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36話目 意識が………

 

「失礼しました。少し取り乱してしまいましたね。

 もうそろそろ着きますよ。」


 シャルルさんがそう言い、目の前には集落の様な物が見えてきた。


「ああ、言ってなかったですが、あれは仮拠点ですよ。

 今までは洞窟などを本拠地にしていましたからね。

 森がこの状態なので、一時平原に避難しているんですよ」


 そう言って、遠くに見えるキャンプ地には松明の明かりと魔物達で埋め尽くされていた。

 冬に近づいているのも相まってか、雪が積もっている。


「どうです、森を抜けた瞬間にとても寒くなったでしょう?」


 確かに言われてみれば一気に冷え始めた気がした。

 しかしそうは言っても、この寒さは我慢できないほどではない。


「それにしてもどれくらいの魔物がいるんですか?」


 目につくでけでも、オーク、ゴブリン、その他本では学んだが初めて見る魔物たちがおり、質問してみる。


「さあ? 今数を数えている所ですので、私にも分かりませんよ。

 それでも様々な種族がいますけどね」


 そう曖昧な返答で返されたのだ。

 ふと自分の発言を振り返ると、軍事機密に関わる事を聞いていたので誤解されない為に慌てて謝る。

 

「フフフ、別に構いませんよ。

 それにしても誠殿は本当に面白い人ですね。

 初めて会った時とは別人みたいですよ」


メイドのスエノルさんにも言われていたが、何が変わっているのかが俺にはさっぱりわからないでいる。

 

 それからは雪に足を取られている、ザッザという音のみが新鮮に聞こえてくる。

 点々としていた小さかった灯りが大きくなってくる頃にはオークの姿が見えてきた。

 そこでふとコドゥアの事について思い出し、シャルルさんに尋ねてみる。


「さっきシャルルさんと合流する前に、コドゥアってオークと会ったんですけど………」


「それは本当ですか?」


 少し嬉しそうな声色で彼は答え、一瞬ではあったものの表情を崩し安心した表情を浮かべていた。

 初めて彼の人らしいところを見た気がする。まあ、悪魔なんだけども。

 そしてまた一つ気になる事が頭によぎる。

 

「………俺がコドゥアを殺したとは思わないんですか?」


「殺したんですか?」


 彼は満面の笑みでそう聞き返してくる。俺はコドゥアを殺してはいないので、イイエと言う。


「でしょうねぇ。私は少なくとも、そうは思いませんよ。

 殺していたら名前なんて知らないし、私に聞いてくる訳も無いですからね。」


 クククと満足そうに彼は笑う。確かに少し考えれば分かる事なので、愚かな質問である。

 兜をつけて顔の見えない状態でよかった。とても顔が熱い。


「それとコドゥアは帰って来たんですか?」


「まだ彼は帰ってきていませんよ。他にも行方不明な者たちが多いので中々探しに行けないんですよ。

 でも、生きてる事が分かったのでそれだけで十分です。」


 けれどもそうは言っているものの、彼の顔には何処か物憂げな表情をしていたのだった。

 とても遠くの何かを見つめているような顔をして。


 先程からチラチラと亜人族を見てはいるが、目に見えて体調が悪化していっていることが分かる。

 唇は紫色となり、体はカタカタと震え言われずとも分かった。

 それを察してかシャルルさんも先程から歩く速度を落としてくれている。


 しかし日も傾きつつある今、暗くなるのはさらに危険との事なのだろう。

 だから足を止めずに、この歩きにくい雪原の上を進んでいるだと思い足を止めずにいる。


「皆、あと少しでキャンプ地に着く、それまで耐えてくれ。」


 俺は励ますもののそれに答えられるほどの、気力・体力は残っていないのだろう。

 無理も無い彼らは奴隷の着る装備しかない為に、とても薄着なのである。

 逆に良くここまで持ってくれた方だ。彼らを見ているととても心が痛い。


 何かしてあげたいが何もできない、無力な自分に腹が立つ。

 そもそも森に迷ってしまい、このような状態に置かれている事でより一層、苛立たせる。


 けれども思っているよりは遠いものの、松明の炎は確実に近づいているのでこの事実のみが彼らを歩かせ続けているのだろう。


 けれども正直なところ、俺も段々と苦しくなってきているのが分かる。

 足取りが重く、体全体がとても怠い。全身筋肉痛のような重さだ。


 更には少しずつ目がかすみ、頭も痛くなってきた。

 それでも自分を騙し、また自分に渇を入れて進んで行く。

 

 けれども、人間が耐えられるラインがあるように限界がある。段々とその限界が近づいてくる音が聞こえてくる。

 少しづつ呼吸が乱れてきた。いつまで周りを不安にさせない様に虚勢を張れるだろうか?


 息が乱れない様に注意を払う。

 

「マコト殿、もう暫くで着きますので後もうひと踏ん張りですよ。」


「………ええ、そうですね。ありがとうございます。」


 シャルルさんに励ましてもらう。

 声をかけてもらうだけでもありがたい。

 乾燥しているからか、とても喉が痛い。水の魔法を使うにも、今魔力を使ったら倒れてしまうと直感で感じる。

 一層の事倒れてしまおうかとも思う。


「この辺りは魔力の濃度が濃いんですよ。人族は慣れていないと、気分が悪くなってしまいますからね。」 


 なるほど、高山病みたいなものなのだろう。さらに俺は普通の魔法が使えないので、魔力の耐性が余り無いのだと思う。


 意識が遠のいてくる中、シャルルさんに話し掛けられるので何とか踏みとどまることが出来る。

 空も8割方暗くなってきたころには、より一層松明の光が赤赤と見えてくるのが分かる。


 けれどもまだ着きそうにも無く、その出口が見えて中々出られないという現状が俺の精神を嬲り殺すようにゆっくりと弱っていく。


 今回ばかりは意識が持たない気がする。今にでも横たわって楽になりたい。

 積もった雪が、とてもフカフカなベッドに見えてきた。


 シャルルさんも何か言っているが、俺の耳には届いていない。

 何か寒いところで寝てしまうのは死亡フラグって言うよな。

 ああ、死ぬのかな? まあ、別にそれでもいいのよな、生きる理由もないーー


『マコト』


 ふとマリナの声とロイとメイの顔が浮かんでくる。何故だろうか? 彼らのことを思うと何故か、歩かないといけない気がした。


 そしてとても暖かい匂いがする。スープの匂いだろうかとても気分が良い。

 そしてマリナの花の様なあでやかな顔を浮かべると、不思議と帰りたいと思う。

 決して状態が良いとは思えないが。


 こんなところでは死にたくないと、強く願う。そうして俺は力強く冷たい大地を踏みしめる。


 そこからは意識がどうとかではなく、唯々歩いていたのだった。いや、足が勝手に動いたと言う表現の方が正しいだろう。


 松明の炎が煌々と煌めいて見える頃には、雪が無く地面の土が見えていた。

 そう、やっとキャンプ地に着いたのだった。

 体があったまって来たのと同時に、体から脱力していくのを感じる。


 そこには沢山のモンスターが存在しており、警戒と好奇心が混ざった瞳でこちらお見て警戒している様子だ。


「皆さん、ご苦労様です。

 彼らは客人でなので丁重に扱って下さい。そして体を温める物と、休める場所を。」


「ありがとうございます。何から何まで。」


 シャルルさんの好意に俺は、今にも倒れそうな擦れた力弱い声で感謝を伝えた。


「ええ、貴方もゆっくりお休みください。」


 そう言われたのと同時に俺の視線は地面と平行になっていたのだった。

 ーーああ、これ駄目な奴だ。何となく直感で理解できる。 




三か月という長い期間投稿できず、申し訳ありませんでした。

リアルが忙しくなってしまい、手が回らなくなり今回のような形になってしまいました。

応援して頂いた方々には本当に申し訳ありませんでした。

今後は最低週2回投稿できるよう努めますので、気長に待って下さると有難いです。

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