17.大規模討伐の後:ユリアの場合
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総合評価が150を超えました。ひとえに読んでくださる皆さんのおかげです。
私は神に祈りを捧げていた。最近は混沌より産まれた邪悪な存在である魔物を倒す機会にも恵まれた。
その結果、パーティの仲間達が口を酸っぱくして言う貯金をしながらでも前よりも多く喜捨が出来るようになった。
実は私には劣等感がある。『癒しの奇跡』を使えない欠陥神官。
冒険者になってからパーティを組もうとメンバー募集に行っても、自分から売り込みに行っても『癒しの奇跡』が使えないと分かると決まったように断られた。
なぜ私は『癒しの奇跡』を授からなかったのだろう?授かる奇跡は自分の願望が影響するのだと司祭様は教えてくれた。
だとすると教会が運営する孤児院で育った頃の思いが反映したのかもしれない。
孤児たちが出来る仕事は少ない。街の清掃や食堂の洗い物や商店の小間使い、繕い物の請負など。
その日は森の周りで薪拾いだった。数人の孤児たちで薪拾いをしているとホーンラビットと出くわしたのだ。初めて見る魔物に私達は動けなかった。硬直する私達の1人にホーンラビットは角を突き立て、怪我を負った子は悲鳴を上げた。
その後は皆、必死で逃げた。後で知ったが怪我を負った子は年上の男の子が引きずって逃げたそうだ。孤児院の先生が『癒しの奇跡』を使えたので怪我をした子は一命を取り留めたけど、体に障害は残ったそうだ。
私は逃げるしかなかった自分が悔しかった。魔物がいる事に気付ければ私達は魔物に出くわす事はなかったのではないか?恐怖に囚われなければ誰も怪我せずに逃げ出せたのではないか?
私のそんな思いを神様は叶えてくれたのかも知れない。孤児院を出る歳になった私は、それまで必死に貯めたお金をはたいて装備を買って冒険者になった。そこにはあの日の後悔を晴らしたかった思いがあったのかもしれない。
だが、授かった奇跡は駆け出し冒険者には不向きだったかもしれない。『感知の奇跡』と『鼓舞の奇跡』。
パーティの皆は「魔物の存在を察知して不意打ちが防げる」「魔物にひるまなくて戦いやすい」と私の能力を積極的に認めてくれる。だけど神様、もう少し初心者向けの奇跡でも良かったんじゃないですか。少し思うこともある。
その祈りが通じたのだろうか?大規模討伐を成した後のある日、神より2つの奇跡を賜った。『治癒の奇跡』と『軽歩の奇跡』だった。
司祭様に奇跡を賜った事を報告したら、驚かれた。『軽歩の奇跡』はともかく『治癒の奇跡』は『癒しの奇跡』より授かるのが難しいらしく冒険者のなかでももっとランクの高い神官が授かるものだというのだ。
たしかに授かる奇跡には願望が影響するのかもしれない。
私たちパーティでは傷の治療はユウトの作る低級ヒールポーションでまかなっていた。だけどユウトは事あるごとにポーションでは戦闘中にとっさには使えないし、低級では戦闘中に大怪我を負った時に間に合わないかもしれないと言う。
それから、私の最近の役回りはギルベルトとペアだ。私が走ってはメイスで殴りかかって隙を作って、ギルベルトが弓でダメージを与えるパターンだ。正直に言うと走り回って少し辛かった。『軽歩の奇跡』では素早く動ける上に反射神経も鋭くなる。
ホブゴブリンの攻撃を躱せずに吹き飛ばされたような事が少なくなると嬉しいな。
宿屋『星屑亭』で夕食を取りながら新たな奇跡を授かった事をみんなにに報告する。
「すごいじゃないかよ!ユリア」
バルトはムードメーカーだが、反面なにがすごいのか本当に良く分かってるのか、疑問に思わなくもなかった。
「『治癒の奇跡』を駆け出しがおぼえるなんて、本当にスゴイよ」
ギルベルトはパーティの頭脳担当。素直に称賛してくれた。
「『治癒の奇跡』も凄いが『軽歩の奇跡』だな」
ユウトもどちらかと言えば頭脳担当だけれど、彼の事は正直よく分からない。
「『軽歩の奇跡』がそんなに凄いですか?私は走り回るのが楽になって良いですけど」
「バルトが少し前に重戦士に転向しただろう。だから装備が重くて、しばらくは前の様に先手をうつのは難しいと思ってたんだ。けど『軽歩の奇跡』があれば、バルトが以前と同じかそれ以上に動けるだろう?」
「じゃあ俺は、もう走り込みしなくて良いのか!?」
「いいや!走り込みはやってもらう。絶対にだ!」
ユウトがバルトとふざけあってるが、私には無かった発想だ。思えばユウトはいつもパーティ全体を見ている気がして来た。
「それにギルベルトも混戦に矢を撃ち込むのに、味方を誤射しないように射線を確保するために結構走るだろ」
「そうだね。魔法と併用するのに息が切れて辛いときがあるかな」
「それでは『治癒の奇跡』よりも『軽歩の奇跡』の方がよく使用すると?」
「そうだな、いざという時には『治癒の奇跡』に頼らせてもらうけど普段は『軽歩の奇跡』方が出番がありそうだな」
やっぱりユウトの着眼点は普通の冒険者とは違うようだ。『治癒の奇跡』を授かって欠陥神官とはもう言わせない。そう思っていた私には目からウロコが落ちる思いだった。
やはりこのパーティに拾われて良かった。この仲間たちで良かった。そう思ったけれどギルベルトの次の言葉で後悔することになった。
「そうなるとユリアにも魔力量の特訓が必要なんじゃないかな?」
「そうだな」
「魔力量の特訓って何ですか?」
「それはね…」
ギルベルトの笑顔の口元が、三日月のように広がって見えた…
その後就寝前の神様へのお祈りは、魔力量の特訓の前のお祈りになった…
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。