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38話目 スープ


 魔力を使った事で頭痛が酷くなってしまった為に、布団の上でボーッとていた。

 

「マコト殿、失礼致します。」


 この通る声を持った持ち主は、トリスタンであった。


「こちらミートスープです。召し上がれそうでしたらご賞味ください。」


 差し出されたスープは赤色で、四角形に刻まれた肉と様々な野菜が入っていた。

 そう言えばこちらに来てからのまともな食事は久しぶりな気がする。

 俺は久しぶりな文化的な食べ物に震えていた。


「失礼しました。具材の説明をしておりませんでしたね。

 こちら、セールの肉とニンジン、ジャガイモ、グリーンピースお使っており、スープの方はトマトを使用しております。」


 見た目はそっくりそのままで、野菜の呼び方も一緒なので驚きである。

 因みにセールとは日本でいう所の鹿の様な生き物だ。

 魔物とかではなく農作物を食い荒らす、人の狩りの対象になっている害獣である。


「それでは頂きます。」


 そう言って久しぶり食事に食らいつく、まあ丸2日以上食べていなかったら嫌でもお腹は減る。

 温かい食事に涙がこぼれ落ちそうになるが恥ずかしいので我慢する。


「お味は如何ですか?」


「とても、美味しいです。」


 そういうとトリスタンが微かに微笑む。

 それからは一瞬であり、こうして夢のような食事はに終わってしまった。

 

「ごちそうさまでした。」


 そう言うとお粗末様でしたと返答が帰って来たので、トリスタンが作ったのだろう。

 悪魔伯は魔族の中でもシャルルさんの魔公、魔候に次いで偉い貴族なのに、良く料理が出来るなと疑問に思う。


 その前に伝えなければいけない事を伝える。


「それと、私達は明日にでもここを発たせて貰います。」


 流石に長居はできないと思い帰る意思を伝える。


「それなら、2日後にフォイル殿が来られるみたいなのでその時に一緒に帰ってはいかがですか?」


 そうして俺はこの事に甘える事にした。

 それにしても、あのフォイルが来るとはどういうことなのか全く検討が付かない。


 話すことが尽きてしまい、居づらくなりトリスタンさんは何処かへ行くのかと思ったが、すぐ横で正座している。

 この沈黙に耐えかねた俺は、取ってつけたような質問を問いかける。


「料理が好きなんですか?」


「と言うよりは私はシャルル様の子飼いですので、身の回りの世話を行っているのですよ。

 我々魔人族は戦場に赴く時だけ伯を名乗ることが出来るのですよ。」


 魔人族は歴史から見ても弱肉強食の世界で力が全ての世界である為、自分の家を大きく見せる為に戦場で武功を上げ、家名を高める為に伯を名乗るらしい。

 つまり伯が無ければ,唯の魔族であるという事である。

 平時は伯の称号は取り上げられるらしいのだが。

 シャルルさんは魔公であり当主であるのでとても偉いのだそうだ。


「シャルルさんとはとても長い間、一緒にいたんですか?」


 俺は全く知らないシャルルさんを少しでもそる為に、質問を投げかけてみる。


「そうですね、もう100年近く世話をさせて貰っていますね。」


 流石は魔人族、長命である。トリスタンの年齢は158歳も言っているらしい。

 見た目が俺と同じで若かったので呼び捨てしていたが、ちゃんとさんを付けよう。


「そんなに長い間も、シャルルさんはとてもお年を召されていそうですよね。」


「今年で687歳と言っていましたね。」


 普通の魔人族は年を数えないと本に書いていたのだが、このような異例もあるんだなと頭の隅に止めておく。本だけの知識が全てではないと。


「ああ、我々が異例なだけですよ。普通の魔族はこんなに正確には数えません。

 ただ、シャルル様が変わっているのですよ。周りよりも。」


 やはりトリスタンさんがシャルルさんの話をする時はとても楽しそうに話している。

 とても慕っているのであろう。


「マナーとかはどこで学んでいるんですか?」


「シャルル様から直々にご教示いただきました。」


 という事は、シャルルさんが日本の文化を知っていると言う事なのだろうか。


「成るほど、だから私の国の文化を知っていたのですね。」


「ええ、そうですね。どこで存じたのかかは分かりかねますけれど。

 こんなに付き従っているのに、全く分かりませんよ。シャルル様は。」

 

 どうやら100年一緒にいても、謎がまだまだあるらしい。ミステリアスな人だ。


「けれども、シャルルさんは温厚な方ですよね。」


 少し内面的な事も知りたいので、切り込んだ話を投げかけてみる。

 実際は、内面が見えなさ過ぎてとても怖く映る。


「もちろんですよ。シャルル様が声を荒げる事は一切ございませんが。

 私がシャルル様に仕えてから10年たってからとても人が変わったようになりました。

 温和さと慈愛は無くなってしまい、魔人族本来の姿になってしまいましたのです。」


 少しトリスタンさんの表情は暗くなる。因みに魔人族班来の姿とは、闘争本能がむき出しになる事だ。


「それから、80年近くは戦争を好きになってしまわれましたね。

 無差別に人族を殺していきましたね。まるで何かを恨んでいるかのように。」


 これが昔、ルドルフさんが見たと言うシャルルさんなのだろう。

 しかしそのシャルルさんを想像することがどうしても想像できない。


 勝手ではあるが俺の印象は、シャルルさんは論理的に考える人と言う物なので、どうしても感情に流されて行動をしている姿が浮かばないのだ。


「あれは確か人族のハイマート領を攻め込んでからですかね。

 それ以来今までしてきた事を反省したかのように、戦争を避けるようになりましたね。」


「そうして、今に至るという事なのですね。」


 ハイマート領、どこか聞き覚えがあるものの、思い出すことが出来ない。

 確か地下で読んだ本ではあるが、いかんせん地名が多いので気のせいなのだろうか?


「その通りです。こうしてシャルル様が和平を行おうとしたのです。」


 ある程度知れたが、こうもすんなりといってしまうと怪しくなってしまう。


「あ、それと、この事に関しましてはシャルル様から伝えてほしいとの事でしたので、嘘などはついておりませんよ。」


 フフっと笑う姿はシャルルさんとそっくりであった。

 

「それはそうと、トリスタンさんとシャルルさんの出会いは何だったのですか?」


 少しトリスタンさんの顔が曇る。彼はシャルルさんとは対照的に表情がコロコロと変わる人だ。


「......そうですね。私の家の当主の命令でしたからね。」


 どうやら本当の事ではなさそうな感じではあるが、詮索するのやめておく。

 自分の事は詮索されたくないみたいだ。


「あ、スープの入れ物を返してきますね。」


 逃げるようにこの場から去って行った。

 今後はトリスタンさんの事を探らない様に注意しておく。


 今ふと気づいた事ではあるが、気分が良くなり頭痛も楽になって来たので少し外に出てみる。


 太陽は顔を出してからまだそんなに時間が経っていない。

 そしてとても冷たい、乾いた空気が口と鼻の中に入ってくる。

 

 とても開放的な気分で不思議な感じである。全ての嫌な事が忘れそうな勢いだ。


 遠くに見えるのは魔の森であろうか、ほとんどの木が朽ち果ていた。

 森と言った様相では無く、酸性雨が降る場所の様に生気の感じられない、味気のない場所となっている。


 2日と経たないうちにこれほど変わってしまうとは驚きである。


「誠殿、体調は如何ですか?」


 シャルルさんが気付いたら隣に立っていた。

 俺は身長176cmはあるが、それよりも大きいシャルルさんが立っている。

 今更だが、にトリスタンさんは160cm位と身長が低かった気がする。


「ええ、スープを食べてから元気になれましたね。」


「それは良かったです。あれは我々魔人族が戦場でよく食べる物なんですよ。」


 ザクセン砦のご飯とは大きな違いだなと、とてもうらやましく感じる。


「これは私の師が教えてくれた事なんですよ。うまい飯を食べなかったら働けはしないぞと言う。」


「それは確かにそうですね。」

 

 実際、美味いご飯を食べて動けているのだから激しく同意した。


「それと誠殿、病み上がりで申し訳ないのですが私のテントまで来ていただけますか?」


 急ではあったが断る理由も無いので、俺は快諾した。






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