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45話目 魔人族と訓練


 暫くの間、俺とドナウドは座り込んで呆然と彼らの訓練風景を眺めていた。

 今気づいた事だが、いつの間にかアンドゥ達はいなくなっている。訓練が終わったのだろうか。


「これはこれは、誠殿。休憩中ですか?」


 シャルルさんがアンドゥ達を引き連れてやって来た。横にはトリスタンさんが居て、ゴブリンやオークがその後ろに続いている。


「ええ、少し疲れてしまって」


 そう言うとトリスタンさんが俺とドナウドにタオルを渡してきた。ふと地面に目を向けてみると、汗で地面が湿っている。

 俺たちは貰ったタオルで汗を拭う。


「ありがとうございます。所で何かありましたか?」


 タオルを貰った事にお礼を言い。何故シャルルさんがここに来たのかを質問する。


「もし、あなた方が良ければ合同で模擬戦をしないかと思いまして。如何ですか誠殿?」


 俺は1回亜人族たちの訓練を止めさせて、聞いてみるが全員一致の賛成であったので問題は無かった。


「喜んでやらせてい貰います。どうやって合同訓練をしますか?」


 その事についてはコドゥアとアンドゥで話し合って、決めてほしいとの事だ。

 けれどもコドゥアが居ないので、アンドゥと決めることにする。


 1回皆を休憩させて、冷たい土に座らせるとトリスタンさんが皆にタオルと水を配っていた。

 水は石で作られたペットボトルの形をした物に入っている。無論、ボトルキャップも石造りだ。


「マコト、オマエ、ツヨイ。ダカラ、ミンナ、タタカイトイッテイル」


 魔人族の特性で、自分より強い人を見たら闘争本能が湧き上がってくるらしい。けれどもこれも例外も存在するみたいだ。


 その例外とは明らかに自分より強く、敵わないとなると委縮してしまい。歯向かわずに隷属してしまう事だ。

 此処に居る魔人族がシャルルさんの事を、怖がりながらも尊敬した眼差しで見ているのはこの習性が原因なのだろう。

 

「流石に全員は無理だな。俺も疲れているから、体力が持たない」


 見た感じ、全員の相手をするとなると最低15人は戦わないといけないから、戦い抜く自信が無い。もし仮にそんなに戦ったら倒れてしまいそうだ。


「ソウカ、ソレハザンネンダ。ジャア、ヒトゾクトト、アジンゾクデ、タタカオウ」


 ここで言う人族は魔人族の事である。そして訓練内容も亜人族と魔人族で先ほどやっていた内容とあまり変わらない。


「ケド、マコトハ、オレトコドゥアト、タタカウ。イイナ?」


 この条件なら断る理由は無い、俺ももう少し体を動かしたいからだ。理由はまあ、このまま考え詰めたく無いからである。

 クタクタになるまで疲れて、夜ベッドに入った時は直ぐに入眠したい。


「決まったみたいですね。それでは、誠殿以外は早速行いましょうか」


 シャルルさんが取りまとめて、合同訓練が始まった。どうやら俺には休憩させてくれるみたいだ。亜人族、魔人族共にやる気に満ち溢れている。

 さきほどまでは横でグッタリとしていたドナウドだが、もう元気に魔人族と剣を交えていた。

 因みにルールは先に一本取った方の勝ち、と言う風にルールは変更されている。


 全体で見た感じ、勝敗で言ったら五分五分で互角だ。俺はそれから呆然と目の前の風景を眺めていると、コドゥアが到着した。


「シャルルサマ、オクレテ、ゴメン」


「良いんですよ、今朝着いたばかりですから。本当に休まなくて大丈夫なのですか?」


 つい先ほど、遭難した森から脱出できたらしい。


「マコトガ、キニナッタ。ダカラ、タタカイタイ。タタカエバ、イロイロワカル」


 この一言でわかる事は、手練れであるという事だ。


「無理はしないでくださいね」


 シャルルさんが心配すると不気味な笑みを浮かべて居たが、多分これは照れているだけなのだろう。


 思った以上に合同訓練は盛り上がり、気づいた頃には日が傾き始めていた。

 戦っている人を見ると、楽しそうな良い顔をしている。まるでさっきの事が無かったかのように。

 

「誠殿、そろそろ始めましょうか?」


 皆が疲れ始めた頃に、シャルルさんは提案をして来た。その頃には周りのギャラリー等も沢山集まって来ている。

 中には、シャルルさんと同じ人型の魔人族や、一回り大きいゴブリンやオーク等も集まっていた。勿論説明できないだけで、他の種類の魔人族もいる。

 

 彼らは皆厚着をして、訓練場の周りを取り囲んでいる。

 

「勿論、準備万端ですよ」


「それは良かったです」


 フフフとシャルルさんは笑っており、何か企んでいる顔だ。そんな彼を傍目に、俺はゴブリンのアンドゥと書いた円の中に入る。

 審判はトリスタンさんが行うみたいで、これもルールが同じであり1本とった方の勝ちだ。


「テカゲンハ、シナクイイ」


 そう言ってアンドゥは弓矢を手に持ち、短剣を腰に携えた。彼は本気で来るらしい。


「勿論だ」


 アンドゥは油断して掛かったら、隙をついて負けてしまいそうなので集中力を高める。


「旦那、やっちゃってください」


 背中からは亜人族の応援が聞こえ、魔人族はアンドゥの応援をしている。


「それでは始め」


 トリスタンさんの合図で戦いの火蓋が切って落とされた。

 アンドゥは俺と距離を一瞬で20m程取り、弓を構え、照準を合わせている。


 けれども俺も唯で距離を取らせたわけでは無く、居合の構えを取る。

 これは師匠に教えてもらえた技で、遠距離攻撃を裁くための技だ。呼吸を整えて目を見開く。


 俺が止まった事でアンドゥが、一本目の矢を放つ。しかしその矢はゆっくりと飛んできているので簡単に弾く。

 因みにこの矢は練習用の矢で、全て木で出来ている為殺傷能力は無い。


 続いて間髪入れずに、二つ目の攻撃が迫って来るがこれも、危なげ無く弾き一歩一歩とアンドゥににじり寄って行く。


 その後も矢を放ち続けるがすべてに対応をして、距離が10m程に縮まった所で一気に詰めよとする。

 しかしその瞬間、矢が目の前に迫って来ていたので咄嗟にしゃがむ。


 この技は集中力が切れると、機能しなくなる。強いが便利では無い。

 

 危機一髪回避をし、立ち上がろうとするが目の前にアンドゥはいない。

 その代わり後ろから気配を感じたので、木刀で咄嗟に背中を守ると手に衝撃が伝わる。


 力で押し返し、体勢を整え後ろを振り向くと子供サイズのゴブリンはいない。となると次の一手は再び後ろからの一手だ。

 

 反射的に横に飛び矢を回避する。完全な不意打ちを避けたことで、呆気に取られているアンドゥに向かって木刀を投げつける。


 俺は木刀と進む方向をずらして右斜めに走り始め、アンドゥとの距離を5m程まで縮める。

 そして木刀しか見ていなかったアンドゥが、目の前に避けてきたのでアンドゥに飛びつく。

 そのまま馬乗りになり彼の短剣を抜き首元に突き付けた所で、勝利が確定する。


「それまで」


 トリスタンさんの制止で戦いが終わる。俺とアンドゥは握手をし、何も言わずに小さい戦士は去って行く。

 アンドゥと交代すると言わんばかりに、コドゥアが闘技場に入って来る。

 余韻に浸る余裕も、反省する時間も無く次の準備が進む。


 俺はトリスタンさんから、投げた木刀を拾って貰いコドゥアと向き合う。

 アンドゥと戦う前は野次が飛んでいたが、今は誰も喋らず固唾を飲んで見守っている。


 また『始め』と言う合図と共に戦いが始まる。始まりと同時にコドゥアは一気に目の前に来て、俺より1.5倍はあるであろう巨体で力任せに棍棒を振り下ろしてきた。


 俺はすかさず棍棒の根元を狙い力いっぱい木刀を振る。横に逸らす事に成功すると、メリッと音と共に棍棒が地面にめり込む。

 これを木刀で受けていたらと思うとゾッとする。


 ここだとコドゥアの腹目掛けて左から木刀を振るが、呆気なく右手で止められてしまう。動かそうとしてもビクともしない。

 そん瞬間に右上からパンチが飛んで来たので右に回避する。瞬時に大きい左腕を両手で掴み思いっきり引っ張ると、前傾姿勢になり体勢を崩した。


 このチャンスを逃さず、オークの大木の様な足を俺の左足で刈り取るように薙ぎ払う。それと同時に手を離すと、オークは地面にうつ伏せになった。

 そして勝負を決める為にコドゥアに馬乗りになり、首が90度上を向くぐらいに脚で首を思いっきり絞め上げる。


 コドゥアはバタバタと動き、立ち上がれずにいた。止めに力を籠めようとするが、悲鳴ではない大きな声が寒空の下鳴り響く。


「勝負あり、そこまで」


 咄嗟にトリスタンさんが急いで止めに入った。これ以上は首が折れてしまいそうで危ないからだ。

 そして立ち上がると、会場は静まり帰っていた。


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