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44話目 臆病

5時間遅れ、許してくれますか?


 俺はその足で亜人族達の所へと向かう。

 気のせいなのだろうか、昨日よりも魔人族たちが増えている気がした。


 色々な種族の魔人族の合間を縫って歩いて行くと、直ぐに亜人族たちのいる所へと着く。

 

「おお、旦那ぁ。俺たちはもう準備が完璧だぜ」


 すでにテントの前に武器を持って構えていたルドルフが、朝から元気な声で話しかけて来る。

 彼らのやる気をとても感じた。


「分かった。まだ俺の準備が終わってないから、待ってて」


 まさか既に準備が終わっているとは思わなかったので、急いで自分のテントへと向かう。

 しもやけした土を踏みながら歩いている途中、トリスタンさんと出くわした。


「こちらにいらっしゃいましたか。誠殿。

 それとこちら、シャルル様から預かっている物です」


 トリスタンさんは1枚の地図を渡してくる。訓練で使って良い場所が示されている。


「ありがとうございます」


 そう言うとトリスタンさんは、『では』と軽い会釈をして、早歩きでまた別の場所へと向かって行った。とても忙しそうでだ。


 地図を確認しながら歩いて行くと、俺のいたテントへ着いた。

 半日ぶりのテントは冷え切っており寒い。また誰かが手入れしてくれたのであろう、布団などはきっちり整理整頓が行われていた。


 久し振りのマジックポーチから刀を取り出し、帯刀する。そして洋館で貰った本をマジックポーチにしまう。

 因みに服は朝起きて洗濯されていた、元々来ていた服に着替えていた。勿論浴衣ではない。


 地図を片手へ亜人族の所へ向かおうとすると、既にテントの前に集まっている。


「旦那、早く行こうぜ」


 亜人族たちに急かされ、急ぎ足で訓練場へと向かう。

 訓練場のある所はテントと離れており、大分長い距離を歩かされたのであった。


 周りにテントが一切無くなった頃には、訓練場へと着いた。

 訓練場には他に一つの組が訓練をしている。そして驚いた事に、それを指揮していたのはアンドゥだった。


 向こうも忙しそうだったので、軽い会釈をして済ましておく。


「よし、それじゃあ。訓練を始めようか。

 今日は集団行動を一回やってから、個人対個人の模擬戦をしてもらうから」


 皆やる気で満ち溢れいる。けれどもこのやる気は純粋な気持ちで湧き上がっている物ではないと、彼らの表情を見れば分かる。

 木刀などは自由に使って良いとの事だったので、有難く拝借させてもらう。


 俺たちは1時間ほど訓練をして、集団行動が終わらせたので一旦休憩に入った。


「旦那、俺と打ち合いませんか?」


 俺は座って休んでいると、ドナウドが申し込んできたので勿論了承する。そうすると亜人族全員が申し込んできた。

 

「勿論、戦おうか」


 俺は引きつった笑顔で答える。考えただけでも骨が折れそうだ。

 休憩が終わったので、簡易的な闘技場で亜人族たちとの戦いに臨む。


 フィールドは土のままなので転んだりしたら、すりむくなどの怪我は必至だろう。

 30mくらいの円が白線で描かれているので、その円から出ない様に戦う事がルールだ。


 ドナウドが審判を務め、木の剣を持った熊の獣人との戦いが始まる。

 彼らは身体能力、運動神経が良い為とても機敏な動きをする為、注意が必要だ。


 獣人は一瞬で距離を詰めて、頭を割ろうと上から剣を振り下ろしてくる。

 俺は刀を上に出し受け止めた。オークに比べれば力は強くはない無い。


 彼の足が左だけ前に出ており、距離が近かったのでふくらはぎの裏から脚と引っ掛け、バランスを崩した。

 そのまま後ろへ尻もちをついて倒れこんだので、目と目の間に木刀を突き付ける。


 けれども、いつもの彼の動きで無い事に疑問を感じる。


「旦那、負けた奴にはキッツイ罰を頼むぜ」


 ドナウドは罰ゲームを提案してきたので、行うことにした。

 負けた罰として顔面ビンタを食らわせる。誤解しないでほしいのは、俺が進んでしているという事ではないという事だ。


 これにて一戦目が終わった。この後も何回も連続で戦ったが全て勝ちビンタを食らわせた。

 最後はドナウドととの勝負だ。


「旦那、最初から全力で行かせてもらうぜ」


 ドナウドは他に亜人族と同じで力任せに剣を振るってくる。

 剣の軌道は早いが単調である為に対応はしやすい。けれども、中々反撃に出れるほどの大きな隙は見せない。


「まだまだぁ!」


 膠着した状態にしびれを切らしたのか野太い声で雄叫びの様な物を上げて、更に力を込めて剣を振るってくる。

 一撃一撃が重い。彼の心の中を表していみたいで混とんとしている。これ以上は打ち合いたくはない。


 しかし、彼はこの程度じゃ終われせてくれる事はできないだろう。

 段々とドナウドは話すでは無く叫び散らしている様子になり、獣、いや魔物の様に見えてくる。理性を失っている状態だ。


 怒りに任せてドナウドは剣を振り回す。けれどもドナウドの剣の速度は遅くなることは無い。更には先程よりも力強くて早い、そして何よりも重い攻撃を放ってくる。


 四方八方、ありとあらゆる所から重い攻撃が飛んでくるので、対応が難しい。

 ふとドナウドと目を見る。彼の目からは大量の涙で溢れかえっていた。


 この涙は死んでいった亜人族達の申し訳なさから生まれたのだろうか。

 

 しかし今の状況は、今までずっと自分の気持ちを押し殺していたという事を表している。他の亜人族たちの為に、気持ちを前面に出さなかっただろう。

 原因は勿論、惨殺されたことだ。


 俺は彼らに掛ける言葉を見つけることが出来ない。なので、ビンタでしか答えられない。 

 彼らは痛みを受ける事で償っているのだと思う。

 良くない事ではあるが、これは彼らが望んでいることなので懸命に正当化する。そして俺は卑怯者だ。


 ずっとドナウドと打ち合っているが、彼の剣の速度は段々と遅くなっていき、終いには剣が止まりへたり込んでしまう。


 彼は四つん這いになりすすり泣いた。声は大きく無い物の耳に残る。


「すまねえ、皆、必ず故郷に返すと約束したのに」


 彼は許しを請う様に、弱々しい声で謝った。俺は知っている、彼がどれ程他の亜人族達の事を気に掛けているかを。


 それから彼は黙りこんでしまい、鼻水のすする音があちこちから聞こえた。

 彼らは元々の付き合いが長いようだったので、その分急な別れを受け入れらないのだろう。

 更には目の前で何も出来ずに殺されたのだ、相当なショックのはずだ。


 そのせいもあって、彼らは自分を責めている。彼らはもうそれしかすることが出来ないのだ。

 奴隷であるが為に正式な葬儀なども出来ない。悔しく思う気持ちが、ひしひしと伝わってくる。


 何もできないのは亜人族だけでなく俺も同じである為、唯々無力である事を思い知らされる。


「旦那、俺を殴ってくれよ」


 ドナウドはか細いかすれた声で、助けを求めるような眼差しで懇願してきた。

 

「旦那に当たっちまったしよ、きついの頼むぜ」


 いつもの様におちゃらけようとするが全くできていない。俺は爪が手にめり込むほど強い力で握りこむ。


「ドナウド、いくよ」


 死んだ亜人族はこんな事を望んでない事が分かるが、俺には断る事すらも出来ない。

 ドナウドの胸倉を掴んで、精一杯の力で殴った。そうすると、ドナウドは鼻血を出しながら後ろに倒れる。


 暫くの間、ボーっとドナウドは空を見上げていた。そして10分くらいたってから急に話し出す。


「はあ、空が綺麗だな。何時までも、こんな事は出来ねえな」


 ドナウドはそう意味深げに一言話し、立ち上がると俺の近くまで寄って来た。


「旦那、お返しだ」


 そう言ってキツイ一発を頬に貰う。口の中は切れてしまったのか、血の匂いがしたが痛くは無かった。


「旦那は手加減を知らなさすぎるんだよ」


 ドナウドがそう言うと、他の亜人族たちも口々にそうだそうだと便乗してくる。


「それじゃあこれで終わろうと思ってたけど、訓練追加でこのまま日が暮れるまで模擬戦ね」


 再びドナウドに助けられ、俺とドナウドは一旦休憩に入った。

 そして他の亜人族は先ほどより、一層機敏な動きをして訓練に挑み始める。


「旦那、どうかここにいる奴らだけは無事に帰れるように、協力を頼むぜ。

 その為なら俺は何でもするからよ」


 真っすぐに見つめるその瞳を逸らす事は出来なかった。


「わかった。全力で協力するよ」


 本当にドナウドは強い人間だと思う。


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