23.山賊との遭遇
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馬車の上の人になってしまえば気も引き締まるもので、過度の緊張はしていないが油断なく警戒を続けていた。
御者のロドリゴさんは鼻歌なんか歌ってゆったりと馬車を進めていく。
昼間は何事も無かったが、変化があったのは野営の準備をするために馬車を街道脇に止めようかと速度を落とし始めたころだった。
警戒の笛が前方から聞こえ、斥候のエッガーさんが鋭く叫ぶ声が聞こえる。
「山賊だ、数20以上!『光の翼』は待機!」
前方から剣戟の音が聞こえる。数が多そうだが『明けの星』は大丈夫だろうか?駆け出しなりに不安に思っていた時だ。
「何人か後方に行った『光の翼』馬車を護れ!」
エッガーさんの指示が飛び、おれたちは慌てて周囲を見渡す。
「いたぞ!」
バルトが林の方を指さす。林を走り抜ける音が確かに聞こえる。
「突っ込むか?」
「いや、開けた場所の方が良い。それに馬車の護衛だ」
戦闘に関してはバルトの方がセンスが良い。
「ギルベルト、当たらなくてもいいから弓を2,3射撃ち込んでやれ
ユリア、数が知りたい。感知を頼む」
「了解」
「承知しました『邪悪を報せ給え』…ダメです。捉えられません」
人間は魔物じゃないから、感知ではダメってことか…
「出たとこ勝負だな」
バルトが油断なく林を睨みながら言う。
ギルベルトが弓を射るが木に当たったが、それに焦ったのか、馬車から10メートルほど後方に4人の山賊が林から飛び出し、木立の中に1人弓を持った山賊が残ってこちらを狙っている。
倒した冒険者から奪った物だろうか、山賊達はボロボロの胴鎧を着けてるだけで素手に、足はむき出しでサンダルくらいだ。
だが、数では相手が上だ油断は出来ない。
「ユリア、鼓舞。ギルベルト、バインド!」
『勇士の魂を顕し給え』『アースバインド』
鼓舞で戦闘意欲が刺激され、思考がクリアになるのを感じる。
「アースバインドが効かない」
ゴブリンの上位個体よりは賢いってことか。
「ユウト、ユリア、俺に続け!突っ込むぞ。ギルベルトは弓で射手を牽制」
「「「了解」」」
バルトは右に陣取って、2人の山賊を相手に踏ん張っている。だが、山賊は小賢しく連携しながらバルトを休ませずに攻め立てる。おまけに時折矢まで飛んでくる。
ギルベルトがしきりに矢とマジックボルトを放って射手を牽制するが、相手が木立に潜んで姿を隠しているのか当たって無いようだ。
俺は身体強化を発動して、目の前の相手を少しでも早く倒す事に専念する。はやくバルトの加勢に行かねば。
突いた槍を跳ね上げ腕を浅く傷つける。そのまま一気に止めをさしたいが、傷付いた相手は距離をとる。
これが人間相手か、急に踏み込んで蛮刀を振り回したかとおもったら、距離をとって挑発してくる。数の優位を活かして誰か崩れたら一気に襲うつもりか。
左を見やるとユリアが苦戦している。ユリアには足止めを基本にしてもらってるが、人間相手には荷が重いようだ。完全に翻弄されている
「ユリアは一旦下がれ。ユウト2人持ってくれ」
「任せろ」
身体強化を信じて、俺は槍を大きく振り回し。牽制をしてユリアを後方へ逃がす。
「ユリアは俺、ユウト、自分に軽歩だ」
「承知『ヘルメスのサンダルを授け給え』『ヘルメスのサンダルを授け給え』…」
ユリアの魔力が厳しそうだ。俺はユリアに叫ぶ。
「マナポーションを惜しむな!」
『ヘルメスのサンダルを授け給え』
「ユリア、前に出ろ!」
ユリアの軽歩の奇跡を受けて、思考が加速する。相手の振るう鉈がゆっくりに見える。鉈を振りかぶる腕をめがけて槍を突く。
まともに腕に槍が突き刺さり、鉈を取り落としてうずくまる。
大きく体勢を崩した山賊にユリアが走りこんでメイスを振り下ろす。後はユリアに任せても大丈夫だろう。
もう1人にも、相手が怯んで距離を取るより早く踏み込んで勢いのままに胴鎧のど真ん中に力任せの突きを放つ。
「ゲボッ」
山賊が腹を押さえてうずくまる。少なくとも暫くは動けまい。
俺は2人を相手にしているはずのバルトの方に加勢に向かうが、軽歩を受けたバルトは先ほどより滑らかに盾で相手を受け流すとそのまま盾で殴りつける。
ぶっ飛ばした相手をそのままにして、もう1人に素早く駆け寄ると、剣で袈裟がけに切り伏せる。
俺はバルトが盾で吹き飛ばして、転がっている山賊の足を槍で突いて行動不能にする。
形勢不利と見て逃げようと、うかつに背中を見せた射手を、ギルベルトがマジックボルトで昏倒させていた。
こうして、ようやく俺達の方に来た山賊を退けた。生き残りから意識を離さず、前方の様子を伺う。
「無事か?『光の翼』」
エッガーさんの声が聞こえ、歩いて来る。
「無事ッス。人数で手こずったッスけど。『明けの星』はどうっスか」
「数だけは居たが、まあ俺達の敵じゃない」
「そうですよね」
「よし、じゃあ生き残りがいたら脅して死体を運ばせろ」
「何をするんですか」
「始末する」
「「「「!?」」」」
「分らないようだな。山賊は皆殺しにして森に捨てる。後は魔物や獣が始末してくれる」
「生き残りを、街で衛兵に突き出したりはしないのですか?」
「生き残りを捕縛して歩かせれば、それだけ商隊の進みが遅くなる。寝首をかかれたり、他の仲間と内通して商隊を襲わせるかもしれないからな」
「皆殺しですか…」
「そうだ。以前は持てるだけの荷物を奪ったら、商人を開放したりしてたそうなんだがな。山賊に領主や冒険者ギルドが賞金をかけたら、むしろ名を売ろうとして、競って残虐なやり口で行商人が皆殺しにされたり死体を晒されるようになったそうだ。
それから、山賊の所持品にも手をつけるなよ。どこから足がついて生き残りが報復に来るかもわからん」
「「「「……」」」」
「気持ちも分からなくも無いがな、こいつらは人を襲って殺すんだ。魔物と一緒さ」
俺達はエッガーさんに言われるまま、山賊の生き残りに仲間の死体を運ばせる。
森の手前まで運ばせると、そこに居たアランさんに
「君達はここまででいい、今は最後まで見ておかなくていいぞ。あと神官のグレースに鎮静の奇跡をかけてもらえ。気分が少しは良くなる。顔色が悪いぞ」
少し前から『鼓舞の奇跡』の効果が切れていたのだろう。人間を相手にしても平気だった戦意が霧消して、手が震えて吐きそうだった。
アランさんの言う通り、『鎮静の奇跡』をかけてもらうと、なんとか気力を持ち直した。
「今から食べるのは酷かもしれんが、明日がツラくなる。少しだけでも食べて早く休め」
エッガーさんから気遣われて俺達は、自分達の持ち場に戻った。
緩慢な動作でテントを組み立て、火を起こし夕飯を用意する。訓練した動作を体が勝手に動いてくれるが、みんな無言だった。
「ウッ…」
食事をとっていた時、ユリアが少しえずく。ギルベルトが黙って背をさすっている。
「じゃあ早番を頼む」
ギルベルトとユリアに警戒の早番を頼んで、俺とバルトは横になる。だが眠れない。ギルベルトとユリアが何か話しているようだ。眠らなくてはいけないが、そう思ってもウトウトするのがやっとだった。
交代の時間が来て、俺とバルトが警戒に立つ。
「ツラいな」
「ああ」
バルトとの会話も弾まない。
「護衛依頼を報告したら、ランクアップするかもだな」
「でも、できれば人間相手はしたくない」
「…そうだな」
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引き続き読んでいただければ幸いです。




