27.スライムクッション
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馬車の採寸を満足いくまでとりつくしたジャンと俺は、広場の屋台で果汁を絞った冷たい水を飲みながら。話し合っていた。
「実際に御者台に座ると、結構高いし掴まる所が無いものだな」
「そうだろう、そうだろう」
「さて、実際の物を作るにあたってだが金が要る」
「そうだな。いくらぐらいかかる」
「正直に言えば分らん。金具の一部は鍛冶師に頼まなくちゃならん」
「そうだよな、金貨4枚でどうだ?」
ゲーランの街で結局使うことは無かったが、錬金術師ギルドからの低級マナポーションの収入が手つかずだからな。このくらいは安全のためなら…
「そんなにか?冒険者ってのは儲かるのか」
「まあ、いろいろだ」
「そうか、ところでこの仕組みに関する契約を神に誓約しないとな」
「誓約が必要になるほど金になるものかな…」
「それこそ分らんが、今までに無い仕組みだということは分かる。ボクが墓穴まで秘密を持っていけって言われるより、『誓約の奇跡』で縛ってもらった方が気楽だな」
「ジャンがそう言うなら、そうするか。ところで誓約の奇跡ってどうやるんだ」
「教会に決まってるだろ」
ジャンが呆れを含んだ目で見てくる。そう言えば、錬金術師ギルドで誓約の奇跡を施してもらったのも教会の人間だったな。
「分かった今から教会に行こう」
その後、ジャンと教会に行って今回作成してもらう仕組みと俺相手以外に作らない事の保護を誓約で縛ってもらう。
「広く売って金を稼ごうとは思わないのか?」
「稼げるものになるか分らんだろ。俺達が使っているのを欲しがるヤツらが出てきたら改めて取り決めて誓約の奇跡をかけなおしてもらえば良いんじゃないか」
まあ現代の自動車では、シートベルトなんて基本中の基本の安全装備だ。富裕層から浸透するかもしれないか。
「そのとおりかもな。まあボクは気兼ねなく新しい発明に取り組めるわけだ」
「工房公認で?」
「工房公認で!」
ジャンが意欲にあふれた声で答える。
「じゃあ、進捗があったら連絡をくれ。と、名乗ってもなかったな」
「ボクも聞き忘れてたな」
「冒険者ギルドに所属しているDランク冒険者『光の翼』のユウトだ。カラドの街にいる時は『星屑亭』って宿屋にいる」
「分かったユウトだな。冒険者なら街にいない事も多いだろ。そっちからも訪ねてくれ」
「少し前までは1日と街を空けるようなことは無かったんだがな。分かった、こちらからも訪ねるよ」
ジャンが作ってくれるものに期待して、俺は宿屋に戻る前に雑貨屋に寄って帰った。
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「あ、ユウトおかえり」
「ただいまギルベルト。バルトは?」
「まだ鍛錬で帰ってないよ」
「アイツも頑張るね」
「ユウトのほうも何か上手くいったんでしょ」
「まあね。あとは仕上げを御覧じろだ」
バルトが帰ってきてから夕飯を4人でとる。その席で。
「みなさんにはこれから、これを使ってもらいます」
「なんだよ改まって、変な口調だし」
「気にするな、ホイ!バルト」
「なんだこれ?ってクッションじゃねぇか」
「馬車で尻が痛かっただろ。なんとかならんかなぁと思ってね」
「ツラかったので助かります」
「ユウトがあれこれ考えてたのってこれなの」
「いや、それは別。クッションはとりあえず買ってみた。明日からの馬車で少しでも楽になればと思ってね」
「お金は如何ほどですか?」
「銀貨1枚もしないものだよ気にしなくていい」
「…そう、ですか」
「明日の馬車が楽になると良いな」
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結果から言えば雑貨屋で買った程度のクッションでは焼け石に水であった。前回と同じような魔物退治を村に頼まれて馬車で移動したのだ。今回の御者はバルトだったがギルベルトより荒っぽく。さらに尻が痛い。なんとか依頼をこなして帰ってきたのだが。
尻が痛いのを本格的に何とかしなきゃだなぁ。俺はインターネットで『低反発クッション』だとか『ビーズクッション』とか検索をかけるが、反応は相変わらずの『検索結果はありません』このインターネット壊れてるんじゃなかろうか。
めげずに『振動吸収』とか『衝撃無効』とか検索をかけていたら検索結果にスライムが出てきた。スライムねぇ、前にソルトスライムとか出てきて絶望を味合わせてくれた強敵だな。詳細検索してみるか。
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スライム
多種多様な目的のために使役される生き物
弾力のある体を持つ
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おう、この世界のスライムって魔物じゃなくて道具扱いなのね。弾力のある体ねぇ、利用できないかな。
『スライム』『研究』で検索してみるか。
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スライムの研究
錬金術師ギルドが主になって研究している
用途によって様々な品種が生み出されている
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ファッ!?錬金術師ギルドってポーションだけじゃないん?さっそく次の休みに錬金術師ギルドに顔を出すことにした。
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象牙の塔が威圧感をはなっているが、すでに何回か来た場所である。門をくぐると、受付のお姉さんに錬金術師ギルドのギルドカードを見せながら面会を申し込む。
「ヒルデガードギルド長に会えますか?」
「確認いたしますので、少々お待ちください」
低級マナポーションの件以来、錬金術師ギルドではちょっとした有名人になってしまったようだ。受付のお姉さんが最初そっけなかったのが嘘のようだ。
「研究室の方でお会いになるそうです。案内いたします」
お姉さんに研究室へ案内してもらおう。
「ヒルデガードギルド長、ユウト様をお連れしました」
おい、『様』がついたぞ。本格的に有名人じゃん。
「入ってもらいな」
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
「今日は何の用だい?ユウト」
「婆さんに相談したいことがあってね」
「あたしで教えられることなら相談くらいのるよ」
「スライムの品種改良って錬金術師ギルドでやってるか」
婆さんは一瞬、キョトンとした表情になった。
「そうだよ。前に行ったかもしれないがあたしらは研究の徒さ、なんでもやってるに決まってるさ。植物の品種改良に新しい合金の研究いろいろさ。まあ商業ギルドや魔術師協会、教会と共同って場合もあるがね」
「それは…すごいな」
「だからユウト何か思いついたら、まっ先に錬金術師ギルドに来な」
「あー」
「その顔は既にやっちまったって顔だね」
「『誓約の奇跡』までやってもらった」
「まったく…まあいい、何か錬金術師ギルドを頼りたい事があるんだろ」
ヒルデガード婆さんは顎で先を促す。
「最近、馬車に乗ることが多くなってね。尻が痛いんだ」
「サスペンションがあるじゃないか」
「冒険者ギルドの借り物なんだ。そんな高機能な物じゃない。今は雑貨屋で買ったクッションで我慢してるんだが」
「見えてきたよ。クッションとしてスライムを利用したいって訳だ」
「そう言う事。中の詰め物の代わりにスライム使えばどうかなって」
「おもしろい発想ではあるがサスペンションの普及も進んでいるし、繋ぎの技術として商業ギルド案件かもしれないね。まあ作ってみようじゃないか試作品はアイデア提供者としてユウトに進呈しよう。いくつ欲しい?」
「4つ頼む」
「あいよ。まあそんなには時間はかからんだろうから、しばらくしたら取りにおいで。その足で商業ギルドに行って錬金術師ギルドとの3者間の誓約を結べばいい」
「金にはならないんじゃないか?」
「アイデアは他の何に発展するか分からないだろう。誓約をしておくに越したことはないさ」
後日、スライムを使ったクッションを受け取りに行くと商業ギルドに連行された。スライムクッションと命名したが、その利益の5%を受け取る『誓約の奇跡』を結ばされてしまっのだ。まあ、その場の全員がこんな物に価値が付くのか疑問ではあった。
その後、スライムクッションを大型化して『人を堕落させるクッション』としてそれなりに大きな利益をだすのだが、それは別の話。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。