22.演劇とオークション
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「後、もう少しでゲーランの街に着きまさぁ」
御者台のロドリゴさんが声をかけてくるが、俺とバルトは眠気を我慢するのが大変だった。朝の内に摘んでおいた、とにかく苦いだけの薬草を噛んで必死に起きている。
「ユウトの薬草の知識が役に立ったな」
「まさかこんな風に役立つとは思わ無かったよ」
夜明け前、流石に緊張も緩んでしかたないので、インターネットで『眠気覚まし』『薬草』と検索してそこら辺に生えてた薬草をとってきた。
錬金術師ギルドの婆さんに教えてやったら喜ぶだろうか?いや、既に使ってる気がするな。
「なあ、バルト。乗り物で眠気を誘われるのは、赤ん坊の時に聞いた母親の心臓の音を思い出して安心するからだそうだぞ」
「へーほー」
ギルベルトとユリアがなんとも言い難い表情で俺達を見ている。ええい、俺達じゃなく外を警戒しろよ。
「さて、ゲーランの街に着きましたよ」
ロドリゴさんの言葉に俺達は転がり落ちる様に馬車から降りるとへたり込んでいた。
「はは、相当参った様だね」
アランさんが近づきながら声をかけてくる。
「アランさんは平気そうッスね…」
「慣れているからな」
「慣れですか…」
「君達でも初めてはこんなもんだろう。2日滞在して、3日後にカラドの街に向けて出発だ。疲れただろうから今日は早めに休むと良い」
「宿屋はトマーゾさんが用意してくれてる。俺達はなんどもゲーランに来てるから案内してやる付いて来い」
面倒見の良い、ジェフリーさんが宿を案内してくれるようだ。
ジェフリーさんについていくと、駆け出しには立派な宿屋に案内してくれた。
「銭湯もこの通りの突き当りにあるから。今日は風呂入って飯食ったら、さっさと寝ちまえ」
ジェフリーさんにお礼もそこそこに。風呂に入って飯食ったら、それはもう泥のように眠ったさ。
・・・・・・・・・・
翌朝、意外に快適な目覚めをした俺達は、宿屋の食堂で朝飯をとっていた。
「さて、2日どうする?」
「この街は初めてだから観光でもするか?」
「そうですね。良いかもしれません」
「この街の冒険者ギルドを見ておくのも良いかもよ」
ギルベルトはまじめだなぁ。
「じゃあ、今日は冒険者ギルドに言って。明日は観光にするか?」
「それなら、俺は錬金術師ギルドにも行っておきたい」
「なにかあるのですか?」
「大した事じゃないが、明日観光というか買い物に行くなら掘り出し物を探したいだろ。低級マナポーションの売り上げが入っていたら、錬金術師ギルドから受け取って軍資金にしたいと思ってな」
「儲かってると良いね」
「ついでに槍の柄のトレントの素材があるかもしれないしな」
「それでは、出発しますか」
4人で連れだって宿屋を出る。
「ところで、冒険者ギルドはどこでしょうか?」
「「「さあ?」」」
あかん。昨日、ジェフリーさんに引きずられるように、なにも考えずに宿屋に泊ったから。全く地理がわからん。
「そんなお前等に親切なジェフリー様が案内をしてやろう!」
「「「うお!?」」」
「おはようございます。ジェフリーさん」
宿屋の前で待ち構えていたのだろうか。背後にジェフリーさんが立っていて、してやったりという表情をしていた。
「びっくりしたッスよ。ジェフリーさん」
「びっくりさせようとしたからな。で、今日はどうするんだ?」
「話が早いですね。冒険者ギルドと、後は錬金術師ギルドを見に行こうと思います」
「カーッ!真面目だねぇお前ら。もっと遊んでも良いと思うがね、俺は」
「明日は観光というか買い物の予定ですよ」
「また、良い装備が手に入らないかとか考えてるだろ?」
「……」
「やっぱりな。まあお前等らしくて良いっちゃ良いがね。まずは冒険者ギルドだったな」
ジェフリーさんについて街の大通りにでる。
「だいたい、街の大門から続く大通りに冒険者ギルドはあるから覚えておくと言いぞ」
その通り冒険者ギルドの看板が見える。
「さあ、ここがゲーランの街の冒険者ギルドだっていっても隣り街だからな。そんなに大きな違いは無いと思うぞ」
さっそく4人で依頼ボードを覗き込む。
「マブキア草の買取価格は変わらないな」
「あれはどこのギルドでも一緒らしいよ」
「見習い冒険者の糧ですからね。同じにしているようです」
「トレントの素材回収依頼があるな。ここでも入手は難しそうだな」
あわよくばトレントの素材が手に入らないか期待してたんだけどな。
依頼ボードを眺めていたバルトが1枚の依頼票に気が付いて話しかけてくる。
「おい、これってユウトが作ったポーションの素材じゃないか」
「そうだなって、5本1束で銀貨5枚だって!?低級マナポーション自体はいくらになるんだ?」
「なんだお前等、低級マナポーションの事を知ってたのか。情報が早いな」
「ジェフリーさんも知ってるんですか?」
「知ってるもなにも『明けの光』でも買ってるさ。あると無いとじゃ魔法使いが、いざって時に踏ん張れるか大違いだからな。だけど銀貨50枚は高っけーよな」
「「「「ごっ…」」」
「まあ、そんな値段なんですか?」
「そうだな。だがこれでパーティが生き残れるかの分かれ目で、生き残る方に天秤が傾くならな…」
ギルベルト達が小声で話しかけてくる。
「本当にもらっちゃって良かったの?」
「そのためのものだから…(震え声)」
「ヘイ。ユウト、ビビってる」
「そりゃビビるわ」
「この後、錬金術師ギルドに行くのが楽しみですね」
「「「……」」」
まあ、実際すぐ隣りの街だけあって依頼内容はそんなに代り映えしなかった。せいぜい、次の街への護衛依頼くらいだが、今の俺達にはすぐには関係ないだろう。
「次は錬金術師ギルドだったか?確か大通りから中央に進む道を行ったところだ」
ほどなく錬金術師ギルドの建物が見えてくる。なんで分かるかって、カラドの街の錬金術師ギルドの建物に雰囲気が似ているんだ。荘厳というか研究の徒の集まる所ってはの自然と似通ってしまうのかね。
俺はなんとなく慣れてしまったので何気なく門をくぐったが、ジェフリーさんでもなんとなく気後れしている様子だった。
受付のお姉さんに錬金術師ギルドのギルドカードを見せると。ああこの人みたいな顔をされる。
「奥でお話した方が良いですか?」
「お願いします」
俺はジェフリーさん達の方を振り返って
「ちょっと込み合った話してきますので、待ってもらっていいですか」
と断りを入れる。
「おう、ここで待ってるわ」
ジェフリーさんが気軽に答えるが、バルト達の顔が微妙に引き攣っていた。
・・・・・・・・・・
「あなたが低級マナポーションの作成者ですか。私はこの街の錬金術師ギルドの長、パトリックです」
「ユウトですよろしくお願いします」
カラドの街のヒルデガード錬金術師ギルド長に比べても随分若い。壮年といった感じだろうか。
「低級マナポーションは素晴らしいですね。それ自体も研究の対象として興味深いですが、収益のおかげで研究費が潤っていますよ。金銭的に滞っていた研究がいくつか再開したほどです」
おおう、意外とデカい経済効果を出していたようだ。そして錬金術師ギルドは研究狂いばっかりか。
「そうすると、今の俺への支払いは…」
「そうですね。ざっと金貨5枚といった所ですか」
「…」
「ご不満ですか?まだ、世に出て間もないですからね認知度や信頼度が低いだけですよ。今にもっと売れますよ」
「いえ…今でもちょっと稼ぎすぎて…」
「そ、そうですか?」
「ともかく、冒険者ギルドに俺の名義で預けてもらえますか。持ち歩くにはちょっと…」
「それはそうでしょうね。手続きしておきます。明日には使えますよ。」
「よろしくお願いします。ありがとうございました」
リックギルド長にお礼を言って退席した。ふうっ、お金はあって困らないがちょっとびっくりだよ。
みんなの所に戻ると、ギルド長と部屋を出てくる所を見ていたのだろう。ジェフリーさんが怪訝そうに尋ねてきた。
「なんだか偉そうな人と出てきたが、ユウト、お前なんかやったのか?」
「ソンナコトナイデスヨー」
「まあ、いいが…」
その後、予定はしていなかったがギルベルトに付き合って魔術師協会をのぞいてみたり。教会でユリアが祈りを捧げるのに付き合って。今日は終わった。
「あしたは観光だな。いろいろ案内してやるぞ」
ジェフリーさん…あなた暇なんですか…
「じゃあ明日の朝、また宿屋の前でな」
上機嫌でジェフリーさんは去っていった。
・・・・・・・・・・
つぎの朝、ジェフリーさんは予告通り。きっちり宿屋の前で待っていた。
「さあ、このゲーランの街にしかない所に行くぞ」
「いったいなんなんスか?」
「まあ、付いて来い」
しばらく、大通りを歩くとひときわ賑やかな店?の前に着いた。
「劇場だ。カラドの街には無いだろ」
「劇場ってお芝居を見せる小屋って事ですか」
「そうだぞ。今日の演目は『コンスタンツォの竜退治』みたいだな」
「おれ、その話子供の頃に聞いたッス」
「僕も」
「私も孤児院で」
どうやら、有名なお話らしい。
「じゃあ、皆で見ていこうぜ」
気前のいいジェフリーさんが俺達の分の入場料も払ってくれた。
お話自体は、神の血をひく青年コンスタンツォが自らの出生の秘密は知らずに、老魔法使いに導かれ。成長して仲間と出会い。時には怪物を倒し、時には美しい魔女の誘惑を振り払い。偉業を成す。という、まあよくある物語である。
「いやー面白かったな」
「村長の話より迫力があったね」
「絵本よりドキドキしました」
「ど派手な演出だったな」
「お前等、大満足だな」
ジェフリーさんが俺達の反応に気を良くして、頷いている。
「実はな、俺もコンスタンツォに憧れて冒険者になったんだ」
「俺もッス」
「僕も」
ジェフリーさん達の目が輝いている。ああ、やっぱり根っこにあるのは俺達と変わらないんだなと、親近感を感じてしまう。
広場の屋台で買った、冷たい飲み物をみんなで飲んで興奮をさますと。ジェフリーさんが言った。
「じゃあ、次はちょっと大人な名所だな」
案内されたのは大通りから、ちょっと離れた通りにある立派な屋敷だった。
「ここはな、オークションをやってるんだ」
「「「オークション?」」」
「ああ、店には出回らない珍品や希少な品を競売にかけるんだ」
「俺達も参加できるんですか?」
「ああ、ちょっと入りづらい門構えだが、まっとうなオークションだ参加は自由だぞ。入ってみるか?」
「見てみたいです」
「興味がありますね」
「俺も見たい」
「よっしゃ行こうか」
ジェフリーさんを先頭に屋敷の門をくぐると門の前には執事が立っていた。
「ようこそお客様。残念ながら本日はオークションの開催はありませんが、明日出品されるものの見学はできますが。見学なさいますか?」
「頼む」
「では、こちらへ」
執事が門を開けると絨毯の敷き詰められたエントランスへ通された。
「冒険者丸出しの格好だけどいいんスか」
「気にしなくていい、俺も何度かきてる」
完全に雰囲気に飲まれてジェフリーさん頼りである。
「こちらが下見会の会場になります。お手を触れなければどうぞご自由にご覧ください」
執事が下がっていったので。俺達はおっかなびっくり展示物を眺めて行く。
キングスタッグの頭骨だとか、セイレーンの剥製だとか、スプライトの虹色の羽だとか目がチカチカするようなものが目白押しだった。
圧倒されて屋敷を後にするとジェフリーさんがどうだ!と言わんばかりに胸をはっていた。
「すごいですね」
「見るだけなら、また来たいな」
「いったいどれだけの価値があるのでしょうか」
バルトなんか口が開いたままだぞ。
「ま、冒険者向けの出品がある時も有るからな。お前達も参加できるようになるといいな」
「無理ッスわー」
圧倒されたまま宿屋に帰ったが、明日がカラドの街に帰る日だ気を引き締めねば。おい、バルトしっかりしろ。まだ口が開きっぱなしだぞ。
・・・・・・・・・・
次の日、どうにか衝撃から回復した俺達は『明けの光』と共に集合場所につくとトマーゾさんに出迎えられた。
「どうだった、ゲーランの街は?カラドの街とはまた違っただろう」
俺達が頷くと。
「そうだろう、だが驚いているのはここまでだぞ。帰りの護衛もしっかり頼むぞ」
トマーゾさんに釘を刺されてしまった。行きと同じで『明けの光』が先頭の馬車、俺達『光の翼』が最後尾の馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと帰りの道を走り出した。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。