13.ゴブリン氾濫討伐
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冒険者ギルドに行くと俺達が見たのは思った以上の混乱と活気だった。
受付のお姉さんをなんとか捕まえて状況を聞くと、Cランクパーティが1組、Dランクパーティを3組は確保できたらしい。後はEランクパーティの選抜だが最低でも5組は確保したいらしい。
「Eランクではゴブリンの上位個体は荷が重いですからね。基本的にはDランク以上が対応しますが、巻き込まれないとも限りませんから」
なるほどね。Eランクでも名をあげようって腕に自信のある奴らも居れば、尻込みしてる奴らが遠巻きに見てるのもいるらしい。
「おーい!バルト!それからユウト!」
カウンターの奥から副ギルド長のアンドルーが声をかけてくる。俺達がカウンターに近づくと。
「格下のゴブリンを相手するEランクパーティが足りないんだ。参加してくれないか?」
俺達は互いに顔を見ると頷いた。
「「「「参加します」」」」
俺達の参加で、大規模討伐の合同パーティが決まったらしく、作戦会議をするとの事で参加しない冒険者は冒険者ギルドから解散を言い渡され出ていく。
「ゴブリン氾濫の大規模討伐に参加してくれて感謝する」
ギルド長のよく通る声が響く。
「参加パーティは
Cランクパーティ『双頭の鷲』
Dランクパーティ『夜の猫目』『黄金の剛腕』『魔竜の尾』
Eランクパーティが5組
総勢9組、46人だ。
洞窟内での戦闘は不利だ。煙で燻して洞窟前に誘い出して包囲戦を仕掛ける。
前線は基本的にC、Dランクパーティが受け持つが、抜け穴や横道を掘って逃げ出すかもしれん。『魔竜の尾』とEランク2組が警戒にあたれ。
逃げ出すゴブリンがいないようなら、本隊に合流だ。『夜の猫目』の神官の感知の奇跡で監視する。状況を見て指揮官が笛で指示を飛ばす。
洞窟前はゴブリンの殺到が予測される。C、Dランクパーティだけでは捌ききれんから包囲を徐々に広げる。
格下のゴブリンに不意をつかせんように、Eランクパーティは群れから引き剥がせ。間違っても上位個体を釣るなよ。
討伐決行は明日朝から!それまで英気を養えろ、以上だ!」
午前中に方針が決定して、午後は準備時間となった。
今更武器を変えても使いこなせないだろうし、物的準備としてはポーションくらいしかないだろう。
幸いと言うか、俺の毎日の練習の成果で低級ヒールポーションが全員に10本以上、低級解毒ポーションは1本行き渡っている。
後はパーティ内で格下のゴブリンをどうやって釣りだすか作戦を考えるくらいだろう。
「雑魚ゴブリンをどうやって釣るかだな」
バルトが口火を切る。
「僕とバルトが弓で引っ張るかい?」
「まずはその案だな」
「弓だけで意識を引けなかったり、混戦になった状況はどうする?」
「俺とユウトで近づいて軽傷を与えてジリジリ下がるとか?」
「だな、槍の間合いを活かして釣る事に集中するからバルトにはフォローに回ってほしい」
「ギルベルトの魔法の使用はどうするよ」
「万が一、上位個体に相対した時用に温存したい」
「となると、アースバインドは使えないから一度に相手できる数は減るな」
「バルト、ユウトで1匹ずつ。ユリアと僕で1匹、多くても3匹までかな」
「奇跡の使用はどうしますか?」
「戦場が冷静に見渡せる余裕は欲しいから、鼓舞は必要だな。感知はDランクパーティの神官に任せよう」
「僕の弓と組んで戦うとユリアが1番走らなきゃだね」
「鼓舞だけで気力温存だな」
「承知しました」
格下のゴブリン相手は良いとして、上位個体対策だな。
「上位個体と当たった時はどうするの」
「俺とユウトで挟むしか無いだろうな」
「その時はギルベルトはアースバインドを惜しまず雑魚を足止めして、弓とユリアで殲滅を頼む」
「了解…」
「2匹以上が相手の時はどうしましょう」
「「「その時は…潰走だな…」」」
出来るだけの準備はしたんだ。とっとと休んで明日に備えよう。
大規模討伐の当日。全パーティが揃った事を確認して副ギルド長の指揮の元、街を出て森を目指す。さあ、これからだ。
まだ、朝早くに洞窟前にたどり着く。夜行性のゴブリンにとっては寝入りばなである。注意力も落ちているのか、各パーティが担当の場所に散っても巣穴から反応は無い。
俺達は洞窟の前に配置されC、Dランクパーティの援護だ。
『夜の猫目』の斥候が素早く洞窟の入り口に薪を組むと火をつけ、さっき刈って来たばかりの草を積んで煙を出す。
同行した同じパーティの魔術師が、おそらく土魔法だろう。洞窟の入り口を塞いてしまう。
しばらくすると巣穴に煙が充満して来たのだろう二箇所から煙が細く上がる。
程なく煙が上がらなくなったので抜け穴担当のパーティが魔法かシャベルか、とにかく埋めたのだろう。
副ギルド長の隣では『夜の猫目』の神官が探知の奇跡を使ったのだろう。副ギルド長が笛を用意している。
「ピイィィィ」
笛が鳴ったのと洞窟を塞いだ土壁が崩されゴブリンが姿を現すのは、ほぼ同時だった。
洞窟入り口に陣取っていた『双頭の鷲』が真っ先に取り付き隘路で飛びだしてくるゴブリンを潰している。
『魔竜の尾』とEランクパーティが戻って来て。Dランクパーティ達が『双頭の鷲』の後詰に就く。
流石のCランクパーティ、『双頭の鷲』は10分程もゴブリンを押さえていたが人間、数の暴力に全力は続かない。徐々に下がってくる。
すかさず『黄金の剛腕』が空いた左側を埋め、『夜の猫目』が『双頭の鷲』に代わって前に出る。おそらく複数パーティでの共同戦線慣れているのだろう。俺達Eランクパーティには逆立ちしても真似できないだろう。
Dランクパーティでも上位個体は脅威なのだろう、ゴブリンの圧力に負けて徐々に前線を押し広げられる。『魔竜の尾』も戦線に加わり、『双頭の鷲』も復帰してくるが。上位個体の陰から手数を加える雑魚ゴブリンに押され気味だ。
「駆け出し共!雑魚を引き剥がせ!」
副ギルド長からEランクパーティ達に指示が飛ぶ。
「弓はダメだ味方に当たる!俺とユウトで釣る!ユリア!鼓舞だ!」
バルトが叫んで駆け出す。展開を読んでいた俺も既に駆け出している。
『勇士の魂を顕し給え』
ユリアの鼓舞を背中に受けながらバルトに声をかける。
「2匹ずつだユウト!」
「おう!」
先輩冒険者達の背後を突こうとする雑魚に軽い刺突をばら撒き注意を引き付ける。
慌てて俺に飛びかかろうとするゴブリンを無視して次のゴブリンに刺突を放つ。俺に近づくゴブリンはバルトがいなす。
「引くぞ」
バルトが冷静な声をかけてくる。ゴブリンを引き離し過ぎないようにジリジリと後退してギルベルト達の方へ誘導する。
視界の隅で他のEランクパーティを捉える。俺達のようにゴブリンを誘導するもの、足を止めて切結ぶもの、様々だ。
「まずは2匹だ。ギルベルトはユウトを、ユリアは俺のフォロー」
所詮ゴブリン、2対1なら負ける要素は無い。俺はギルベルトの援護を受けてゴブリンを貫く。ユリアに後ろから殴られて目を回したゴブリンをバルトが切り伏せる。
すぐさま前線から次のゴブリンを釣り出し、先程の再現のように倒していく。
何度目かの誘導に向かったときだった。目の前で前線を張る『魔竜の尾』で悲鳴が上がった。上位個体の1匹が前衛を突破して戦列が乱れ、『魔竜の尾』の後衛職が襲われかかっている。
「俺達が引き受ける!」
バルトが叫ぶと同時に、俺が釣り出しかけいてたゴブリンを挟み撃ちで切り捨てると、上位個体に駆けて行く。すかさず俺も追走して、上位個体の棍棒を小盾で防いでいるバルトの脇から槍を伸ばして嫌がらせの突きをとにかく数多く放つ。
バルトも体勢を立て直し、二人がかりで棍棒を持った上位個体に挑発そのものの浅傷を負わせていく。
前線からホブゴブリンの注意を引き剥がし、俺とバルトで挟んで狙いを絞らせずに今度は渾身の力を込めて攻撃を叩き付けて行く。
隙きを突いてユリアもメイスを叩きつける。ギルベルトもすぐに魔法を放てるように構えている。
「クガァアギャガ!」
ホブゴブリンがやけになったように棍棒を振るう。
「キャアッ!」
棍棒を躱しそこねたユリアが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。バルトも小盾でかろうじて防御している。
『マジックボルト!』
すかさずギルベルトの魔法が飛んでホブゴブリンを仰け反らせ、それ以上の反撃を封じる。
「ユリアは僕が回復させる!」
ギルベルトに任せて再びバルトと俺で挟み撃ちを続行する。先日のゴブリンソードマンとの戦いで、俺達も多少上位個体の相手をできるようになっていた。幸い崩壊しかけた『魔竜の尾』も立て直したようでホブゴブリンだけに集中できる。
ホブゴブリンが棍棒を振りかぶった瞬間、ギルベルトはすぐさまマジックボルトを打ち込み行動を阻害する。ユリアも回復したようで戦闘に復帰し、四対一でタコ殴りにしてようやく止めを刺した。
ようやく落ち着いて辺りを見回すと上位個体はすべて倒され、掃討戦に移っていた。安堵とともに俺達はその場に座り込んでしまった。やはり魔法を連発したギルベルトの顔色が悪い。
「俺たちの戦いって本当に泥臭いよな」
バルトが苦笑いとともにため息のようにつぶやく
「基本的に数の優位で叩きのめすだな」
俺の答えにバルトは何か考えている様子だった。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。