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異世界でスキル『インターネット』をもらいました  作者: ゆうじ
第3章 大鹿を討伐しよう
29/83

29.宴会

ブックマークならびに評価、誤字指摘いただきまして、ありがとうございます。

 大鹿を倒した後の方が大変だったかもしれない。倒した大鹿が野犬に齧られたりしないように、バルトとユリアが見張りに残った。俺とギルベルトは山を下りてチキネの村から若い衆を引き連れて来る。


「近くで見ると立派な大鹿ですね」


「ああ、このざまだよ」


 村の猟師が川の流れに晒して血抜きしている大鹿を見て感心している。バルトは盾を猟師に見せているが。割れたり凹んだりして、ありゃ帰ったら買いなおしだな。

 猟師が先頭に立って、若い衆に指示を出して大鹿を解体している。解体は任せて、俺達ははぐれのゴブリンとかへの警戒だ。


 日が傾く前には解体し終わり、チキネ村に大量の戦利品を担いで凱旋だ。さっそく、奥さん連中が焼き網や大なべを持ち出して料理を始めた。


「大変な量の鹿肉ですな」


 村長のワレリがホクホク顔でやってきた。どうせこんなに大量の肉は運べないし村の若衆に手伝ってもらったお礼にと、村に進呈することにしたのだ。冬に望外のごちそうだろう。ちなみにバルトの判断だ。まあ、毛皮はざっくり下処理してもらったのを持ち帰るし、みんな異論は無いけどな。


「村の皆で食べてくれ。俺達も今晩食わせてくれるんだろ」


「もちろんですとも。『光の翼』の皆さんが倒して下さったのです、田舎料理ですが心行くまでお食べください」


 広場に敷物が敷かれ、油が滴る焼きたての鹿肉のステーキに根菜と煮込まれたシチュー、急いで作った燻製にトマト煮、次々と料理が出来上がっては皿に盛られて運ばれてくる。


 俺達も大いに食べたが村人達も、しこたま食べている。これだけあれば遠慮なく食べて、まだ余るくらいあるだろう。どこからか楽器を持ち出した村人がいて、調子はずれだが陽気なメロディーを奏で始める。すると数人の若者と娘達が焚火を囲んで踊りだす。

 年配の者が囃し立て、またメロディーにのって歌い。手を叩く。酒が運び出されて、また調子があがる。


 俺達の前にもエールが運ばれてくる。お子様舌の俺やバルトにギルベルトは1杯のんだだけで果実水にしてもらったが、ユリアは案外イケる口だったようだ。

 気分が良くなったようで、少し離れたところで辻説法のような事をしている。


「勤勉に働き、神に感謝の祈りを欠かさなければ神は私たちを見捨てません!」


「そのとおり!お嬢ちゃん!」


 酔漢達に囲まれて名調子である。ギルベルトが心配そうに、ユリアの袖を引いている。


「こういうのも良いモンだろ?」


 バルトが俺に話しかけてくる。


「ああ、悪くない」


「俺はな、物語の英雄みたいになりたいんだ」


「知ってる」


「魔物や何かから脅かされる人達を護って、感謝されたい」


「コンスタンツォみたいにか?」


「そうとも」


 バルトの気持ちは良く分かる。でも俺のこの気持ちは自己顕示欲だ。バルトのように純粋な英雄願望じゃない。だけど目の前の光景を自分達が成したのだ誇らしく思うし。感謝されるのもくすぐったいが悪くない気持ちだった。俺もバルトの様にいつかは純粋に英雄に憧れるようになりたい。いつの間にかそう思っていた。


「ところで、俺としては大鹿を倒したら、今日の内にカラドの街に帰るつもりだったんだが」


「へっ、こんなに歓待されてそっけなく帰れるかよ」


「確かにな」


 バルトと憎まれ口を叩きあいながら夜は更けていった。


 朝になってテントからもそもそと這い出すと、体を伸ばしてほぐしていく。俺達は昨夜のお祭り騒ぎの余韻の残る広場で起きだした。

 夜遅くまで食って騒いで、飲んで起きた割には気持ちの良い目覚めだった。一部を除いて。

 

 その一部の背中をギルベルトがさすってやって、水を飲ませている。


「それでは村長。俺達『光の翼』は依頼達成ということで街に帰ります」


「鹿肉を大量にありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします」


 村長と話していると、村の奥さん連中が割り込んでくる。


「急ぎで作ったけど、鹿肉の燻製だよ。日持ちはしないから早めに食べとくれ」


 一抱えほどもある鹿肉の塊を渡される。


「ありがたい。食べさせてもらうよ」


 俺達は村人の感謝の視線を、背に受けてチキネの村を後にしたのだった。


・・・・・・・・・・


 『星屑亭』に帰り着いてからも宴会だった。なんせ一抱えもある鹿肉の塊、俺達だけで食べきれる訳がない。女将さんに進呈して食堂に食べに来ていた皆にシチューにして振舞ってもらったのだ。

 普段、俺達の事を草刈り野郎と言っている冒険者連中も、今日ばかりは調子よく『光の翼』をおだてる。

 女将さんからもエールが1杯ずつ振舞われ。さらに冒険者たちのテンションは上がる。


 騒ぎつかれて、食堂のカウンターに寄りかかるとカウンターの奥に隠れてエリルも笑顔でシチューをがっついていた。目だけで笑いかけると、気まずい様子でお帰りと言ってくれた。


「どうだ、ちゃんと帰ってきたろう?」


「そうね、お土産も持って帰ってきたし」


「エリルのお祈りのおかげかな」


「感謝してよね」


「へいへい」


 エリルの髪をくしゃくしゃにかき混ぜてやると、くすぐったそうにはしゃいでいる。

 効率よく堅実に稼ぐだけじゃない。こんな楽しい日もあって良いじゃないかそんなことを思った夜だった。

読んでいただきまして、ありがとうございました。

引き続き読んでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 調子に乗って説法するユリアかわいい [気になる点] エールの旨さがわからないお子様共め [一言] 帰ってくることの大切さ 無理無茶無謀だからできる英雄譚 バランスが難しいね
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