56話目 星空に誓う
放心状態のまま付いた先は小さな村であった。辺りはすっかりと真っ暗である。
村は策で囲まれていて、所々松明の明かりが目立つ。
さらに村の入り口には村長らしき人が立っている。そして村長の前で止まり馬車から降りた。
「ようこそお越しくださいました。ギル様、私はこの村の村長でございます」
「出迎え感謝する」
社交辞令の挨拶を交わすと、2人は固い握手をした。
「今日はここに泊まらせてもらうぞ」
そう言ってギルさんは大金の入った袋を村長に支払う。
「おお。これはギル様。こんなにも……ありがたい」
村長は目からこぼれんばかりの涙を浮かべている。
「ああ頼んだぞ」
ギルさんは目の前のヨボヨボの老人の肩に手を置いた。
「手配しておきましょうぞ」
老人は笑顔で言った。
見た感じ村の家は木造で、汚れている家屋が多い。そして50軒近くの家がならんでいた。しかし生活感が無い家が多い。
「皆様、今日は我が家に泊まって行って下され」
一回りも大きな家に連れていかれる。道中家の間なども通って行くものの、空き家であろう家屋が多い。
人も数人見ただけで、全員目に見えて飢えている。
そしてすれ違う人も、女性、子供、老人と村の廃れ方が言われずとも分かった。
「さあ皆様。ゆっくりして行って下され」
そう言って、10人が家の中へと入って行く。
「さあさ。座って下され。今食べ物を持ってきますぞ。
おーい。飯を持ってきてくれ」
村長が叫ぶとこれもまた痩せこけた少女がやって来る。
「食べ物も質素なもので、口に合うか分かりませんけれども、どうぞ」
少女はご飯を持ってきていたのだった。そして目の前に芋のスープを置いていく。
「すまない。ごちそうになる」
「おお! 旨そうな飯だな。今まで木しか食べて無かったからよ。これは御馳走だ! 」
よだれを垂らしながら言うとルドルフさんがガッツいて、スープを飲み干していた。
けれども俺は食べる気なども起きなかったので、一声掛けて外へ出て行く。
夜風に当たりに行くと、丁度良さそうな木を見つけたので、それを背に座り込む。
未だにドナウド達が死んだ事が受け入れられない。実感がわかない。
ふと夜空を眺めてみると、温泉で見た夜空と一緒だったことに気づく。
「あの夜も、綺麗だったよなあ」
温泉に入ったあの夜も、このくらい綺麗でとても心地の良い夜だった。また涙が流れてしまう。
悲しいとかでは無い。心にぽっかり穴が開いた気分だ。そしてどんどん涙があふれ出てくる。
彼らは何を思っていたのかが分からない。結局はその程度の関係であったのだ。
なのに涙がこみ上げてくる。俺は咄嗟に腕で涙を抑え、下を向いた。
「あらマコトさん。ここで何してるんだい? 」
優しい口調でスエノルさんが言った。俺は必死で声を殺す。
「泣きたいときは。泣けばいいんだよ」
そう言って背中を擦ってくれた。その手は優しさを感じる。またデジャブを感じる。
優しかったあの人の手を。
「まったく。タチバナ、お前は何を泣いているんだ? 」
フォイルが俺の元にやって来た。
「これだけは言ってやる。今回、亜人族たちを殺したのもカイマンだ」
それだけ言い残してフォイルはこの場を立ち去って行く。
俺はあの憎いカイマンの面を思い出し、いつか必ず仇を取ると星空に誓った。
それと同時に俺は眠ってしまった。
「おお! マコト! もう出るぞ! 」
ルドルフさんが朝から俺の顔を覗き込んでいた。どうやら昨日眠ってしまった後、ルドルフさんが運んでくれていたらしい。
慌ただしく起きた俺は、村長からふかし芋を貰ってそのまま村から出た。
「うむ全員揃ったな。これより色々な村を回って行くぞ」
理由は分からいのだが、王都には暫く向かわないらしい。
そして2週間近く、様々な村を巡って行った。
そしてやはりどの村も同じように困窮している。なんとか芋で食いつないでいる状態だった。
やはりどこの人も村も疲弊している。
そして今は最後の村が見えて来た。
「これで最後の村だ。皆、よく頑張ってくれた」
この長い2週間の旅路もようやく終わりが見えた。いつもの様に出迎えられ、もてなされる。
そしていつもの様に芋を食べ、床につく。けれどもいつもの様には終わらなかった。
「敵襲! 敵襲! 」
と大きな声が村中に響く。眠い目をこすり俺たちは慌てて剣を手に取った。
「へへ。ギルって奴はどこだあ? 」
そう言って村長の家のドアをけって押し入って来る。
「お? 何だお前? 弱そうだな」
近づいてくる賊に俺は刀を突き刺した。口から吐血をして死んだ。
「ギルさん大丈夫ですか」
「うむ。助かった、感謝するぞマコト」
そう言いギルさんは剣を手に取った。他の人達も続々と戦う準備をしている。
村長とスエノルさんを残して外に出ると、既に村は荒らされており、火の手が上がっている。
そしてかなりの人が殺されていた。山賊か何かの類なのだろう。ざっと見100人くらい敵がいる。
「大将首のお出ましだぜ。殺したら一攫千金だぞ! 行くぞ野郎ども! 」
首領みたい男がそう叫ぶと、家の物を荒らしていた賊が周りを取り囲んできた。
「皆、今こそ力を見せる時だ。私に続け! 」
ギルさんは敵陣めがけて攻めかかりに行った。
「ったく。手がかかるぜ、うちの大将は! 」
大声で笑みを浮かべながらドナウドさんも斧を担いで、ギルさんに続いた。
そして他の兵士たちも後に続く。流石と言うべきか、皆強い。
ギルさんはダンスを舞う様に綺麗に敵を殺していく。更にルドルフさんは敵の剣ごと壊していった。
俺が枯れれの戦闘に見惚れていると、目の前に敵がやって来る。
「おい! 黒髪のお前。一番弱そうだなあ。かわいそうに、今楽に殺してやるよ」
そう三下っぽい奴は、剣を抜いて切りかかって来た。
上から振りかぶって来たので、右に躱して腹に刀を突きたてる。彼もまた口から血を吹く。
顔にかかってしまった。
けれども今はそんな事に気を遣う余裕は無い、少しでも集中力を切らしてしまうと殺されるからだ。
命のやり取りに集中力を欠かしてはいけない。俺は更に集中する。
「てめえ。許さねえぞ」
そう言って後ろから切りかかろうとしてきたので、俺は火の表記魔法を後ろに発動させた。
そうすると地面に転がって叫ぶ。そして刺したままの、目の前の三下を足で蹴っ飛ばす。
更に周りの人間が切りかかって来るので、刀で首を切り落としく。
不思議な事に太刀筋が見えて、簡単に殺しきることが出来た。
何人斬ったか分からないが、取り敢えず沢山の人間を殺していた。
「ひい! 助けてください。何でもしますから」
最後の1人になると、男は尻もちをついて命乞いをしてきた。なので俺は首元に刀を当てて、尋ねる。
「何でこんなことしたんだ? 」
目の前の男は直ぐに喋った。
「俺たちは冒険者の職業を無くしました。だからこうやって食っていってるんです。
だから助けっ」
目の前の男は後ろから剣を突き立てられていた。
「マコト。敵に情けは無用である。その甘さは戦場で命を落とす事につながるぞ」
ギルさんは剣を抜くと、男はドサッと倒れた。
「ギル。敵の大将を捕らえたぞ。」
そう言ってルドルフさんが髪の毛を引っ張って、敵の首領を持って来た。
そして目の前にドサッと投げた。
「それにしてもマコト、お前ホントに強くなったな」
辺りを見渡すと俺の切った大量の死体と、燃え上がる家があった。
どうやら人を殺す事に躊躇しなくなったらしい。今は不思議なくらい冷静だ。
自分に驚いていると、一人の男が現れた。
「ギル様。俺に任してください」
裏切りの疑惑がある兵士がギルさんの目の前に出て来た。どうやら尋問をするつもりらしい。
けれどもギルさんの返答は、答えになっていなかった。
「うむ。いままでの任務ご苦労」
そう言って、男を切り殺した。
「ギル様……なぜ? 」
「貴様、カイマンと繋がっているだろう。そして目の前のこの男ともな。調べはついている」
やはり裏切り者だったらしい。ここで殺すつもりだったのだろう。
「あ……あくま」
そう言い残して目の前の兵士は、力なく死んでいった。
「さて、貴様もカイマンの手先だろう。何を企んでいる? 」
賊の首領の返事は無く既に死んでいるみたいだ。
「毒を飲んだか……皆、これより王都へ向かうぞ」
そう言うと馬車は壊れていたので、徒歩で王都へ向かう事になった。
けれども話を聞くにそんなに遠くは無いらしい。




