表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/62

34話目 魔の森で

 

 マリナはしばらく声をあげて泣いた後、静かに眠った。

 その後は1人、心の中で言い訳をしてしまう。


 何で俺にこんな事が起きるのか、何も悪くない、何か悪いことをしたのだろうか?

 そう自問自答していき、心が疲れてくる。

 そして無性に泣きたくなってしまう。


 俺は必死に涙を堪えようとしたが、目頭が熱くなることも、鼻がツンとすることも無かった。

 そう、何故か涙が出ないのである。

 泣けたら楽なのだろうが、心臓が締め付けられるような気分だ。

 

 その夜、何もすることが出来ずに夜が明けてしまった。

 夜が明けたとは言ってもずっと起きていたわけではなく、途中で眠ってしまった。

 少し寝たら感情の整理だけは極わずかではあるが、出来ている気がした。


 その証拠として、そこまで胸が締め付けられるように痛くない。


 マリナに合わせる顔が無いので、足早に部屋を出て行こうとする。

 そこで良心に待てと止められるが、俺は無視をしてしまう。

 嫌な事から逃げている事は、自分が一番分かっている。


 そのまま亜人族たちの所へ向かう。

 今日の地下室はいつも以上に気分が悪くなる。

 そして、ドナウドたちがいる所へと向かう。


「旦那、顔色悪いですぜ。

 そんなで大丈夫ですかい?

 鎧もつけてないですし。」


「ああ、そうか。

 今着るから、待っててくれ。」


 急いで出てきたので、鎧を着忘れていたようだ。

 しかし、ドナウドはいつも通りに振舞っているつもりではあるのだろうが、疲れがにじみ出ている。

 俺と違って、眠れていないのだろう。

 他の亜人族も一緒だ。


 それからは一言も話す事無く、森のパトロールへと向かう。

 向かう途中に、今日も朝から沢山の死体が運ばれていた。

 

 そして今日は生憎の雨であり、気分はより鬱蒼となっていく。

 いつものように、眩しいくらいの日差しは出ておらず、どんよりと、ジメっとした感じだ。


 この前来た森が、より一層不気味に感じさせられる。

 更にいくつかの木は枯れかかっており、辺りから吐き気を催す程の腐敗臭が漂う。


 油断していたら、吐いてしまいそうな臭いだ。

 実際、亜人族も何人か吐いている。

 そして俺は直感で、生き物が来てはいけない場所であると認識させられる。


 まさにこの感じは、何かに飲み込まれそうで魔その物と言った感じだ。

 不安、焦燥、悲しみ、虚しさ、怖れ、ありとあらゆる負の感情が俺の中で渦巻いていく。


 そう感じながらも、パトロールをし続けるが魔物おろか生物にも遭遇しない。

 心の中で出てきてと念じてみる物の、何も起こらなかった。

 現実は念じても早々に変わらない。


 そうして森の中を歩き回っていると、今自分がどこにいるのかが分からなくなってしまう。

 詰まる所の迷子である。

 

 幸いにも亜人族は全員居るのだが、帰り方が分からなくなり混乱し始める。

 まだ周りには悟られていないみたいだ。

 

 周りを見渡す余裕は無かったが、誰かがパニックを起こしている事は分かる。

 多分、直感で危険だと認識してしまったんだろう。

 改めてギルさん達は凄いなと、思う。

 しかし、別のこと考えると少し楽になり心の中にゆとりが生まれる。


「皆、落ち着け、何回も来ている森だ。

 取り敢えず離れない様に一回、固まるぞ。」


 亜人族は素直に言う事を聞いてくれて、落ち着き始める。

 しかし、中には明らかに怯えている者もいた。


「まだ、パトロールの道中だから、もう暫くは帰れない。

 きちんと道は覚えているから安心してくれ。」


 こう言わないと、更にパニックを起こしそうだったので咄嗟に嘘をつく。

 皆、半信半疑ではあるが納得はしてくれたみたいだ。

 そして行く当ても無く、森の中を彷徨い始めた。

 それにしても、随分と嘘のつき方が上手くいったものだ。


「なあ、旦那、実際迷っちまったのか?」


 どうやら、ルドルフは通じないらしい。小さな声で聴いてきた。


「......すまない。」


 ぼそっと謝る。それ以上ルドルフさんは俺に追求することは無く。

 俺を責める事はしなかった。


「まあ、仕方ねえな。この天気だったら。

 俺も協力するから頼ってくれよ。何かあったら伝える。」


 そう言うと肩をポンポンと叩いて、少し俺と離れる。

 またしばらく歩いて行くと、周りの亜人族が軽くパニックを起こし始めた。

 

 落ち着かせてから当ても無く歩いていると、明かりが見えたので注意しながら進む。

 その先には魔人族の言葉が聞こえてくる。


 その魔人族の言葉はとても、訛りが強く聞き取りにくいものではあった。

 しかし、聞き取れないほどではない。


「カンゼンニ、マイゴダゾ。」


「ヤバイナ、カエレルノカナ、オレタチ。」


「マア、キョウハ、クライシ、ココデヨヲアカスベ。」


 オークの集団が焚火を囲んで、話していた。

 オークたちは皆、鎧や剣等で装備を固めている。

 

 魔物と遭遇したが怖さ、焦りは一切無く、寧ろ他の生物が現れたことによって安心する。

 他の皆も同じだろう。


 俺は後ろを向いて、無言で此処から離れるぞと合図をした。

 しかし、運悪く後ろへと振り返った時はオークが3匹いたのだった。


「て、敵だ!援軍に来てくれ。」


 オークは槍を構えて戦闘態勢に入る。

 けれども、そのオークの声は震えており他のオークたちも手が震えていた。


 焚火を囲っていたオーク達も参戦し、前と後ろで挟まれてしまう。

 今まで戦ってきた魔物と違い、彼らは冷静で無闇に突っ込んでくることは無い。


「少し、待ってくれ話をしよう。」

 

 俺は咄嗟に、魔人族の言葉でオークたちに話しかける。

 オークたちは驚いた表情をして、戸惑っている。


「ア、ソノ......ハナセルノカ? オレタチノ、コトバヲ。」


「ああ、少し訛りが強くて聞きにくいが、魔人族の言葉を話せる。」


 隊長らしきオークが返答をする。

 周りのオークたちと比べても一回り大きいオークだ。


「ああ、すまない。こっちの方が聞き取りやすいか?

 こっちは公用語なんだ。それで何か用か?」


 急に、オークの訛りが無くなって格段に聞き取りやすくなった。


「俺たちに戦う意思は無いから、取り敢えず戦うのを辞めないか?」


「ああ、分かった。

 敵意はなさそうだからな、その話乗った。」


 そう言って、お互いに構えさせた武器を下げさせる。

 すんなりといった事に逆に怪しくも感じる。


「俺は人族のオーク種で、名前はコドゥアだ。あんたは?」

 

「俺は立花誠だ。」


「お前が、誠か!?シャルル様から聞いた!」


 コドゥアは目を見開いて、とても驚いていた。

 

「知っているのか?」


「当たり前だろ。他の勇者と行動せず。

 人族と並人族の和平を望む、変わった勇者って事で。

 俺たちの中では結構有名人だぞ。」


 失礼ではあるが、顔は何も変わっておらず醜いままであった。

 それでも、とてもオークのテンションが上がっているだけは分かる。


「それなら話が早い。俺たちと一緒に焚火を囲んで話をしようぜ。

 やっぱりこの森、最近は不気味だからな。

 人が多い方がいい。

 それに、シャルル様から並人族とはなるべく戦うなって、言われているから。」


 どうやら、ある程度は信じることが出来そうだ。

 やはりこの森をおかしいと思っているのは、魔物たちも一緒だ。

 俺はこの一連の事がらを、亜人族に伝える。


「今日は魔物たちと、夜を明かす。

 多分、安心できるが念のためだ。

 取り敢えず、注意だけは払っておくぞ。」


 先ほど亜人族がパニックを起こしていた事もあり、これ以上この森を歩き回るのは困難だと思って、俺は提案をする。

 

 反対意見は無いかと聞いてみたが、特に上がることも無かったのでオークたちと暖を取った。


 その頃には幸いにも雨が上がっていた。

 長時間、雨に打たれていたので洗濯魔法を掛ける。


 雨のベットリとした感じが無くなって、とても心地が良い。

 オークたちも物珍しそうな、顔で凝視していたのでおすそ分けしたら感動していた。


「並人族の技術は凄いな。戦争以外の魔法があるなんて。」


「ああ、俺も驚いた。異世界から来たからな。」


 そう俺たちは一晩中話続けて、夜を明かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ