37.護衛依頼に出発
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一日目、馬車は順調に進んでいった。御者はユリアで横にギルベルトが座ってまだ自信無さげなユリアをフォローしている。俺は警戒を飛ばしているバルトを邪魔しないように静かに聞く。
「何も無いか?」
「無いな、フォレストウルフがこっちの様子を伺っていた事があった位だ。フォレストウルフなら問題ないな、ゴブリンならこっちから仕掛けてでも排除する必要があるが」
「そうなのか?」
「ああ、ゴブリンはこっちが荷を持っていると直ぐには襲って来ずに、仲間を集めて来る時があるから速効で潰した方が良い。最悪、村に呼び込んでしまって夜襲をかけられる」
なるほど、バルトも斥候として技術をしっかり磨いていた訳だ。
「俺達も警戒するが、引き続き頼む」
「まかせろ」
ブライアンさんは途中で馬をやすませながら街道を進む。俺達だけなら飛ばして一気に村まで行っていたが荷物が満載のブライアンさんの馬車では馬が潰れてしまう。
そろそろ村が近づくかといった辺りでブライアンさんが昼飯を提案してきた。街を出るのが遅かったので、馬を休ませるのと兼ねて昼にしようという訳だろう。
「君達は落ち着いているね。こちらとしては安心だが」
馬車を街道脇に寄せて、ついでにブライアンさんが馬車を寄せるのも手伝う。俺達は4人だからあっという間に済むが、ブライアンさんは1人で馬車を操り、馬に水や飼い葉を与えて食事の準備もする。大変だな。
袖振り合うも多生のなんとかだ。ブライアンさんの分の竈も準備をしながら話す。
「実は今回の目的地は三ヶ所とも、害獣駆除や魔物退治で行ったことがあるんですよ」
「そうか、巡回していて最近は害獣駆除を頻繁にやってくれる冒険者が居て助かる。そう言っていたが君達だったようだね」
「人々の安寧に寄与しているのなら神の御心に適う事です」
「役に立ってるってことだね」
干し肉をナイフで削って、干した野菜を適当に切って煮込む。後は竈の石を拾って来た時に適当に摘んできたハーブを入れて少しでも工夫する。最後に堅パンを入れてパン粥の出来上がりだ。
ブライアンさんは街で買っておいた、お弁当を食べながら竈で沸かしたコーヒーを飲んでいる。
「昼は大体移動の途中だから、朝に弁当を買っておけば大丈夫だよ。それぞれの村に着いたら俺がいつも弁当を作ってもらっているおばさんを紹介してあげよう。明日の君達のお昼の頼むと良いよ」
俺達はいつも討伐依頼で村に行くだけだったから、食事は村長さんが世話してくれることが多かった。行商人の目線で旅をすればそれも変わると言う事か。
ブライアンさんに付いて、冒険者とはまた違う視線も新鮮だった。
昼過ぎに最初の目的地、クテの村に着く。俺達はブライアンさんについて村長宅に行く。いつもの討伐なら俺達はお客さんだが、今回は売り手のブライアンさんの護衛だ。居丈高な態度ではブライアンさんの商売の邪魔をしてしまうだろう。
交渉はブライアンさんに任せて後ろに立つ。
「いらっしゃいブライアンさん。今回も良い取引をお願いしますよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ヘンリクさん」
「ところで、後ろの『光の翼』の方たちは?」
「私の行商の護衛です。護衛依頼も始めたそうですよ」
「そうですか、ちょうど家畜を狙う狼が出て困っていたのですが。手をお借りしても?」
ブライアンさんが俺達を振り返り、目で促してくる。交渉事なら俺とばかりにバルトに押し出された。
「冒険者ギルドにまだ依頼を出していない様でしたら、ブライアンさんの邪魔にならない範囲で請け負いましょう」
「では村の猟師を案内につけましょう。ブライアンさん、皆さん今夜の宿は私の家でよろしいですか?大したおもてなしもできませんが」
「大所帯ですがよろしくお願いします」
請け負った狼討伐の報酬は冒険者ギルドで設定されている金額よりも安かったが、どうせ移動にかかる費用はブライアンさんの報酬からと考えれば悪くない。
「冒険者には高圧的な者もいて、ちょっと心配だったが君達なら大丈夫そうだな」
「まあ、若造ですからね。今回は討伐はついでで、ブライアンさんの部下ですから」
「弁えてくれるなら有難い」
しかし、立場によって居丈高になったり、下手に出たり難しいな。冒険者によってはその面倒を嫌って、護衛依頼を受けても村には泊らずに村の外でテントで過ごす連中も居るらしいが頷ける話だ。それも手だが、俺達はこまめに討伐依頼を受けていたおかげで近隣の村じゃ結構頼りにされていた。下手に出ても舐められる事は無くなったし、普段から関係を築いておくのも悪くないよな。
俺達は指示された広場に馬車を固定すると、昼に話していた弁当を頼むというおばさんを紹介してもらって、明日の俺達の弁当もお願いしておいた。それ後、ブライアンさんと別れて村の猟師と狼狩りだ。
「居ないな」
猟師に案内されて狼を探した俺達だったが空振りに終わった。バルトの見立てでは狩場を移動したのか古い痕跡しかないようだ。
「仕方ないな、薬草採取でもして少しでも稼ごう」
「仕方ないって言ってる割に楽しそうだよユウト」
「楽で安全、薬草採取は最高よ」
「まあ、ユウトですから」
猟師は呆れて先に帰ってしまったが、俺達は手近な群生地で薬草採取をして村に戻った。ちょうどブライアンさんも露店を畳んだ所だった。
「さて今夜の宿を借りにヘンリクさんの家に行こう」
「はいッス」
こうして、一日目は無事何もなく過ぎていった。
・・・・・・・・・・・
「それでは、また来てください」
「はい。良い商売を」
「『光の翼』の皆さんも狼討伐は空振りさせてしまって、申し訳なかったですが」
「そんなこともあります。気にしないで下さい」
俺達は弁当を受け取るとクテの村を後にした。二日目の行程も何事もなく次の村に着く。特に害獣や魔物の被害もないというので、俺達は完全に手が空いている。
ブライアンさんが荷馬車から売り物を降ろし、敷物の上に並べていく。実に手慣れた動きで、素人が下手に手伝っても邪魔しそうなので俺達は俺達で相談をする。
「さて、今日は特に目的が無い訳だがどうする?」
「ユウトが薬草採取を言い出さないとは不気味だな」
「失礼だなバルト、俺だってブライアンさんの露店を見てみたい」
「そう言うことですか」
「僕も興味があるよ」
行商人が来るのに合わせて便乗して、食べ物や飲み物を売っている村人がいる。俺達は果実水を買うと広場の端から露店を少し離れて見ている。
「盛況だな」
「確かに」
鉄製の農具や工具を買い求める男たち、恋人だろうかアクセサリーをねだる女性、ブリキの馬車のおもちゃを母親にねだる子供。ブライアンさんは大忙しだ。
「これは暫く近寄れないね」
「そうですね…」
「俺達が獲物の肉を持ち帰った時とはまた違うな」
バルトのいう通りだった。俺達の肉祭りは豪快な宴会だが、行商は同じハレの日と言っても穏やかに心が踊るような楽しさだ。
少し人が捌けて空いてきたので俺達もブライアンさんの露店を覗き込む。
「君達も何か買っていくかい?」
「でも街で仕入れたものッスよね」
バルトが風情の無いことを言っている。
「俺はこの髪飾りが欲しいな」
「まいどあり。銅貨2枚ね」
ブライアンさんから受け取ったのは小さな木彫りの鳥の髪飾りで目に水晶が埋め込んである。
「誰かあげる人がいるの?」
「エリルにお土産にしようかと思ってな」
「少し前から懐いてますものね」
二日目も穏やかに過ぎていった。
・・・・・・・・・・・
「ユウト、そっちに一匹逃げた。逃すな。
ユリア、感知だ殺り残しが無いか確認しろ」
「『邪悪を報せ給え』ユウトが追っているので最後です」
「任せろ、直ぐに潰す」
三日目も何事もなく終わったが、カラドの街にもどる最終日にゴブリンに襲われたのだ。大した敵ではないが、相手の数の方が6匹と俺達より多く、木立に隠れていたヤツが『フラッシュバン』の範囲から外れていた。あっという間に仲間が無力化されたのを悟って逃走したのだ。
ゴブリンが木立に隠れて逃走するが、俺は身体強化で追いつくと一突きの下に始末した。
「本当に優秀なようだね」
ブライアンさんは離れていたが『フラッシュバン』をまともに見てしまったらしく、目をパチパチさせながら話しかけてきた。
「これくらいは余裕ッスよ」
「頼もしいね。今後もよろしくしたいな」
初めて護衛の役に立ったのだ。ブライアンさんからの評価もなかなかのようだ。
俺達はカラドの街に帰還して、ブライアンさんから依頼完了のサインをもらうと冒険者ギルドに寄ると報酬の清算をする。4日で銀貨110枚の稼ぎ、なかなかに好調な滑り出しだった。
暫く『星屑亭』を留守にしたが帰ってくるとホッとするな。宿屋だが我が家に帰ってきた気持ちになる。女将さんとエリルが出迎えてくれる。
エリルに、お土産だよと言って髪飾りを渡すと。
「ありがとう!ユウト。でもこれ道具屋通りの雑貨屋で売ってたよ」
バルトの様な風情の無いことを言う。
「そんな事を言う子はこうだ!」
エリルの髪の中に指を突っ込んで頭皮マッサージしてやると、エリルがキャイキャイ言いながら逃げていった。
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