30.護衛依頼準備
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その後も俺達は順調に近隣の村を回っては害獣や魔物を倒して回っていた、そんなある日。
「俺から提案したいことがある」
「いきなりだなバルト」
いつもの俺達の作戦会議である。前回の依頼はフォレストウルフが村近くまで現れるので、退治して欲しい。とのことで一泊二日の行程で行って帰ってきたのだ。
「悪いな、でも聞いてくれ。そろそろ護衛依頼を受けないか?」
「…また山賊に出くわすかもしれないよ」
「そうだな、だが困っている村人を助けたくはないか?」
「それはそうだけど…」
「村人たちが困っていたのは害獣や魔物だけか?」
「なかなか行商人が来てくれないって言ってたな」
「村に商品を運ぶ行商人ですか…」
「鍬や鋤なんかの鉄製品は行商人頼りだね」
「そこでだ、行商人の護衛が出来れば村人達は助かるんじゃないか?」
「そうだね」
「困窮する人々を救うのも神の僕たるものの務めです」
ギルベルトもユリアもバルトに賛成のようだ。
「俺も基本的には賛成だ。村人も助かるし、護衛依頼は結構割が良い」
「じゃあ!」
「待て、護衛依頼をこなすには俺達には不足している事がある」
「なんだい?」
「野営、特に夜の警戒の経験だ」
とたんにみんなの顔が渋くなる。夜まともに眠れなかった苦い経験を思い出したようだ。
「『明けの星』レベルとは言わないが野営に慣れておく必要があると思う。それからギルベルトが言ったように、山賊が出るかもしれないから対策も考えたい。ヤツらははぐれのゴブリンとは違って狡猾だ。装備や攻撃、対応手段を増やしておきたい。」
「相変わらず慎重だなユウト」
「俺達の命がかかってるし、行商人の命も預かるんだ、慎重になってし過ぎる事はないだろう?」
「分かった。野営の訓練はどうするんだ?」
「最近の依頼は一泊二日でこなしているが二泊三日にする。具体的には帰還を遅らせて昼過ぎに村を出発して、一晩野営をする」
「その伸びた時間で薬草採取するんだね」
「なんで分かったし!?」
「分からいでか」
ひどいなお前等。行程が伸びる分だけ稼ぎが悪くなるのを薬草採取でカバーできるんだぞ。名案じゃないか。
「まあ良いじゃないですか、ユウトですし」
ユリアも地味に失礼だな。
「後は各人、改善点を挙げてくれ」
「俺はやっぱり斥候としての能力を身に着けようと思う」
バルトはやはり斥候に拘りがあるようだ。
「理由は?」
「ユリアの『感知の奇跡』だけでは山賊を察知できない。それに最近の依頼で山に入ることが多かったが。足跡を追ったり役に立つと思う」
「確かにそうだな、教わるあてはあるのか?」
「『明けの星』のエッガーさんを頼ってみようと思う」
「分かったバルトは斥候の習得だな。あと金に余裕があれば装備の強化もな」
「分かってる」
続いてギルベルトが発言する。
「僕は新しい魔術を覚えようと思う。マジックボルトだけじゃ心もとないからね」
「後、弓の方はどうなんだ?この間、武器屋で見せてもらったコンパウンドボウとか」
「そっちもあったね。なんとか買えそうかな」
「それから俺に考えがあるから少し付き合って欲しい」
「わかったよユウト」
次はユリアか。
「前衛としての戦い方でしょうか、あと新しい奇跡ですかね…」
「そうだね」
「ただ、これだけはは神の御心によるものですから」
「まあ、ダメでも魔力量特訓だけは欠かさないでくれ」
「…はい」
最後は俺か
「で、ユウトは?」
「俺は…いくつか考えているが、みんな身体強化を覚えたくないか?」
「そりゃ覚えられれば覚えたいが」
みんなが頷く。
「錬金術師ギルドに入会しなくても身体強化を教えられないか聞いてみようと思う。後、俺個人としては装備を良くする」
「今のでは不足か?」
「同じことをやってるなら問題ないがな。バルトが盾に専念して、攻撃担当の俺が怪我を気にして腰が引けたら打撃力が足りなくなる」
「その代わり装備が重くなるぞ。市壁ランニングだな」
「お、おう」
「私も走った方が良いのでしょうか…」
ユリア、前衛職は体力が命だぞ。連れて行くに決まっているだろう。
それぞれの目標が立ったようだ。バルトは『明けの星』を探しに冒険者ギルドに行き、ギルベルトは魔術師協会、ユリアは教会だ。俺はまず錬金術師ギルドに向かう。
勝手知ったる錬金術師ギルドだ、受付にヒルデガードギルド長に会いたい旨を伝える。受付のお姉さんはすぐに確認してくれて、ギルド長の婆さんの研究室に案内された。
相変わらず、私的な研究室の方は雑然としてるな
「また何か思いついたかい?ユウト」
「いや、今日は確認したいことと、金を受け取りに来たんだが…」
なんか見たことのない魔法陣を刻んだ羊皮紙が散らばっている
「なにか研究中だったのか?この魔法陣は」
「これは成分抽出の術式の魔法陣さ。低級マナポーションを少しでも性能を上げられないか試しててね」
「で、どうなんだ?」
「あんまり変わらないねぇ作る人間毎の誤差程度さ。まあヒールポーションの頃から試されてる手法で、やっぱりたいして効果は無かったそうだけどね」
「ふーん、その魔法陣は俺も使えるのか」
「ああ、図書館で交換もしてるが1枚持って帰るかい?」
「もらっていこう。なにか役に立つかもしれない」
「期待しておくよ。で、用事はなんだい?」
「そうだった。身体強化なんだが、錬金術師ギルドに加入しなくても習得できるのか?」
「ユウトが仲間に教えてやる分には錬金術師ギルドは関知しないよ。それを商売にしなきゃね。どうせ魔力がある人間なら、その内勝手に覚える事だしね」
魔力がある人間って、無い人間もいるのか?聞き捨てならないような事を言ったぞ。
「分かった。商売じゃなく仲間相手だけだ」
「教え方は分かるかい?」
「ああ、初めに低級ヒールポーションの作り方を教わったように、相手の魔力を俺が操作して実演するんだよな」
「そう言う事さ。心臓の魔法陣を意識させるようにしな」
「ところで、さっき魔力のある人間って言ったが、魔力の無い人間もいるのか?」
「そりゃそうさ、多い少ないも人それぞれだしね。皆無なのは珍しいが」
「錬金術師ギルドに加入するとき、魔力があるかは確認されなかったんだが無かったら無駄足だったんじゃ…」
「錬金術師ギルドじゃ何でも研究してるって言ったろう。魔力を持っているかどうかは関係ないのさ。小麦の品種改良やってる主任なんかも魔力は無いよ。それに一般人は魔石を使った魔道具を使うからね。
魔力を直接使おうなんて、それを商売にしているあたしらや魔術師協会なんかの研究者さ。後はあんたら冒険者や騎士なんかの戦闘職くらいかね」
意外だったな。魔力があれば何でも出来そうだが魔道具の方が一般的なのか。
「魔石に魔道具ね、後で何か思いつきそうだ」
「そうかい、楽しみにしておくよ。後は金かい?」
「ああ、俺への支払い分を受け取りに来た」
「少し待ちな、事務官を呼ぶから」
婆さんは卓上の鈴を鳴らして事務官を読んだ。
「お呼びでしょうかヒルデガードギルド長」
「ユウトへの支払いを持ってきておくれ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
退出した事務官が戻ってくると小さな革袋を持ってきた。しまった、あんまり貯まっていなかったか?
「金貨で30枚になります」
「は?」
いやいや多すぎだろう。驚いた表情を浮かべていたのだろう。婆さんが
「それだけの物を作っちまったってことさ」
婆さんは、にんまりと笑っていた。
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