4.初実戦と反省
翌日、薬草採取の依頼を受けて今度は森の浅い所まで入ることにした。道すがらバルトとギルベルトと雑談しながら群生地を目指す。
「へー、バルトとギルベルトは同じ村の出身なんだ」
「おう、ギルベルトは頭が良くて村の魔術師から魔法を教わったんだぞ」
魔法か、俺も使えるのかな?異世界人だから特殊な魔法の才能とか無いかな?オラわくわくしてきたぞ。
「バルトも村じゃ一番の剣の使い手なんだよ」
ギルベルトは口数は少ないが友達の自慢はしたいらしい
「そんな二人がなんで村から出て冒険者なんかに?」
「「…」」
「聞いちゃまずかった!?」
「いや…そんな事はないが、俺もギルベルトも農家の三男でさ、畑も継げないから…」
なるほど、切実な事情もあったらしい。どおりでベテランパーティに入りたがった訳だ。
「ユウトは立派な装備だけど本当に薬草採取だけで稼いだのか?」
バルトの疑問ももっともだ、俺はインターネットで調べて効率よく稼いだだけだからな。それでも素人の俺から見ても、バルトもギルベルトの装備は確かにあまり充実していないな。
防具は二人共、革の胸当てに手袋。武器は短弓にバルトが追加で小剣を下げてるだけだ。俺からすればそんな軽装で怖くないのか、感心してしまう。
「ああ、パーティ結成したときに言った通り薬草採取だけだ」
「薬草の群生地でも見つけたのか?」
「まあ、そんなところさ。ところでバルトとギルベルトはそんな軽装で大丈夫なのか?」
「ホーンラビットぐらいならこの程度で十分さ。接近せずに弓で倒せばいいしな」
弓ね…俺が使っても当たらないイメージしかないな。
「ゴブリンが出たら小剣で戦うのか?」
「いや…俺達もゴブリンは倒したことはない。追っ払ったくらいだ」
バルトが微妙に目をそらしながら答える。バルト達も実戦経験があると言っても駆け出しには違いないようだ。
「ユウトはどこの宿屋に泊まってるの」
ギルベルトが話題を変えるように聞いてくる。
「『星屑亭』だけど」
「「一晩銀貨1枚の宿屋じゃん」」
「良い宿なのか?」
「俺達の宿よりずっとな」
俺が泊まってるの宿屋は駆け出しの平均的な宿よりずっと良い宿だったらしい。
そうこうしている内に薬草の群生地に近づいてきた。
「そろそろ群生地に着くぞ」
「ユウトは本当に薬草の群生地を見つけるのが上手いんだな。まっすぐここに来たように思うが」
すまんな、インターネットで検索しただけなんだ。
「じゃあ、警戒のフォーメーションを決めるぞ。俺かギルベルトが警戒を担当している時は、もう一人がユウトと薬草採取」
「ユウトが警戒の番は僕かバルトが補助に付くわけだね」
薬草採取で稼げて、俺も仲間から戦闘技術を教わる。Win-Winって訳だ。二人に薬草の見分け方から説明して、早速採取に取り掛かる。
交代しながらしばらく薬草採取をする。しばらくして日が高くなったので昼飯を街の屋台であらかじめ買っておいた、銅貨1枚のホットドッグみたいなもので済ませた。
その後、俺とバルトが警戒を担当している時だった。
「いるな」
バルトが警戒を伝えてくる。茂みが揺れ、3匹のホーンラビットの群れが姿を現す。既に臨戦態勢のようだ。
「俺とギルベルトが弓で仕留める。ユウトは撃ち漏らしを頼む」
弓をつがえたバルトの指示で、俺もへっぴり腰で槍を構える。
1匹のホーンラビットがバルト達を迂回して俺に向かってくる。俺は必死に槍を繰り出すがなかなか当たらない。
「ピイッ!」
ホーンラビットが威嚇の声と共に角を突き出して飛び込んでくる!しかし、思わず槍を掲げて目をつぶってしまう。
『ドカッ』
「うぐっ」
胸に衝撃を受けて息が詰まる。
「大丈夫か!?ユウト!」
バルトとギルベルトが駆け寄って来てくれた。俺に痛打を与えたホーンラビットは既に弓で仕留めたらしい。ホーンラビットに矢が突き立っていた。
俺は咳き込みながら胸を確認するが、少し鈍痛がするだけで革鎧はこすった跡があるだけだった。
「…ああ、大丈夫だ、鎧のおかげかな何とも無い。武器屋の親父に感謝しなきゃだな」
「なるほどユウトみたいなど素人でも装備が良ければ怪我しないって言うことか」
ど素人は酷いと思ったが事実なので何も言えなかった…戦い方を覚えなきゃなぁ…
まだ昼過ぎだが、俺は初めての実戦経験でビビって足がぷるぷるしてた。見かねたバルトが笑いながら、今日は早々に引き上げる事を決めた。
「銀貨8枚になります」
「「えっ?」」
バルトとギルベルトが困惑の声を上げている。冒険者ギルドで依頼報告して納品カウンターで報酬をもらったのだが、二人には思いの外良い稼ぎだったらしい。
「薬草採取が銀貨5枚。後、ホーンラビットの肉と毛皮で銀貨3枚になります」
あの後、バルトとギルベルトが手際よく解体したホーンラビットの肉を冒険者ギルドで買い取ってもらった分が上乗せだな。
「1人あたま銀貨2枚とちょっとだね」
ギルベルトが嬉しそうに言うが、俺にはちょっとした計画があった。
「なあ、分け前は1人銀貨2枚にして残りは貯金しないか?」
「貯金?ってなんだ?」
バルトが怪訝な様子で聞いてくる。
「今回みたいに報酬がみんなで分け切れない時があるだろ。あまりをパーティの共有財産として残すんだ。みんなで使う物の購入費にすれば良いんじゃないか?」
「良い考えですね。ポーションなんかの消耗品を貯金から買うと良いんじゃないですか?
少額の手数料を払ってもらえばギルドで預かる事もできますよ」
買取を担当してくれた冒険者ギルドのお兄さんも暇だったのか賛成してくれる。
ギルベルトはすぐに利点が分かったようだが、バルトはよく分からなかったようだ。
「そうだな、バルトの剣の研ぎ直しの金なんかは貯金から出しても良いんじゃないか」
そう言うとバルトも見を輝かせて納得した。こうして、残りの銀貨2枚はギルドに預けて貯金する事が決まった。
「まだ、日も高いがどうする?」
「俺はとにかく武器の扱いを覚えたいな。武器屋の親父にでも聞いてみるか」
聞いてくるバルトに俺は答えた。実際、俺は戦力にならなすぎる。槍の扱いを覚えるにしてもとっかかりが欲しかった。
「なら、僕達も武器屋で装備が買えないか行かないかい?」
ギルベルトの提案で俺達はぞろぞろと武器屋に向かうのだった。
「よう、親父!」
「なんだボウズ、今日は団体じゃねえか」
「パーティを組んでね。こっちがバルトで後ろがギルベルト。あと相談したい事があるんだけど」
「ボウズもいっぱしになったもんだな。相談ってのは何だ?」
「槍の使い方を教わる事って出来るか?それとこいつ等の装備の相談にのってほしい」
「装備の相談は金次第だな、戦い方はまあアドバイス程度だ」
仲間達が銀貨2枚で買える装備を聞いてるが、5枚くらいは用意して来いと笑われてる。
「ボウズは槍の戦い方だな、何と戦うんだ?」
「今日、ホーンラビットと戦ったんだが手も足も出なかった…」
「なるほどなぁ…槍で突いた後、そのままホーンラビットが逃げた方に薙いで牽制しちゃどうだ?槍の柄は硬い樫だから簡単にゃ折れねぇぞ」
「むぅ、間合いに入られたら?」
「短く持ち直すか、石突でぶん殴れ。組付かれたら槍は手放して、前買った短剣があったろう。防具を信じてめった刺しだな」
親父の戦法にも一理あるな。宿屋に帰って裏庭で練習しよう。
その日はインターネットで槍の初心者の戦い方を検索した動画を見てはムチャクチャ練習した。