20.庭キャンプ
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庭キャンプ…楽しいですよね…
翌日、俺達は朝飯を食べると宿屋『星屑亭』の裏庭でテントと格闘していた。
「おーい、ギルベルト。次はどうするんだ?」
「ちょっと待ってよ。えーと説明書説明書」
「ユリア、そこ押さえてて」
「お待ちください。はい、どうぞ」
大騒ぎである。賑やかな様子につられたのかエリルが様子を眺めに来て、そのまま仕事に帰らないもんだから女将さんがやって来てエリルに拳骨を落としていた。
俺達はテントを組み立てる担当を入れ替えて、小型の方も中型の方もみんなが相互に組み立てられるように訓練を繰り返した。最初はなかなか上手くいかないが、みんなでワイワイ言いながら、組んではバラシてまた組み立てるを繰り返していたらなんとなくサマになってきた。
そんなことをやっていたら昼になったので、保存食を使った野営飯にもチャレンジする。
「…本当に固いなこのパン」
何回も焼き固めて保存性を良くした堅パンをバルトが直接齧って、歯を抑えてる。その様子を見て俺は腹を抱えて笑ってやった。
「本当にユリアに任せていいの?」
「任せてください。慣れていますから」
裏庭の隅のポーション作成用の小さな竈でギルベルトとユリアが鍋を覗き込んでいる。
「孤児院では毎日パンを焼きませんから、固くなったパンと近所のお店から寄付でもらった余り物の野菜と煮込んだパン粥は良く作っていたんですよ」
「なるほどねー」
良い匂いが裏庭に漂っている。さっそく4人で深皿に盛って食べてみる。干し肉の塩気だけの味付けだけだが、庭キャンプの雰囲気のせいだろうか格別美味く感じる。
「おかわり!」
「俺も!」
バルトと俺はガッついて既に食べ終わってしまった。
「もうありませんよ」
「練習にちょっと作っただけなんだから。屋台で何か買ってきなよ」
ギルベルトに怒られてしまった。
「ユウト。付いて来いよ」
バルトに誘われて追加の昼飯を買い出しに行く。
「あの2人はよく食べるなぁ」
「しかたありませんよバルトさんとユウトさんは前衛でよく体を動かしますから」
「まあ、そうだね。ユウトもバルト程じゃないけどガッシリしてきたし」
・・・・・・・・・・
「ん?なんか俺達の話してたか」
ホットドッグや果汁を絞ったジュースを山ほど抱えて戻ったらギルベルトとユリアに呆れたように見られた。バルトが静かだと思ったらさっそくホットドッグに齧り付いていた。
「なんでも無いよ。バルトたちはよく食べるね」
お腹も膨れてひと心地ついた俺達はテントから上半身だけ出して、一休みしつつ護衛依頼に思いを巡らせていた。
「大きな街道だから魔物はゴブリンか出てもフォレストウルフくらいかな」
「俺達の敵じゃないな」
「少数ならな。まあ人通りのある街道みたいだし大きな群れは無いだろうけどな」
「魔物はともかく山賊ですよ…」
「人間相手はあんまりしたくねぇなぁ」
「そうだな」
「…街も近いし出くわさないことを祈ろうよ」
「そうですね」
やっぱり山賊はみんな、気がかりだった。俺だけじゃなくバルト達も人間相手に殺し合いをすることには忌避感があるようだった。バルトやギルベルトだって村育ちで猟師見習いはやってても人間相手は無いだろうし。ユリアは教会の孤児院育ちで、スラムのような荒事の身近な環境では無かったようだしな。
「所でだな、ギルベルトとユリアに良いものがあるんだが」
懸念を払うように務めて明るい声で、俺は2人の前にポーションを出した。
「見たことの無い、色ですね」
「薄い虹色だね」
「そのポーションは魔力を回復してくれます」
「「ブッ!」」
吹くなんて汚いな君達!
「何それ!僕聞いたことも無いよ!」
「私も聞いた事ありません」
「そうかもな。俺が作ったからな」
「「えぇ…?」」
「そんなに珍しい物なのか?」
「バルト…魔力の回復方法は休息だけなんだよ…」
「それがポーションで回復できるのですから、画期的な事です」
「お、おう…」
バルトが2人の勢いに気圧されている。
「貴重なのではないですか」
「そうだな1つ銀貨20枚以上の値が付くはずだ」
「「「銀貨20枚!」」」
「作成販売を錬金術師ギルドに預けたから、儲けの十分の一が入ってくる」
「金持ちじゃねえか!」
「まあな、でも欠点もあるしな」
「どのような欠点なのですか?」
「魔法を使うと疲労して、それでも使い続けるとダウンしてしまうだろ」
「そうだね」
「その、低級マナポーションって名付けたんだがポーションで確かに魔力は回復できるんだが、疲労感までは完全には無くせないんだ。
だからポーションを山ほど使って魔法を連発するって言うようなことはできない。」
「こんな高価なポーションを山ほど買い込む方が想像できないよ」
「だよなぁ、しかもまだ海の物とも山の物ともつかない。信用がないから買う人も少ないだろうし」
「このポーションは私たちが使って良いのでしょうか?」
「そのために作ったんだよ。ゴブリンの上位個体やら大規模討伐でギルベルトもユリアも魔法を相当無理して使っただろう?」
「それはそうだけど」
「2人が魔力の残量を気にせず魔法が使えたら、俺達のパーティは戦いやすくなる。つまり生き延びる可能性が高くなるし、もっと稼げるようになる。良いことじゃないか」
「そう言われれば、その通りですが」
「なーに、材料自体はカラドの街の郊外の森で採取できるんだ。今まで薬草と思われてなかっただけでね。錬金術師ギルドが販売するから銀貨20枚以上もするけど、製作者の俺が作る分にはタダだし大した手間じゃない。もちろん薬草採取は手伝ってもらうけどな」
「そこで薬草採取に戻ってくるのがユウトらしいや」
ギルベルトが苦笑するとユリアも納得してくれたらしい。
「所で、俺には何かないのか?ユウト」
「限界まで体を酷使して休むとガタイが良くなって力が強くなるらしいぞ。テント担いで市壁の周り走ってくるか?バルト」
「…今日はかんべんしてくれ」
そうやって他愛無い会話をしていたら夕暮れが迫って来ていた。みんなで慌ててテントを分解すると薄暗い中でテントを組み立てる練習に戻る。
夕食は宿屋の食堂から運んでもらって裏庭で食べて、その夜は部屋には戻らずテントで寝た。暗い気持ちは吹き飛んでなんだか興奮して、みんななかなか寝付けない様子だった。
「「「「おはよう」」」」
みんな少し寝不足気味だった。毛布を2枚重ねて敷いても宿屋のベッドには適わないな、なんて言いながら。手早くテントを分解して片付けると、朝食をとりに食堂に向かう。
「護衛依頼の出発は3日後だが、今日と明日はどうする?」
「僕は荷物の重さになれておきたいな」
「私もそう思います」
「私にいい考えがある」
俺が言うと3人が胡乱な目を向けてくる。
「テントや荷物を担いで市壁の周りをランニングは嫌だぞ」
「依頼まで日にちが無いんだそんなに無茶はしないさ」
「じゃあ、何するんだ?」
「薬草採取に行かないか?荷物を担いでフル装備で」
「「「…まあ、それくらいなら」」」
「移動時に背負っていくだけで、採取中は降ろしておけば良いだろ。実戦だって戦闘中は投げ捨てておくんだから」
「やっぱり僕達は薬草採取が板についてるね」
「メリットがあるんだから良いじゃないか。もっと安全により稼げるようになったら考えれば良い!」
ドヤァとばかりに主張すると、ユリアが。
「ま、まあ、荷物の重さに徐々に慣れるのには良いのではないでしょうか」
微妙に納得していなかった。
冒険者ギルドに荷物も完全に背負って薬草採取を受けに行くと、受付のお姉さんが何事かと尋ねてきた。
「こんど護衛依頼を受けることになったので荷物の重さに慣れるために、普段から背負って行動しているんです」
「そ、そうですか。そうですね…」
なんでだ?薬草採取の簡単な依頼を受けながら、荷物の重さにも慣れることができる。安全かつ効率的な方法だと思うのだが、賛同者がすくないな。
「ではお気を付けて」
他の駆け出し連中からもドン引きの視線を浴びながら、受付のお姉さんに見送られて出発した。
「受けた薬草採取依頼に今まで見たことのない薬草がありましたね」
「それが低級マナポーションの素材なんだ。錬金術師ギルドからの依頼だっただろう」
「そういえば、そうだったね」
「買取価格も他の薬草の10倍くらいしてたぞ」
薬草採取は経済を回して支えるのだ。薬草採取を崇めよ。
「もう少しペースを落とそうか?」
まだ森への行程の半分くらいだが、ユリアが遅れ気味だ。
「このままで、でも後で少し休ませてください」
ギルベルトもちょっとキツそうだし、今日はフォレストウルフが出るあたりは止めておくか、みんなをいつもより敵が少なめの群生地に案内する。
森の浅めの群生地について、みんな荷物を降ろす。それぞれに荷物から水袋を取り出して水を飲んでいる。冷たいと美味しいだろうなぁ、と思わなくも無いが仕方がないだろう。
さて、そろそろ薬草採取にかかりますか?と目配せするとバルトが1人違う方を見ている。
「バルト、どうした?」
小声で尋ねると。
「あっちの方でゴブリンの声が聞こえたようでさ」
「ユリアに探ってもらおうか」
「奇襲をかけられても面白くない。そうしよう」
「承知しました。『邪悪を報せ給え』ゴブリンが3です」
今日は薬草採取の前に一仕事の様だ。こちらから仕掛けて3匹なら、これ以上魔法を使うこともない。さっくり倒して薬草採取に戻ったのだった。
夕方には、またテント張りの訓練をしなければならなかった。
「ユウト。精が出るね」
「ギルベルトか…低級マナポーションを作っておこうと思ってね」
テントの組み立て分解の訓練を終えた後、みんなそれぞれに鍛錬をしていた。今日の俺は採取した薬草からさっそく低級マナポーションの作成をやっていたのだ。
「護衛依頼に備えて作っておけるなら余裕があった方が良いかなってさ」
「『明けの星』が一緒だからそんなに心配しなくても」
「そうなんだけどな、備えておくに越したことはないだろ」
事実、俺達のポーション用ポーチは、俺が毎日各種低級ポーションを作成しているのでほとんど満杯近くを維持している。
「まあ、無理しない程度にね」
「ああ」
翌日も軽めに薬草採取に出かけたが、魔物と出会うことも無く。夕方の訓練を終えたら、明日はいよいよ護衛依頼の出発日ともあって、早めに休むことにした。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。




