルトの頭を持ち上げ、俺が少しずつポーションを口に含ませる。ゆっくりだが1本分全て飲ませると。バルトの頭を枕に戻す。
みんなが固唾をのんで見守っている中、バルトの顔色がだんだんと良くなり呼吸も穏やかになる。誰かがため息をつくのが聞こえる。俺のため息だったかもしれない。
「効果が有ったみたいだね…」
「よかった…です…」
「ああ」
「ユウト、そのポーションはまだあるの?」
「いや、今の1本きりだ。作ろうにも魔力切れだ」
「追加が必要かもしれない。ユウトはもう寝て。バルトは僕が診ておくから」
ギルベルトが俺に眠るように頼む。魔力切れの俺に今出来ることは無いし、少しでも眠ってポーションを作れる状態にならなくては。
「すまんが、後を頼むギルベルト」
「任された。ユリアも眠るんだ『賦活の奇跡』がまた必要になるかもしれない」
「分かりました」
ユリアは部屋を出る。俺はほとんど意識を失うように眠りに落ちた。
・・・・・・・・・・
翌朝、快調とはいかないが魔力は回復している。バルトの様子をギルベルトに聞くと。
「大丈夫そうだよ、ポーションが効いたみたいだ」
呼吸も安定しているし、顔色も良くなっている。画像検索しても失血の状態異常が消えている。
「追加のポーションを作ってくる」
厨房に行くために部屋を出ると、ユリアと鉢合わせした。
「昨日は…ごめんなさい」
「ユリアも余裕が無かったんだろ、分ってる。バルトを診てやってくれ、ギルベルトも疲れてる」
「はい」
厨房で昨日と同じようにポーションを作る。血を作るのだから、造血ポーションとでも言うのだろうか?そう思いながら再び作ったポーションを画像検索してみると。
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造血ポーション
血液を増やす効果がある
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昨日は名前が文字化けしていたのに、造血ポーションと名前がついている。なんだこれ?分らないが今はどうでも良い。部屋に戻り、バルトに造血ポーションを飲ませる。
「…いき…てるのか…」
「「「バルト!」」」
バルトがうっすらと目を開ける。
「はは…みんな…助かった…みたいだな…」
「お前が一番の重症だよ」
「よかったバルト」
「助かって良かったです」
キィ…
鍵をかけていなかったらしい、ドアの方を見ると目に涙をためたエリルが立っていた。
「よがっだよーいぎでだー」
エリルが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしている。俺はエリルのそばに行くと、エリルの髪をポンポンと撫でる。
「女将さんに言って、うすーいスープを作ってもらえるか?」
「うん…みんな…おかえり!」
エリルが涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、向日葵のような笑顔を浮かべる。
「ああ、ただいま」
「ただいま」
「帰りました」
「ただいま…」
俺達は魔熊との戦いから、全員欠けること無く生還した。
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