39.悠斗の失敗
ブックマークならびに評価、誤字指摘いただきまして、ありがとうございます。
更新は基本的に毎日10:00前後です。
翌日、午前中にカラドの街に帰還した俺達は冒険者ギルドから討伐報酬を受け取る。1人銀貨80枚だ、それぞれ報酬を受け取ったパーティが三々五々に解散して、冒険者ギルドから出ていく。
最後に報酬をもらうことになった俺達が、副ギルド長のアンドルーさんに呼ばれる。
「ソトリ村の廃坑の地図は助かった。いざという時のために、今後は魔物の巣穴になりそうな廃坑や洞窟の地図も冒険者ギルドが報酬を出してでも収集して備えておいた方が良いようだな。君達の報酬には地図提供として色を付けておいた。他言はしないでくれ」
抑えた声でアンドルーさんが説明すると、俺達には銀貨100枚が支給される。
冒険者ギルドから出た俺達は明日は休みにすることにしたが、午後は半端に時間が空いてしまった。みんなで予定を相談する。
「俺は武器屋に行って報酬で装備が買えないかさっそく見てみる。後は市壁ランニングと戦闘訓練だな」
「私もお付き合いしていいでしょうか」
「構わないぞ」
バルトとユリアは鍛錬だな。
「僕も報酬で魔法を購入に魔術師協会に行くよ。ちょっとやってみたい事が有るかな」
「俺は錬金術師ギルドに行ってくる。用事がすんだら鍛錬に参加しよう」
思うんだが、俺達は鍛錬好き過ぎじゃなかろうか?休みの日くらいは本当に休んでも良いんだぞ。
「じゃあ、また後でだな」
それぞれに解散していった。
俺が錬金術師ギルドに行きたかったのは身体強化と魔力槍の併用をした時の魔力消費の激しさを何とかしたかったのだ。
錬金術師ギルドで受付のお姉さんにギルド長のヒルデガード婆さんとの面会を申し込むと、暫くして婆さんの研究室に通される。
「今日は何の用だいユウト」
「昨日、身体強化と武器に『シャープネス』の付与を同時にやったら一瞬でかなりの魔力を消費してね、危うく行動不能になるところだった。一瞬で消費できる魔力の量を増やすことは出来ないか」
「そりゃ出来るさ。だが時間がかかるよ地道に魔法を使い続ける事さ。魔力を通す管を拡張するようなイメージさ」
「やっぱりそれしかないか」
「だけどおかしいね。『シャープネス』の付与を発動させても、そんなに魔力は消費しないはずだが。どれ、見せてごらん?」
俺は婆さんに『シャープネス』を付与した槍と短剣を渡す。
「アッハッハッハ、ユウトもこんなミスをするんだね」
婆さんがいきなり爆笑する。
「ミス…してたのか」
「そうさ、これじゃ『シャープネス』じゃなくて『シャープネス』オイルの塗布の魔法陣になってるよ。しかもシャープネスオイルの作成に必要な触媒無しで発動したんだろう?膨大な魔力を持っていかれて当り前さ」
「えっ?」
「低級ヒールポーションみたいな簡単なものなら、触媒になる薬草が無くても魔力だけでも作成できるのさ。触媒自体を魔力で生成してね。もちろん触媒が有ると無いとじゃ魔力の消費量が大違いさ。良かったじゃないか、シャープネスオイルで気付けて。もっと高度な物を生成してたら命が無かったよ」
俺はゾッとして婆さんに聞き返す。
「じゃあ、本当の『シャープネス』の付与は…」
「それは図書館でも公開しているがね。ユウトには自力で魔法陣を解析して改良することをおすすめするよ。今後のための経験になるだろう。それから武器に付与するなら鋼鉄製より魔法鉄にしな、付与が定着しやすいよ」
「分かったやってみる」
「そうしな」
婆さんは孫の失敗を見守るような眼差しを向けてくる。俺は気恥ずかしさでお礼もそこそこに錬金術師ギルドを後にした。
・・・・・・・・・・
「と言う訳で、俺は今日の鍛錬には参加せずに『シャープネス』の付与の改良をする」
みんなに錬金術師ギルドであったことを話すと、裏庭の隅で魔法陣の解析にとりかかる。
「じゃあ僕も新しい魔法で『フラッシュバン』の改良にチャレンジするかな」
「ギルベルトは何の魔法を買ったんだ?」
「『スリープクラウド』と『サイレンス』だよ。ソトリ村の坑道では『フラッシュバン』を使ったけど他人を巻き込まずに倒すには『スリープクラウド』の方が良かったかな?ってね」
「『サイレンス』は?」
「『フラッシュバン』は強力だけど自分達も耳をやられるだろ」
確かにそうだ『黄金の腕』を何人か行動不能にしてたな。
「さらに改良して、術者の周囲を『サイレンス』で轟音から保護しようと思うんだ」
「なんだか、ギルベルトの方が研究者向きだな錬金術師ギルドに入るか?」
「年会費で魔法を買った方がお得かなぁ」
うーん、図書館で得られる知識で元が取れそうだがギルベルトなら微妙かもしれない。
結局、俺は何日かかけてシャープネスオイル塗布の魔法陣ではなく、『シャープネス』付与の魔法陣を編み出した。魔力の消費量も格段に少なくなった。答え合わせに錬金術師ギルドの図書館で『シャープネス』付与の魔法陣を確認したが、図書館で見た方が魔力変換効率が良かった。
ちくせう、絶対にもっと高性能な『シャープネス』付与を作ってやる。臥薪嘗胆と思い。しばらくは自作の『シャープネス』付与を使うことにした。
・・・・・・・・・・
ある日、俺はブライアンさんの護衛依頼の時の事をボンヤリと思い出していた。ブライアンさんが扱う商品には肥料があったなと。たしか肥料って爆発物になったりするんだよな。
火薬があったら俺達の戦力アップにつながるだろうか。いやきっとなるだろう。ダイナマイトを作ったノーベルさんが巨万の富を築いて、ダイナマイトの兵器利用を後悔してノーベル賞を作ったくらいだ。
以前、インターネットで『火薬』『製法』を検索したが、再度検索しても『検索結果はありません』
こうなったら漫画のうろ覚えの知識でやるしかない。たしか便所の土と炭と硫黄で作るんだよな。便所の土ってどうやったら手に入るんだ?『星屑亭』の便所は洋式だが水洗では無いようだ。
「なあ、ギルベルト。便所の土ってどうやったら手に入るんだ?」
「なんでそんなものが欲しいの?ユウト」
「ちょっと考えがあってな」
「まあ良いけど、トイレに土なんか使ってないよ」
「は?」
「だって便座って焼き物でしょ」
「うん」
「底が深くなっていてね。そこに排泄物を食べるクリンスライムを飼ってるんだ」
「またスライムか…」
「クリンスライムが排泄物を肥料にしてを溜め込むから、定期的に交換して肥料をとりだすんだよ」
「…」
いきなり挫折したようだ。いや、まだだ。検索キーワードを『爆発物』とか『爆発事件』とか色々変更して調べると、魔石に魔力を込めた状態で割ってしまい、爆発した事故の記録がヒットした。
さっそく俺は道具屋で魔石を購入する。小指の先ほどで銀貨50枚…結構高いな。魔石は簡単には砕けないが石なんかで強く叩くと割れ砕けるそうだ。爆発力を高める魔法の構成を図書館で探し出し、魔法陣にして魔石にこれでもかと刻み込んでいく。最後に魔力を込めれば爆発する鏃の出来上がりだ。
「ギルベルト、この鏃で矢を作ってくれないか」
3つばかり魔石を渡すと矢を作ってもらう。
「さあ、ギルベルト錬金術師ギルドに行こうか」
「強引だね。まあ良いけど」
俺は錬金術師ギルドのギルド長、ヒルデガード婆さんに面会すると切り出した。
「面白いものを作ったから見て欲しい」
「ほう、そりゃ楽しみだ」
「爆発するので市壁の外で見てくれ」
「あいよ」
相変わらず、研究の種になりそうなことにはフットワークの軽い婆さんだ。
俺は市壁から離れた平原で適当な岩を探して、ギルベルトに頼んだ
「この矢であの岩を撃ってみてくれ。危ないから十分離れてな」
「わかったよユウト」
ギルベルトがいつものように矢を射ると、カッと閃光がして轟音と共に岩が砕け散った。
「これが爆発の魔石矢だ。どうだ?」
「「…」」
二人とも声が無い圧倒されているのだろう。
「ねぇ、ユウト。エクスプロージョンの魔法って知ってる?」
「いや?」
「あのね、今の矢と同じように命中すると爆発する魔法なんだ」
「へ、へぇ。でも武器としてだけじゃなく鉱山で掘削に使ったりとか…」
「鉱山はモールって土や岩を掘る魔法があるねぇ。それに爆発じゃ落盤が危ないね」
「それにユウト、魔石って言ったけど魔石っていくらするか分ってる?」
「銀貨50枚…」
「そんな高いもの使い捨てに出来ないよ」
「そもそも魔石は魔道具の原動力だからね、竈の魔道具でも魔力を満タンにした魔石1つで数年は動かせるさね」
「それじゃ…これは…」
「コストが高すぎるね。まあ魔法を封じられた時とか使い道はあるけど」
「それは面白そうだね。錬金術師ギルドで研究してみよう」
「…」
「ところで、後2本ある矢はどうするの」
「ギルベルトにやる…」
「…魔石代はその内返すよ」
「ま、発想は悪くなかった。今度からはコストも考えるんだねユウト」
ヒルデガード婆さんはカラカラ笑って言った。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。
面白かった、先が気になると思って頂いた方がおられましたら
ブクマや下の☆☆☆☆☆から評価を頂ければ幸いです。