14.大規模討伐の後:悠斗の場合
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冒険者ギルドに帰還すると副ギルド長のアンドルーから成果と被害報告があった。目標としたゴブリンの氾濫は未然に防がれゴブリンジェネラルも発生していたが『双頭の鷲』によって打ち倒されたこと。
そして『魔竜の尾』に重傷者が1名とEランクパーティの1つが1人を除いて壊滅していた。同じEランクパーティの壊滅を聞いて戦慄するものがあったが、それでも報酬は俺達の気分を高揚させた。
先のゴブリンソードマン討伐から巣穴の報告、大規模討伐のホブゴブリンを含めた戦果に銀貨500枚の報酬が出た。
・・・・・大規模討伐後、悠斗の場合・・・・・
大規模討伐で疲れ果てて帰った翌朝、朝飯の給仕はエリルではなく女将さんが忙しそうに運んでいた。
「エリルはどうかしたのか」
バルトが何気なく聞くと、女将さんが。
「昨日、ボロボロで帰ってきたあんた等の姿を見て思い出しちまったのさ。少し前に宿に帰って来なくなったパーティをさ。ずいぶん可愛がられてたからねぇ」
苦いモノを思い出すように、話してくれた。
「荷物も誰も回収に来ないし…エリルが泣きながら片付けたのさ」
そうか、冒険者なんてやってれば命を落とすことも身近だ。実際に今回の大規模討伐でも俺達と同じEランクパーティから死者が出ている。
それが俺達だった可能性もあるし、その前のゴブリンソードマンだってギリギリの戦いだった。今まで薬草採取で上手くやってきたけど死にたくないな…
なんとかパーティみんなが死なずに済む方法を考えなきゃな。そんな事を考えて大通りをぶらついていたが考えがまとまらない。
考えがまとまらないのは脳に糖分が足りないんだ。なんて言い訳しながら市場に寄って甘味になりそうなものを探す。
干しぶどうか…こっちでもあるんだな。そんなことを考えて購入すると、つまみ食いしながら『星屑亭』に帰る。
バルト達が鍛錬でもしていないか、裏庭をのぞいてみるとエリルが置いてある樽の上で膝を抱えて顔を膝に押し当てている。
「大丈夫か?エリル」
「…」
顔をあげたエリルの目には涙が残っていた。いつも元気にお客さんの周りをちょこまかと走り回る姿しか知らない俺は一瞬言葉に詰まった。
「…戻って来なかった冒険者の事を思い出したのかい?」
「うん。お客さんがボロボロの格好で帰ってきたときに…」
「でも、俺達は帰ってくるよ」
「だけど、冒険者なんでしょ?いつかは帰ってこなくなっちゃう…」
「俺達が他の冒険者たちに何て言われているか、知ってるかい?」
「ううん」
「薬草採取ばっかりしているから、草刈り野郎だってさ」
「なにそれ!?」
少し、エリルがいつもの調子に戻ってきたようだ。
「だからさ、俺達は冒険者だけど冒険しない。安全確実に生き残るさ」
「本当?」
「本当だとも。俺はビビりだからな危険な事はしない主義だ」
「お客さん、名前は?」
「ん?ユウトだ『光の翼』のユウト」
「ユウトがちゃんと帰ってくるように、寝る前にお祈りするね」
「ありがとうエリル。必ず帰ってくるよ」
そういうと、俺は手に持っていた干しぶどうをエリルに渡す。
「甘いものでも食べて元気だせよ」
「ありがと、でも食べ物で励ますなんてユウト単純。それに私、干しぶどうあんまり好きじゃない」
「なんだと!干しぶどうはな目に良いし、肌にも良いんだぞ」
「エリル女将さんみたいに、お肌の悩みなんて無いモン!」
うん生意気なくらい元気な、いつものエリルだ。俺達はギャイギャイ言い合いながら最後には腹を抱えて笑っていた。
「エリル!いつまで油を売ってるんだい!」
宿屋の中から女将さんの声が響く。
「いけない!掃除の途中だった」
慌ててエリルが駆け出していく。エリルとの約束を守るため俺はなんとか知恵をひねり出すことにした。
・・・・・・・・・・
再び薬草採取が可能になったあと、俺は休みのたびに錬金術師ギルドで調べ物をしていた。実はゴブリンソードマンを倒した翌日、大規模討伐の準備中に考えていたことがあったのだ
ゴブリンソードマン戦では短時間に魔法を連発したギルベルトとユリアはダウンしてしまった。俺自身もポーションを作成に魔力を注ぐ時に感じるのだが、魔力を限界近くまで消費すると強度の運動をしたときのように消耗するのだ。
正確には体力を消耗するというより気力が失われる。俺はこの世界の人間と異なり、自分を含め人間のステータスをインターネット検索によって知ることができる。ステータスには魔力という項目があり、魔法を使用することで一時的に魔力が減るのだ。
俺は以前、低級ヒールポーションの作り方を習ったときに、講師の婆さんから魔力を補充してもらった。その現象から魔力の回復方法もあるのでは無いか?そう考えていたのだ。
落ち着いた今になって調べてみることにしたのだ。そう、インターネット検索で。
検索『魔力の回復方法』
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魔力の回復方法
眠りや休息をとることで自然に回復する
他者から魔力を注いでもらうことでも回復する
またはマナポーションを用いる事で回復する
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やはりあるのか、マナポーション。
検索『マナポーション』
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低級マナポーション
アモフラ草とバイラヒ草を煮出して魔法陣を介して魔力を注ぐと完成する
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アモフラ草とバイラヒ草は分かっている。薬草採取で群生地を確認するために画像検索しまくった時に稀に写っていたからだ。
だけど、低級と名がつくと言う事は中級マナポーションと上級マナポーションもあるのだろうか?
インターネットは俺に何も言ってはくれない…
低級マナポーションならば作ることが可能だろう。これがあればギルベルトもユリアももっと戦いやすくなるだろうし、俺達全員が生き残る可能性が高くなる。
大規模討伐も終わって低級マナポーションを作成しようと考えたが、その前になんの気なしに『低級マナポーション』『売場』で検索してみたのだが結果は『検索結果はありません』だった。
これはもしかして新発見なのではないだろうか?そんな考えがよぎっていた。
さっそく薬草採取のときに個人的にアモフラ草とバイラヒ草を採取しておき、休みの日に作成してみる。
インターネット検索で調べた低級マナポーションの魔法陣を頭に思い浮かべながら魔力を注ぐと、ごっそり魔力を持っていかれる感覚がある。自分を画像検索してみると魔力がガッツリ減っている。
作成した低級マナポーションを飲むと、魔力を使った疲労感が少し和らぎ楽になった。再び自分を画像検索してみると魔力が3割ほど回復している。どうやら成功したようだ。
儲け話の匂いを感じるが、以前ポーションの製法を錬金術師ギルドが管理している事を思い出す。効果もよく分かっていないポーション屋をもぐりとしてやっていくならともかく。冒険者を続けるなら製法を錬金術師ギルドに売るなりした方が収入になりそうだな…
「俺、いまから錬金術師ギルドに行ってくる」
宿屋の裏庭で鍛錬をしている仲間達に声をかけると錬金術師ギルドに向かうのだった。
相変わらず荘厳としたたたずまいの錬金術師ギルドの建物に入ると、受付に話しかける。
「新しいポーションの作成に成功したみたいなんで相談したいんですけど」
「講師をお呼びしますので、お待ちください」
受付のお姉さんは奥に入ると、1人の老婆を連れてきた。低級ヒールポーションの作り方を教わった時の婆さんだった。
「あたしの研究室についておいで」
婆さんについていくと講義室とは違って、さまざまな薬草や宝石らしきものが雑然と棚に突っ込まれた部屋についた。
「それで?新しいポーションを作ったのかい?」
「はい、魔力を回復するポーションです」
「…それは…夢のようなポーションだねぇ」
「信じてもらえませんか?」
「いいや、私たち錬金術師ギルドは研究の徒の集まりだからね。端から否定するようなことはないさ。現物はあるのかい?」
あの後、残った魔力でかろうじて作成できた低級マナポーションを取り出しながら。
「今はこの1本しかありません。最初の1本は魔力を注いだ後の疲労感を少なくとも和らいでくれました」
「ふむ、試してみてもいいかい?」
「どうぞ」
婆さんは小脇にあった鍋に手をかざすと魔力を注いだらしい、鍋の中の水が濃い水色に光る。魔力を減らしておこうってわけだろう。
「あたしは今、上級ヒールポーションを作って魔力が減っている状態だ。これからお前さんの作ったポーションを飲んでみよう」
婆さんが低級マナポーションをあおる。
「なるほど、魔力を使った後の疲労感が軽減されるね。たしかに魔力が回復したようだ」
「わかるんですか?」
「もちろんさ、わたしはポーションを作成を教える立場さ。教える相手にどのくらいの魔力があるか把握する必要があるからね。自分のおおよその魔力量くらいわかる。お前さんも自分の疲労具合から消費した魔力を推測くらいは出来るだろう?」
「そうですね」
「そういうことだ。これは紛れもない魔力回復のポーションだよ。お前さんはこれにどれくらいの価値があるか分かるかい?」
「正直分からないので相談に来ました」
「正直なのも良いことさね。このポーションの価値は未知数だよ。なにせ世界で初めての魔力を回復させるポーションだからね」
やはりそうか。インターネット検索してもどこにも売ってない訳だ。
「さて、事務的な話をしなくちゃならないね」
婆さんは卓上ベルをならすと事務官を呼んだ。
「お呼びでしょうかヒルデガードギルド長」
いかにも堅物といった青年が婆さんの研究室に入ってきた。僧服ということは神につかえる身でもあるのだろう。ってちょっと待て!今ギルド長って言ったか!?
「え?ギルド長って…」
「言ってなかったかい?カラドの街の錬金術師ギルドの長、ヒルデガードさね。暇なときは講師もやってるがね」
婆さんは悪戯が成功した悪ガキのような笑顔を浮かべた。
「それでは以下のような契約内容でよろしいですか」
事務官の青年を挟んで魔力回復ポーションの権利について婆さん…いや錬金術師ギルド長と交渉を行った。
「それでは確認します。
一つ、ユウトは魔力回復ポーションの製法を錬金術師ギルドに公開する。
一つ、魔力回復ポーションは低級マナポーションと作成者のユウトが命名する。
一つ、錬金術師ギルドは低級マナポーションの製法を今後50年非公開とし、
作成販売は錬金術師ギルドでのみ行う。ただしユウトは独自に作成を行える。
一つ、低級マナポーションの価格は銀貨20枚以上とする、
一つ、錬金術師ギルドは低級マナポーションで得る利益の10%をユウトに支払う。
一つ、低級マナポーションの製法を改良した場合も、錬金術師ギルドは利益の5%を
ユウトに支払う。
一つ、錬金術師ギルドは非公開期間、可能な限りユウトの安全に配慮を行う。
これを錬金術師ギルドとユウトは合意し、神に誓約しますか」
「ああ、誓約するよ」
「誓約します」
「誓約の奇跡は成されました。今後、錬金術師ギルドとユウトは神の名において契約に縛られます」
どうやら、契約を遵守する事を神に誓約する奇跡のためにこの事務官が錬金術師ギルドに在籍しているのだろう。
「じゃあ、低級マナポーションの製法を教えてもらうよ!」
おれは低級マナポーションの製法を教える。魔法陣は錬金術師ギルド長と両手を結びお互いに魔力を循環させながら頭に思い浮かべる事で伝えた。公開している製法の魔法陣は図書館でも見ることができるが、今回は製法を非公開としたためこんな方法をとったそうだ。
製法を伝えられた婆さん…いや錬金術師ギルド長はウキウキした様子で棚からアモフラ草とバイラヒ草を探し出すと低級マナポーションを作り始めた。
どうやら事務的な仕事よりも研究者としての姿の方が本分のようだった。
後日、錬金術師ギルド長のヒルデガードに呼び出されて詳細な効能を聞かされた。低級マナポーションを使えば確かに魔力量は回復するが疲労感は蓄積するのでポーションをがぶ飲みして魔法を連発って訳にはいかないそうだ。嬉しそうに説明する婆さんは寝不足で目の下に隈をつくっていた。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。