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46話目 酒

 すみませんでした。先週1本だけだったので、今週3本にします。完全に手が止まっていました......


 暫くの間みんなは、呆気に取られていて辺り一帯は静寂が包み込んでいた。

 多分コドゥアとの勝負が、一気に終わったからだろう。もしこの予想が当たっているのならば、大分舐められたものだ。


 ここでパチパチと拍手が聞こえる。この音を出していたのはシャルルさんだ。


「誠殿。流石は異世界の勇者です」


 笑顔を張り付けて、足音を鳴らしながら中央までやって来る。


「誠殿、少し無礼を働きます。申し訳ありません」


 シャルルさんはすれ違う時に、耳打ちで俺に向かって小声で言うものの、何が始まるのか分からない。けれど、良くはない事が始まりそうな気がするのは確かだ。

 

「皆様、今の戦いをご覧になったように勇者は強力です」


 演説が始まった。魔人族はシャルルさんへ向けて視線が集まっている。


「ここに居る勇者マコトの他に、40名近くの勇者が居ます」


 これを聞いた魔人族はざわつく。確かに勇者の情報は聞かないので、40人も勇者がいると聞いたら驚くだろう。


「更に彼は、勇者の中でも出来損ないと言う名目で王国から追放されました」


 俺を指さして、容赦なく公開処刑を行ってくる。俺が勇者だという事を知り、更に魔人族たちはざわつく。


「コドゥアもアンドゥも我々魔人族の中で、ゴブリンとオークながら序列の高い位置に居ます」


 序列が高いという事は、強いという事である。


「そして今混乱している現状で、並人族と戦ったとしても痛手を負う事は明白です」


 囲んでいる魔人族たちは、黙ってこちらを見つめていた。


「現状、我々も沢山の被害を出しています。

 祖父、父、息子、兄弟、友人、どなたかは亡くなっている方が殆どでしょう」


 鼻を啜る音が聞こえ、静かに涙を流す者もいる。


「更には家を守ってくれている妻や娘、愛した者の命もをわれた方もいるはずです。

 私も妻の声を聴くことは叶いません」


 話を聞いただけで、どれ程被害を出している凄惨な戦争なのかが分かる。


「これ以上戦線が拡大したら......命を大量に失ってしまいます。

 そうなれば我々の文明が滅ぶのも時間の問題」


 シャルルさんは慈しみ深い顔で下を向いた。少し視線をずらすと拳に力を込めている。


「なので此処で宣言致しましょう。この無駄な争いを私達で止めるのだと。

 後世にこの惨状を引き渡さないのだと」


 力強いその言葉は、俺の心までも揺さぶって来る。しかしそのシャルルさんの顔を見ても、どのような表情なのかが分からない。

 何と言うか様々な感情が入り乱れている顔だ。

 

「幸いな事に今日、私たちは並人族と合同演習をし、平和へと1歩近づきました」


 魔人族は皆固唾を飲んで、次の言葉を待っている。そして十分に間をおいてからゆっくりとした口調で話し始めた。

 

「そしてこの1歩は、新しい歴史の始まりです。私達自らの手で、歴史を紡いで行きましょう」 

 

 シャルルさんは声高らかに、宣誓すると拍手喝采が巻き起こる。夕日のせいかシャルルさんがとても眩しい。

 良く見えなかったが、クククと笑っている気がしていた。多分、思い通りに事が運んだんだろう。


 魔人族たちが歓声を上げている時に、シャルルさんが手を差し伸べてきた。

 なので俺もシャルルさんの手を力強く両手で握ると、拍手がより一層大きくなる。


「アリガトウゴザイマス」


 シャルルさんは小声で日本語のお礼を言う。こんな事をするから、ますますシャルルさんが分からなくなる。


「流石ですね」


 どうしていいか分からずに、シャルルさんを素直に褒めるとフフと笑っていた。

 握手をした手を放すと、衝撃の一言を放つ。


「それでは皆様、今宵は宴と参りましょう」


 そう言うと魔人族たちはトリスタンさん誘導の元、キャンプへと向かった。この一連の行動はとても速い。


 10分くらいすると辺りは閑散として、ポカンとしている亜人族、俺、そして笑みを浮かべる悪魔のみが残っていた。


「申し訳ありませんね。誠殿、最弱等と言ってしまって」


 この事でシャルルさんは演説の前に、謝罪を入れてにきたのだろう。

 ん? 待てよ......最弱とまでは言っていなかった気がするが......まあ良いか。


「いえいえ、それよりも凄い演説能力ですね」


 話題を逸らそうと褒めるが、先程とは違う不気味な笑みを浮かべ笑った。


「そんな事はありません。少し......魔法を掛けただけですよ。

 もちろん、誠殿には掛けてはいないんですけれどね」


 ここで言う魔法は洗脳の類の事だ。俺への魔法は失敗したのか、掛ける気が無かったのかが分からない。

 けれどもこれは深く考えない方が良さそうだ。

 そして洗脳までして和平を実現させたいことは分かった。しかし、疑問が残る。


「シャルルさんの力だったら魔法なんて使わなくても、和平出来たんじゃ無いですか? 」


 正に疑問とはこの事だ。シャルルさんはまた手を軽いグーにして口に当てる。


「この方が和平した後が楽なのですよ。独断で攻めに行く方達が減ってね。」


 攻めに行く? ああ、前に言っていた好戦派の人たちの事か。

 この好戦派の人たちを抑える事が出来ると言う事だ。


「さて、私たちも宴に参加しましょうか。皆さん、遠慮なく召し上がって下さいね。」


 彼に案内されて宴の会場、もといキャンプ地に着く。

 キャンプ地では宴会が始まっていて、既に酒で酔い潰れている人もいる。食事は豪勢で、炊き出しの様の大きな鍋が至る所に配置されていた。


 更には大きな酒樽が幾つも積みあがっている。

 皆どんちゃん騒ぎで楽しそうで何よりだ。そして暗闇の中の松明の明かりも、宴会にピッタリである。


 それにしても酔い潰れている人が多くみられる。

 もしかして、酔い潰して忘れさせると言う魂胆があるのだろうか? まさか、考えすぎだな。

 そう1人で考えていると、トリスタンさんの声が聞こえた。


「シャルル様、きちんとお食事の方を手配しておきました。

 請求書等はシャルル様のお部屋に置いときましたので、ご確認ください」


 トリスタンさんはずっとこの手配をしていたようだ。中々トリスタンさんを見つけられなかったのも、納得である。


「ええ、ご苦労様です。それでは私たちも宴を楽しみましょうか」


 『それでは』と会釈をして2人は、人ごみの中へと姿をくらましていった。




「皆、聞いてくれ......」


 俺は今まであった事、こうなった経緯を大まかに亜人族達に説明して解散することにした。

 何処か亜人族たちは晴れ晴れとしていて、解散して直ぐに魔人族たちに絡まれている。


 止めに入ろうとも思ったが、楽しそうに会話している中に入るのも気が引けたので、自分のテントへと向かう。

 言葉は通じなくても楽しめるんだなと思う。


「オイ、マコト」


 後ろを振り向くとコドゥアとアンドゥがお酒と料理を持って立っていた。今から俺も魔人族に絡まれるらしい。


「ツイテコイ」


 アンドゥがそう言うと、木で出来た椅子とテーブルに連れていかれた。そこに腰を掛けると、対面に2人が座る。


「サケ、ノムカ? 」


 アンドゥが木のグラスで酒を勧めてくるが、未成年を理由に断った。

 しかし、未成年と言う意味が分からなかったらしいので、憲法だと説明する。

 けれども憲法についても分からなかったらしいので、宗教上の理由と言ったら納得してくれた。


「マコト、オマエニ、カンパイダッタ。マサカアンナニ、ツヨイトワナ」


 アンドゥがさっきの勝負の称賛をしてくれたので、俺もあの勝負で感じた事を話す。


「いや、こっちこそ気を抜いたら直ぐに、負けそうだった。

 それと戦い方は参考になった......ありがとう」 


 アンドゥは少し照れながら、ソレハヨカッタと目を逸らし酒を飲み干して、新しい酒を貰いに席を立った。


「ヤッパ、マコト、ワルヤツジャナイ」


 コドゥアは戦って何か分かったみたいだ。そう言われるのは嬉しいが反応に困る。


「それは、お互い様だろ? 」


 苦し紛れにそう言うと、コドゥアは気分を良くしたのか、酒を更に煽った。

 これを酒のつまみにしたのだろうが、彼は喜ぶ所がずれている気がする。


「コレヲ、ミロ、オレノ、キョウダイ」


 酔いが完全にまわり気分を良くしたコドゥアは、兄弟の写真を見せてくれた。

 弟4人、妹3人の様だ。コドゥアが小さくなったようにしか見えない。


 ここからは彼の兄弟自慢と、途中で帰って来たアンドゥの家族自慢をひたすらに聞かされていた。

 しかし、こんな時間も悪くは無い。本当に、人と何一つ変わらないんだと思う。



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