15.大規模討伐の後:バルトの場合
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俺は正直伸び悩みというか、自分の方向性について悩んでいた。
大規模討伐の時、俺の戦い方はどうだっただろうか?たしかに勝ったがいかにも泥臭い殴り合いだった。
子供の頃物語で聞かされた英雄達はもっと華麗に魔物を倒していたように記憶している。そんな英雄達に憧れたから自分は剣を習ったような物だ。
翻って今の俺はどうだろう。ゴブリンなど格下ならばともかく大規模討伐の際、ホブゴブリンにもユウトと2人、最終的にはユリアも殴り合いに参加してギルベルトが隙きを作って4人がかりで倒したのだ。
憧れた英雄像とのギャップに悩んでしまう。物語の中の英雄はまだしも、『明けの星』のアランさんはどうだろう?カイトシールドを構え、斧を振るって果敢に魔物を倒すと聞いている。実際の姿は見ていないが…
俺は依頼が休みの日の夕方、冒険者ギルドにはりついていた。なんとか『明けの星』の先輩冒険者達に相談してみたかったのだ。
ある日、なんとか『明けの星』が依頼帰りを所を捕まえることができた。
「アランさんすんません」
「ああ、『光の翼』のバルトじゃないか。この間は、ゴブリンの氾濫を防いで大活躍したそうだな」
「やめてくださいッス、ただのバルトッス」
「お前等、Eランク期待の星だぞ。謙遜すんな!」
面倒を焼いてくれる兄貴分のジェフリーさんも言ってくれるが実感は無い。
「まあ、いいさ。それで?今日はどうしたんだ?」
「実は自分のこれからに悩んでいて相談したかったんスよ」
そう言って、バルトは思い悩んでいた自分がどんな方向に能力をのばすか話していた。大規模討伐の際に見た斥候の見事な手際や、自分の泥臭い戦い方…
アランさんとジェフリーさんは黙って最後まで話を聞いてから、おもむろに切り返した。
「で、おめぇはそれをパーティの連中には話したのか?」
「君は『光の翼』のリーダーだろう、まずは自分のパーティとよく相談するのが筋だろう」
バルトはハッとして、不明を恥じるばかりだった。
「まあ、俺等から助言できるとすれば。お前等は大した怪我も無く生き残ってるって事だ」
「そうだな、俺達は冒険者だ。泥にまみれても生き残るのが第一だからな」
「格好良く戦おうなんざ騎士様が考えりゃ良いのさ。アランだって、この間なんてミノタウロス相手にバタバタ走り回って戦ったんだぞ」
「なっ!それを言うならジェフリーだって走って逃げ回りながら切りつけてたろう!」
「バッカ!俺は軽戦士だ!あれが当たり前だろ!」
これが『明けの光』の普段の姿なんだろう。俺達とそんなに変わらないなとバルトは笑いをこらえて百面相をしていた。
「ゴホン!つまりだな君達が格上の相手でも、俺達にとっては格下だから余裕で戦えるだけなんだよ」
「そうだぞ、俺達にだってお前等と大してかわらん。生き延びるのに必死だ」
「仲間達とよく話し合って決めるといいよ」
「はいッス」
幾分、気分が軽くなってバルトは冒険者ギルドを後にした。
仲間達が夕飯を食いに星屑亭に帰ってきた。その席でバルトは仲間たちにさっそく相談してみる。
「俺のパーティの中での役割で相談してしたいんだが、いいか?」
「なんだい改まって、僕でよければいくらでも相談にのるよ」
ユウトもユリアも頷いた
「すまん、みんな。俺は今は戦士として前衛に立つだけだよな」
「まあ、そうだな」
「だが、この間の大規模討伐でそれだけじゃダメなんじゃ無いかと思ってな」
「それで何かしらの技能を身に着けようと言う訳ですか?」
俺は深く頷いて、話す。
「2つの選択で迷ってる。1つは斥候だ。『夜の猫目』の斥候の事を覚えてるか?ユウト」
「ああ、見事な隠密行動だったな。それに敵の規模を正確に割り出したから、その後の大規模討伐が上手くいったとも思える」
「そうだな、だから1つは斥候としての技能を磨いてはどうかと思ってる…」
「だけど他にも迷ってるんだね」
ギルベルトが先を促す。
「ああ、ゴブリンソードマンやホブゴブリンに相対した時に力不足をかんじた。もっと楽に倒す方法は無かったのかとな」
「バルトはどう思ってるの?」
「俺は猟師の経験がある。それを活かして斥候はどうかと思っている」
「うーん、どうだろう。斥候なら小柄ですばしっこいヤツが向いてるんじゃないか?」
「ユウトはそう思うか?」
「ああ、バルトはだいぶ体格が良いからな。肩幅も厚みも増えたんじゃ無いか?」
「そうだな、実は鎧が最近小さくなってきつい」
「むしろ重武装になって敵をもっと引き付けてくれれば俺は戦いやすい。なんせ俺はビビリだからな」
「僕はバルトが的確な指示を飛ばしてくれるのが頼もしいよ。斥候だと大声足すのは不味いんじゃ無いかな?」
「チームワークで戦うか…『明けの星』のジェフリーさんにも格好良く戦おうなんて思うなって言われたよ。泥臭くても生き延びる方が大事だってな」
「僕もそう思うよ、バルトが踏ん張ってくれればユウトもユリアも戦いやすいじゃないかな?」
「そうだな、大型の魔物に短弓は効きにくくてあまり使わなくなったし、弓を捨てて重戦士を目指すか」
何かが吹っ切れたような気がした。
「じゃあ大規模討伐の報酬もあるし武器屋に行かなくちゃだな」
「やっぱりそうか…せっかくまとまった金だったんだがなぁ」
俺が情けない声を出すと、ユウト達は陽気に笑った。
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「親父、重戦士の装備を見繕ってくれ」
休みの日、みんなで武器屋『角笛の音』をたずねたて俺は開口一番親父に言った。
「おうおう、ボウズ共も次のステップに進んだか。で、どんな方向でいくんだ?」
「ゴブリンの上位個体相手にも引かずに攻撃を耐えられるようにしたい」
「予算はどのくらいだ?」
「銀貨90枚」
「じゃあこんな所だな」
親父が店の奥から色々抱えてくる。
鎖帷子に今までより黒っぽい革鎧、金属製の兜、今までより大きな木製の丸盾
「今までの革鎧は下取りしてやる。二束三文だがな。鎖帷子の上に革鎧を着込め。魔物の革でこれまでより丈夫だぞ」
「結構、重いな…」
「まあ、お前の体格なら、その内慣れるだろ。それから兜と盾だ」
「視界が結構狭いな…」
「慣れだ慣れ!それから今の篭手に金属板を貼ってやる。サービスだ。
あと、慣れて金ができたら革鎧にも金属板を貼ってやる。それからブーツの上から着ける金属製の脛当ても買えよ」
親父から装備を着せてもらったがずっしりと重い。だが、盾を構えれば上半身はすっぽり隠れるし、堅牢そうだった。
「これ…いざと言うとき動けるかな…」
「市壁の周りでも走り込んだらどうだ?」
「気軽に言うなよな、ユウト…」
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。