34.護衛依頼準備:悠斗の場合
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さて、錬金術師ギルドの許可も下りたことだし。みんなに身体強化を教えていこう。ギルベルトとユリアは普段から魔法を使っているからコツさえ掴めば飲み込みは早いだろう。
問題はバルトだな。多分魔力量も少ないだろうから、こまめに教えていくしかない。俺はヒルデガード婆さんのように他人に魔力を分け与えたり出来ないし、低級マナポーションをがぶ飲みなんて訓練では流石に出来ない。まあ寝る前の軽い魔力量特訓だ。
「おーい、バルト。ちょっと今いいか?」
「なんだ?もう眠いんだが」
「前に言っていた身体強化、あれを教えるぞ」
「僕は良いのかい?」
「ギルベルトは夕方のうちに魔力を使い果たしたろ。後日改めてな」
「分ったよ」
「んじゃ、俺がバルトの背中に俺が手を当てて、今から身体強化させるからな。心臓に何か紋様のようなものが浮かぶイメージが感じられるから意識してくれ」
「お、おう。痛くないよな」
「ダイジョウブ、イタクナイヨー」
「なんだか大丈夫に聞こえないんだが」
「冗談だ。いくぞ」
俺はバルトの中の魔力を操作して身体強化の魔法を起動する。
「ぐ…」
時間にしてみれば二つ数えるくらいしか身体強化を維持するだけの魔力しか無かった。
「どうだ」
「なんか一瞬力がみなぎる感じがしたが、すぐに消えたな。後、スゲーきつい」
「それが魔力切れだ。ギルベルトやユリアが戦闘後にバテてるのがこれだ」
「こんなに怠いのを我慢してるのかよ」
「で、どうだった?心臓の紋様はイメージできたか?」
「んー、あんまりに一瞬で良く分からん」
「だろうな。と言う訳で毎晩これをやるので覚悟しろ」
「まじか!明日は斥候ギルドに行くんだが」
「大丈夫だ。一晩眠れば治る」
「そうか…おやすみ」
バルトがすぐに眠ってしまう。
「しばらくバルトのいびきに悩まされなくて済みそうだね」
「違いない」
結果を言えば、バルトが身体強化を覚えるには2ヵ月以上かかった。やはり絶対的な魔力量が足りなくて数瞬で効果が切れるからイメージを掴みにくいのだ。それでもようやく覚えて五つ数えるくらいは維持できるようになった。
「単純に筋力で言えば2倍くらいの力が出せる。だがバルト、実戦では二つか三つ数えるぐらいで停めろよ」
「なんでだ?」
「魔力使い切って動けなくなったら敵に殺されるぞ」
「…」
「まあ、暇があったら寝る前に身体強化で魔力を使い切ってから寝ろ。すこしは魔力量が伸びるはずだ」
「普通に鍛錬した方が良かったんじゃないか」
「言うな。俺もそんな気がして来た」
ちなみにユリアは一週間で覚えた。通常はまあこんなもんだ。今はメイスの素振りのインパクトの前後だけ身体強化するなど器用に使いこなして訓練している。まあ、他にも魔法を使わないといけないので節約しながらの戦闘術を身に着けるのは悪くない。
ちょっと異常なのはギルベルトだった。なんと教えた初めの一回でマスターしてしまったのだ。曰く。
「普段から魔術の構成を頭の中で展開したりしてるから」
と、言っていた。ぐぬぬ天才め…
・・・・・・・・・・
装備のメンテナンスでちょくちょく武器屋『角笛の音』には顔を出すが、装備の更新は久しぶりだ。
「最近、メンテナンスばかりで稼がせてもらってなかったからな。奮発してくれよ」
武器屋の親父は揉み手をせんばかりだ。
「で、ボウズ…いやユウトどうする?」
「なんだよ、親父気持ち悪いな」
「Dランクになったんだろう。もう一人前さ」
「俺も親父に認められるようになったか…」
言いながら財布から金貨20枚を取り出して、親父の前に積む。
「これで、装備を一新したい。俺は軽戦士で打撃力を出すのが役割だから動きやすくて、いざって時にビビらない防具が欲しい」
「一財産だな。分かった」
親父が店の奥に在庫を見に入っていく。
「その予算だと、これだな」
鎖帷子に青黒い革鎧と籠手と金属の脛あて、それにフェイスガードの無い金属製の兜。
「鎖帷子は重くて動きが悪くならないか?」
「この鎖帷子は普通のヤツより軽い。その分脆いがな、二の腕がキルトの服だけより安心だろ」
「この青黒い革鎧と籠手は?」
「ブラックドッグの革製だ。軽い上に、生半可な金属鎧より堅い。しかも弾力もある」
確かに手で叩いてみると確かに硬質な音がする。
「フェイスガードは無い方が良いのか?」
「盾役ならとことん重武装が良いがな。状況を見て走り回る軽戦士なら無しの方が良いだろう」
一揃えを身に着けていく。やはり重いな。
「やっぱり重いか?」
「まあな、だが慣れよう。しばらくはユリアの軽歩や身体強化のお世話になりそうだが。それからだが…」
「まだあるのか?」
「前に槍の柄にして欲しいって言ってたトレントの素材な」
「手に入ったのか?」
「いや、冒険者ギルドに素材回収依頼に出した」
「なんとまあ…」
「自分たちで行くことも考えたんだがな、ちょっと無理そうだったからな。別にルール違反じゃないだろう」
「確かにな」
「トレントの柄と魔法鉄の穂先と石突で槍を作ったらいくら位になる?」
「儲けさせてもらったからな…金貨10枚だ」
「分かった」
「これは忠告なんだがな…今後は装備を買いに来るときは前みたいに揃って来ないでバラバラで来た方が良いぞ」
「なんでだ?」
「ユウト、お前だけ稼ぎ過ぎているだろう。買うもののレベルが違い過ぎる」
「あいつ等がそんな事気にするかな」
「しないかもしれないがな。装備の違いが見てわかるのと、目の前で金貨積み上げてお大尽な買い物されるのじゃ大違いだ。他のパーティじゃ絶対に不和の元だぞ」
「させないに越したことは無いってことか…」
「そう言うこった」
「なーんか、パーティみんなが儲かるやり方って無いもんかね」
「そいつは俺の方が知りたいね」
・・・・・・・・・・
「出来上がったぞ」
冒険者ギルドから納品されたトレントの素材を『角笛の音』の親父に預けて数日後、待望の槍が仕上がった。
その場で、シャープネスの魔法を槍の穂先に焼き付けていく。そして槍を構えて魔力を込める。
「上手くいったようだな」
「ああ」
穂先から離れた場所から魔力を込めても魔法鉄で出来た穂先がうっすらと光を帯びる。
「試し切りしていいか?」
「俺も見てみよう」
親父と連れ立って裏庭に行くと身体強化を使わずに、地面に撃ち込んだ丸太に刺突を放つ。するとパァンと乾いた音がして丸太が真っ二つに裂ける。
「「!?…」」
そのまま他の丸太を今度は横なぎに払う。穂先の長さが足りないので水平に真っ二つとはいかないが、刃が通った箇所がさっくりと切れている。
「とんでも無い物になったな」
「だが、魔力の消費もとんでもないな」
ずっとポーションを作って増えていた魔力量だが、この短時間魔力を込めていただけでごっそり持っていかれている。シャープネスを付与なんかせずにオイルの形で使う訳だ。燃費が悪すぎる。
「こりゃあ普段は封印だな。使うにしても突く瞬間だけ魔力を込めるとか鍛錬しないと、すぐにバテ上がっちまうな」
やはり最後は地力がものを言うようだ。おれは重くなった装備を着込んでは裏庭での型の訓練と市壁ランニングに精を出すことを続けた。ところでバルトのヤツはいつの間にか金属製の大盾を背負って走ってるが、俺よりペースが早いってのはどういうことだ…
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。