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57話目 王城会議


 丸一日休むことなく歩き続けていると、久し振りの王都に着いた。

 ギルさんは通行手形を見せて、嫌な思い出とは逆にあっさりと門をくぐる。


「皆、王城に向かう。急ぐのでスラム街を通って行くぞ」


 そう言いスラム街を突っ走て行く。辺りを見渡してみると、汚物の臭い、汚れた家屋など村よりもひどい場所だ。

 さらにフォイルが何とか走れている事に驚きだ。


 スラム街には大人子供皆が、力なく座り込んでいる。人生を諦めている顔だ。生気が無い。

 けれども彼らはやせ細っていると言ったわけでは無いので、ご飯には困っていなさそうだ。


「あのぉ、おかねを、ください」


 走っていると、俺の服を掴んで物乞いをしてくる子供がいた。俺の足は止まってしまう。


「タチバナちんたらするな。さっさと走れ」


 フォイルは子供の手を払った。


「良いかタチバナ、よく聞け。こいつらは物乞いだ」


「見れば分かりますよ」

 

 ぼさぼよさの髪、汚れ切った服を纏っていたら嫌でもわかる。


「あんな貧乏人に、同情なんてかけるな。見苦しいからな、分かったな」


 いつもの様にキツイ口調でフォイルが言った。貧乏人が嫌いなのだろうか、良く分からない人だ。


「わかりました」


 そうは言う物の俺には良く分からない感覚だ。


「そうだぞマコト。あそこで恵んて、お金を貰い続けていたら努力をしなくなるからな」


 楽を覚えた人間は、なかなか上を目指さない人間になってしまうという事だ。

 悪い事ではないが、幼少からそれをやらせるのは彼の為にはならないという事なんだろう。


 これは哲学だと思う。そして答えは分からない。けれども中途半端な同情だけは、止めとけという事だけは分かった。

 

 言われてみれば飢えてはいないのだから、お金を払う理由が分からない。

 そしてスラム街を抜けると暫く貴族街が続く。豪華な屋敷ばかりだ。


「フン。悪趣味な家だ」


 フォイルが小さな声でこぼした事を見逃したりはしなかった。

 確かに宝石の屋根だったり、魔人族の頭や皮を飾っていたりしていい気はしない。

 初めてフォイルに共感できた出来事だった。


 更に食べ物が大量に廃棄されている事が分かる。スラムの人がやせ細っていない理由はこの残飯を食べているからだろう。


 そして長い貴族街を抜けると、王城の前に着いた。久しぶりに王城だ。


「ギル様、国王陛下がお待ちです。お急ぎください」


「ウム」

 

 兵士のような男が慌てた様子で、ギルさんに向かって言った。

 そして早足でギルさんの後についていくと、王の間の前に着く。


 門の目の前でギルさんは一回止まり、直立不動の体勢になる。


「ギル・バウマスター只今、参上仕りました」


 低く通る声で堂々と言った。そうすると目の前の門が開き、無駄に広い空間に足を踏み入れる。


 今回も転移してきた時と同じように、たくさんの偉そうな人たちが横に並んでいる。

 階段の上には国王と、ヨボヨボの老人。階段の下の両側には貴族達が並んでいた。


「参上ご苦労。あとはカロリング、頼んだぞ」


 そう国王が取り仕切ると、ヨボヨボの老人が話し始めた。最初のこの部屋で取り仕切っていた人だ。


「かしこまりましたぞ。早速だが今回のこの話し合いで戦争か和平か決めようでは無いか」


 そうすると前に騎士団長と肥え太った貴族、更にカイマンが出て来た。国王の前に一列に並ぶ。


「開戦派代表のロンドウェルだ」


 大きい態度で雑に自己紹介をした。どうやらこの人が開戦派の大将らしい。


「和平派のギル・バウマスターであります」


 2人は向かい合って、そう言うと周りの人たちが少しざわついた。


「その前に1つギルに聞きたい。何故お前は遅れた? 1週間遅れているぞ」


「途中で賊に襲われたもので、馬車が壊れてしまったんですよ」

 

 汗だくで汚れている俺たち見れば、馬車が無い事自体は想像がつくだろう。


「お前ほどの強さなら、遅れることも無いだろうに」


 ニヤッと笑うロンドウェルはとても楽しそうだ。


「いいえ、実は亜人族奴隷が20人ほど殺されてしまいましてな」


 多勢に無勢と言いたいのだろう。ギルさんが言っていた、無駄な死ではないとはこの事なのだろうか。


「まあいい、本題だが貴様はなぜ和平を結びたがる」


 これ以上は追求が出来ないと、ロンドウェルが本題に入る。


「現状人族では魔人族に勝つことは出来ません。なので我が国の国益を考え、戦争は避けるべきです」


「それは違うなギル殿」


 騎士団長が仕掛けて来た。


「わが国には勇者が40人もいる。この戦力を以てして負ける事はあり得ません」


 やはり勇者の戦力は戦略兵器に匹敵するのだろう。


「けれども、現状勇者はダンジョンとやらの攻略に躍起になっていると聞いておりますが」


 ザクセン砦でも言っていた事だ。


「それは敵の国でも同じでしょう」


 その可能性は拭い切れない。多分ここまでは、様子見程度なのだろう。


「仮に戦争になった時の戦略をお聞かせ願いたい」


 ギルさんが仕掛ける。


「それは勇者を主力に人族と各国の兵士との連携で戦いますよ。更にはロンドウェル家の武器でね」


 なるほど開戦派の理由はいとも簡単に分かった。ロンドウェル派の懐を潤わせる為だ。


「兵站はいかがするのです?」


 そうザクセン砦では圧倒的な食料の供給不足である。


「今は冬なので仕方がありませんが、夏になれば改善もされましょう。最悪は周りの村からでも」


 団長がそう答える。


「ブフウ。それはあり得ませんな。私から1つ申し上げてもよろしいでしょうか? 」


「ウム。許可する」


 フォイルがそいうと、国王は了承した。


「ありがとうございます。私、ザクセン砦の兵站を担っていたのですがね。

 山賊の襲撃にあってしまって、中々届けられなかったのですよ。

 夏でも届けられるとは思いませんな」


「それはお前だけだろう?」


 ロンドウェルが明らかに不機嫌になる。どうやらカイマンと同じで短気なのだろう。


「けれども、ザクセン砦に近づくと魔人族が襲ってきてですね。腕利きの冒険者が何人もやられましたよ」


 これを聞くとロンドウェルは一気に黙り込む。この話では不利だと悟ったのだろう。

 彼らだって周りの村の状況を知らない訳ではあるまい。


「ふむ。ギルとその一行は食べれるとして、タチバナマコト、お前はなぜ生き永らえた? 」


 ロンドウェルは矛先を変えて、まるで何で死んでいないと言う様な口ぶりで言った。


「魔人族を食べ飢えを凌ぎ、木を食べて食いつなぎました」


「ならば現地で魔物を殺して、それを食べたらいいだろう? 」


 良い口実と見つけたと言わんばかりに、ロンドウェルは追撃してくる。


「これで兵站問題は解決では無いか! 無能勇者がいたのが運の尽きだな」


 ロンドウェルとその派閥であろう人たちは笑い声をあげる。


「1つよろしいでしょうか? 」


 多分この交渉に負けたら俺の命の危険を感じるので反撃を行う。


「ハッハッハ。申してみよ」


 完全に勝ったと油断している。


「魔人族の肉はとてもえぐみがあって、不味いんですよ。

 それはもう、人が口にしてはいけない味がするんです」


「まさか、味が不味いから食べれ無いとでも言うのか? 本当に無能だな」


 また大笑いが起こる。このくらい下に見られている方が隙が生じやすい。


「けれども、魔人族を殺すのも大変なんですよ。

 彼らは理性が無い状態でも、集団で狩りをしてくるのです」


「そんなのは人族の物量を前にしては勝てないだろう」


 どうやら彼らの基本戦術は勇者を基軸とした、物量で押し流す作戦らしい。

 

「いえいえ。私も魔人族と戦いましたが、とても骨が折れますよ。勇者でも難しいんですから」


「だから我々には物量があると言っているだろう」


 こいつは人を数だと思い込んでいるらしい。


「そして、貴様は勇者の中では最弱であろう? 丁度いい、カイマンと手合わせをしてみたらどうだ? あ? 」 


 俺は内心ほくそ笑む。けれどもまだ気を抜いてはいけない。

 カイマンの実力は並の兵士の屁ではない事を、勇者の教育をしている事で証明している。


 逆に勝てば大いに有利になる。


「話がそれてしまいましたね。本題に戻しましょう」


「それが良いですなあ。フォッフォ。国王陛下もそれでよろしいでしょう? 」


 どうやらこの魔法使いも開戦派の人間らしい。俺を何としてでも戦わせるつもりだ


「うむ。認めよう」


 そう言うとカイマンは不気味な笑みを浮かべた。何か仕組んでいるのだろう。

 まさかとは思うが、マリナ達を人質に使うつもりでは無いのだろうか? 


「勇者タチバナよ。お主負けたら、勇者の名をもう名乗るな」


 カイマンはそう言った、


「それは良いでしょう。名案ですな」


 国王も了解していたので、負けたら勇者の称号を剥奪されて、市民に殺されて終わりだろう。

 仕方が無い、戦うしかない。俺の罪を背負う為に、ここで楽になってはいけない。



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