41話目 ゴブリンと
明日の8時までに何とか完成させます。ホンマにすみません。
俺たちはそれから直ぐ温泉から上がった。温泉のおかけだろうか、体中からゆずの香りが漂っている。
空気は冷たくも澄んでいたので、とてもスッキリした感じだ。
温泉からテントへ戻るまでは誰一人として会話をしなかった。皆、色々と思う所があったのだろう。
キャンプ地へと戻ると、騒がしさが戻ってきた。温泉の静けさとは大きな違いである。
「それじゃあ、また明日呼びに来るから、各自解散で。」
俺は亜人族たちと別れ、シャルルさんを探しへ行った。しかし、見当もつかないので周りにいた魔人族に聞く。
「すまない、少しいいか?」
目の前にいるゴブリンは少し驚いていた。まさか、話しかけて来るとは思わなかったのだろう。
「アア、ドウシタンダ。」
やはりコドゥアと同じように少し聞き取りにくい。それにしても、転移したての初めて出会ったゴブリンとは違ってとても好意的だ。
「シャルルさんを見かけて無いか?少し用事があるんだ。」
トリスタンさんに聞けば早い話だが、丁度いなかったので目の前でボーっとしていたゴブリンに話し掛けた。
「ワカッタ、アンナイシヨウ。」
このゴブリンはとても親切なようだ。しかし、何故だかソワソワしている。
「ありがとう、助かる。」
そう言うと急に表情がパッと明るくなった。とても人間味のあるゴブリンである。
けれども、ゴブリン特有の不気味さは抜けていない。
「ツイテコイ。」
そう子供くらいの身長のゴブリンは、意気揚々と歩き始める。
服や軽めの装備などは纏っているので、衛兵か何かなのだろう。
「オマエ、ナマエ、ナンテイウンダ?」
名前を教えると、ぎこちなさそうにマコトと呼んでくる。
「君の名前はなんだ?」
そう聞くと少し暗い顔をして、答えた。
「オレ、オヤ、イナイ。ダカラ、ナマエ、シラナイ。
ケドムカシ、アンドゥ、ッテヨバレテタ。」
しかしアンドゥと名乗る時は暗い顔はせずに、ドヤ顔をしていた。表情がコロコロと変わる不思議な奴だ。
「誰に名前を付けてもらったんだ?」
「ワカラナイ、ケド、ヘイジンゾクノ、オンナノコダッタ。」
並人族と関りがあったから、こんなにも興味を示しているのであろうと1人で納得する。
「成るほど、通りで良い名前だ。」
お世辞を言い、エヘヘと照れ笑いをするアンドゥは普通の人と何一つ変わらなかった。
「オマエ、イイヤツダナ。」
それほどにまで、アンドゥはこの名前が気に入っているのだろう。
「アンドゥも良い奴だよ。」
そこからは今住んでいる故郷に妻がいて、子供がいる等と話しなどをし、家族写真が入っているペンダントも見せてくれた。
「とても、似ているな。」
写真を見た時には、見た目が殆ど一緒なのでこの感想しか出てこなかった。
「ソウダ、ウチノムスコハナ、トテモ、カワイインダ。」
そこからはアンドゥの息子自慢が始まった。親バカって言うやつなんだろうけど、生まれて一年も経たずに離れ離れになってしまったのだから無理も無い。
余計に息子を愛おしく思うのだろう。
「デモ、アトドレクライ、イキレルカ、ワカラナイカラナ。
セメテ、ムスコニハ、センソウナンテコトハ、ヤメテホシイ。」
ゴブリンの寿命は約30年と考えられている。なので、アンドゥが今何歳かは分からないが、そろそろ寿命に近い事を感じているのだろう。
「所で、息子の名前は何て言うんだ?」
「シェメシュ。」
この名前は太陽と言う意味があるらしい。太陽の様に明るく堂々と生きてほしいから、命名したそうだ。
長い間話し込んでいるとテントの外れへ着き、周囲の明かりは弱くなり薄暗く不気味になって来る。
「こっちの道で本当にあっているのか?」
勿論だと言ったたので、信用してついて行ってみる。確かに、少し行った所には大きな屋敷のようなものがあったからだ。
シャルルさんはここの総司令官みたいな立ち位置なので、他の魔人族と別な場所に居るのかも知れない。
いやしかし、命の危険性があるんでは無いのだろうか。冷静に考えるとそんな事は無いと気づく。あの人が殺される想像が本当につかないからだ。
更に何か研究しているとかも言っていたので、そこで魔物興奮剤の研究をする為に離れているのだろう。
そしてキャンプ地から離れ完全に林道へ差し迫った。露天風呂があった所と少し近い場所だ。
道と言う道はは無く、動物たちが通った跡であろう獣道を進む。木々は8m程と高いが、密度が高く無いため案外視界は良好だ。
しばらく進み続けると、カサカサと音がし始める。ふと目をやると、ワイルド・ボアがこちらを睨みつけていた。
ワイルド・ボアを一言で言うと、とてもでかいイノシシだ。発情期は雄雌共にとても獰猛化するので近づいてはならないらしい。
「マコト、サガレ。」
そう言って、アンドゥが槍を構える。俺は今武器を所持していなかったので、素直に指示に後ろに下がり石などを拾っておく。
石などは弓が開発される前一番人を殺していた道具なので、少しは役には立ってくれるだろう。
イノシシとアンドゥは暫くにらみ合い、フッフーとワイルド・ボアは鼻息を荒げ、前足で土を蹴りこちらを威嚇してくる。
ガアアと低いうなり声を上げてワイルドボアが物凄いスピードで突っ込んできた。
それと同時にアンドゥはワイルド・ボアにめがけて走って行く。
ぶつかる直前にスライディングをしてワイルドボアの腹の下に回り込む、そして毛をつかみながら素早く背中を取り、ワイルドボアに乗った。
ワイルボアは振り落とそうと必死で、左右でたらめに激しく走り回る。暫く走り回った後、アンドゥは勢いが弱くなったことを確認してから頭の方へとにじり寄った。
そして脳天付近に槍を突き刺すと、ワイルドボアはグオオオと雄たけびを上げて走り始め、木にぶつかる。
これで完全に冷静さを取り戻したワイルドボアはキレた目でこっちを見つめる。
それよりも、脳天に槍が刺さっても動けることに驚きだ。
これでもまだ突進してくるので俺はワイルドボアへ向かって、石を全力投球すると目に直撃した。そのことで片目の視力を奪う事に成功する。
再び暴れ狂ったので、今度はアンドゥが顎の下から何処からか拾ってきた木の棒を差し込む。
そして大量の血が噴き出し、ガアっとフラフラしながら倒れる。しかしまだかろうじて息をしている為、生きてはいる。
そうするとアンドゥがワイルドボアの目を閉じさせ、槍に力を込めて奥まで差し込む。
聞くに堪えない音と同時に沢山の血が溢れかえり、ビクンと痙攣をして絶命した。
「スマナイ。」
そう言って、手を合わせて木を抜き近くの葉っぱなどを掛けていたので、俺も手伝う。
最後に死体に刺さっていた木を引き抜く。
「コレデイイダロウ。」
手をパンパンと払い、シャルルさんの所へと向かう。
「テツダッテクレテ、アリガトウ。」
どうやらこれは、ゴブリンたちの習わしみたいの様だ。相手も生き残る為にこちらを責めてきているので、仕方がないという考えである。
その為きちんと戦った相手として、敬意を払うため弔うらしい。
「ココダ、ツイタゾ。」
更に20分くらい歩いたら、大正ロマンを彷彿とさせる洋館が現れた。
洋館は少し錆びれており、苔も所々は生えているので長い間使わているのだろう。
生臭い体のままコンコンと扉をノックする。
「はーい。」
女の人の透き通る声がし、ドアを開けてみるとそこには並人族の少女が立っていた。
赤髪のボブカットで、碧眼の持ち主だ。年は俺と余り変わらないのだろう。一つ確かな事が分かるとしたら、この人もまた美人と言う事である。
その美しさに俺たちが言葉を失っていると、
「おやおや、珍しい組み合わせですねえ。」
そう言ってシャルルさんが俺たちの後ろから現れて来たのだった。
どのような表情をしているのかは分からず、硬直してしまう。




