28話目 また魔人
倒れたマリナの元へと俺は駆け寄って行く。
マリナはとても苦しそうな顔をしており息が荒い、メイもまた元気がなさそうに見え、直ぐに意識を失った。
俺はどうするものかと考えていたら、大きな声が聞こえてくる。
「旦那、出来ればこいつらを旦那の部屋に運んでやれないか?」
ドナウドが俺に頼み込んでくる。
「マリナ達は俺たちには必要な存在なんだ。
地下室のあの環境じゃあまともに回復はしない、今のマリナ達みてえに亜人たちもろくに回復もできねえで衰弱死したんだ。だから………頼む!」
周りを見渡してみても、皆黙って俺を見ておりその瞳はまるで神にでも祈っているようだった。
そしてドナウドの身動き一つとれないような、感情のこもった訴えに了承をした。
俺はマリナに聞きたいこともあったので、マリナとメイ、そしてロイを部屋へと連れて行く。
マリナを俺がおんぶをして、ロイはメイをおんぶして運んで行くその間、亜人族たちを訓練場で待機させていた。
運がいいことに人族の人間とはすれ違う事が無かったので、人に絡まれることなくスムーズに部屋へと着く。
俺はマリナとメイをベッドに寝かせて、様子を見ていたが特に容体は安定しているように見えた。
そしてロイに見ておくように言い、自室から出るとルドルフさんにすれ違う。
「誠、3日後にまた魔族と交渉するから前の場所に集合してくれ。」
分かりましたと伝えたら足早に俺は去っていき、訓練場へと向かう。
訓練場へ戻ってみると亜人族全員で頭を下げてきたので、別に構わないと言って地下室へと戻していった。
もちろん洗濯魔法も全員に掛けている。
やはり亜人族の人数が足りなくても、兵士に止められる事は無かった。
本当に亜人族の事なんて気にしていないのだろう。
俺は部屋へと戻り、ロイに何か変わった事は無いかと聞いてみたのだが、特になかったようだったので表記魔法の札を書き始める。
表記魔法の札を描いている時にチラッとロイの方を見てみた。
そしてロイにも表記魔法を教えようと思っていたのだが、メイの事が心配だったのだろうか今もずっとメイの手を握って眠っていた。
そのことに見かねた俺は部屋から出て行き、スエノルさんの部屋へと向かうのだった。
いつの間にか、日が落ちていたので心許ない明かりしか燈っていない廊下を歩いて行く。
しばらく歩くとスエノルさんの部屋の前に着いたので、ノックをして誠ですと言う。
「どうしたんだい、誠さん。」
スエノルさんは静かにドアを開けて、ドアの前に立ち返答をしてくれた。
「毛布か何か、掛けるものがないですかね?」
「わかったよ、私についておいで。」
俺はスエノルさんの跡を黙って付いて行くと、スエノルさんが話し始める。
「誠さん、それは亜人さん達の為の毛布かい?」
「はい、そうですね。」
そう答えると、スエノルさんは弾んだ声で
「そうかい、そうかい、それは良かった。」
暗くて顔はよく見えなかったのだが、どこか嬉しそうなのだけは分かった。
スエノルさんはさらに続ける。
「誠さん、あんた最近結構変わったねえ。
最初の頃はしおれた顔をしてたけど、最近はとっても明るい顔をしてるじゃないか。」
スエノルさんから見たら俺はどうやら最近表情が良くなってきているらしい。
「そうなんですか、俺には良く分かりません。」
「フフフ、それでいいんだよ、答えなんてものはその内時間が出してくれるからね。」
そうスエノルさんとやり取りをしている間に、倉庫に付いた。
倉庫は常に手入れがされているのだろうか、埃っぽい臭いもせずにとても広くピカピカだ。
「いくつ毛布がいるんだい?」
1枚欲しいですと言ったら、あいよとスエノルさんが言って毛布を渡してくれた。
「それと椅子ってありますか?」
「もちろんだよ、奥に進んで行ったら椅子があるよ。」
俺は狭い通路を進んで行くと、おもちゃや骨董品がある棚に着いた。
そこにはボロボロの人形や、ペンダントなどが入っていた。
俺は傍目でそれらを確認しながら、暗い道を進んでい行くと、背もたれのない学校の美術室や図工室ににあるような四角い木の椅子が置かれたいた。
それを持ち上げて元の道を引き返していく。
おもちゃの棚を抜けると、大量の毛布が備蓄されている棚があった。
何でこんなに毛布があるのか聞いてみると、ザクセン砦が寒い地域にあるので人族を凍死をしない為の対策なんだそうだ。
因みにスエノルさんが毛布を出してくれた。
スエノルさんの部屋の前まで戻り、お礼を言って自室へと戻って行く。
自室に戻ると、まだロイが眠っていたのでそっと毛布を掛ける。
俺は兄弟愛系に弱いんだよな、久しぶりに人の為に動いた気がした。
そしてロイの隣に椅子を置いて、再び表記魔法を描き始めてからはもう記憶が無かった。
どうやら寝落ちしてしまったらしいのだ、しかし幸運なことに表記魔法を描くために照らしていた蝋燭の火を消していたらしいので火事にはならなかった。
それにしても腕や腰、背中が怠くそして体が少し冷えている。目覚めは最悪だ。
けれどマリナ達の容体は悪化していないように見えたので安堵した。
しかしロイもメイも子供だからだろうか、見ていてとても癒される。
マリナの方は意識してみないように気を付けた。
俺が鎧を着こんでいると、ロイが目を覚まし俺の顔色を心配そうに伺ってきた。
「まこと、もう行くの?」
「ああ、仕事の時間だ。
ロイはメイたちの様子を見ていてくれ、それとここに運ばれてくる食べ物は自由に食べてもいいからな。」
「うん。」
こっくりと小動物のように頷く。
「それと何かあったらスエノルさんの所に行けよ。」
そう言って、スエノルさんの部屋の行き方を教える。
そして何故か無性に頭をわしゃわしゃしたかったので、ロイの頭を撫でまわした。
とても暖かく、ふんわりしていて気持ちよかった。
ロイは目をこすりながら分かったと返答したので、いつも通りに地下室へと向かっていく。
部屋とは違い廊下には日の光がさしていたので、
檻の前に到着してすぐに、ドナウドが興奮気味になって俺に話しかけてくる。
「旦那、マリナ達はどうなってるか教えてくれ!」
「取り敢えず安定しているから今の所心配する必要は無いから大丈夫。
ロイもついているからいざとなったらスエノルさんの所へと行くように言っているから、問題は無いはず。」
亜人たちは皆ホッとしていた。
そのままいつも通りに森の中で探索していると、いつも以上に死体が沢山あることに気づく。
今日はいつも以上に魔物の死体と人の死体が転がっており、魔物の死体の剥ぎ取りはできていない様子である。
俺たちは森の中を進んでいると、そこには魔人が一人立っていた。
魔人はこちらに気づいていない様子なので、警戒しながらじりじりと後ろに下がっていると、ポキッと枝の折れる音がした。
どうやら亜人族の誰かが木の枝を踏んでしまったらしい。
その音に反応するように、魔人は俺たちの方を見てくる。
逃げようと思ったが、俺たは魔人の威圧で逃げることが出来なかった。
こんな化け物と戦っても、どうしても勝てないと言う絶望感が湧き上がってくる。
多分他の皆も同じなのだろう、そんな俺たちをよそにその悪魔は無情にも俺たちに近づいてくるのであった。
「おお、貴方はこの前ギル殿と一緒にいらした方では無いのでしょうか?」
俺は「はぃ」と、驚きと安どの入り混じった返事をした。
多分この時の俺はとても間抜け面をしていたのだろう。悪魔が笑っていた。
「おっと失礼、自己紹介が遅れましたな。
私はシャルルと申します。正式名称はとても長いので割愛させていただきます。以後お見知りおきを。」
「私は立花 誠と申します。所でこんなところで何をされているのですか?」
「それは魔物たちの調査ですよ。
最近魔物が私たちの言う事を聞かなくてね、彼ら言葉も通じなかったらどうしてかな思ったんですよ。」
シャルルさんはずっと魔物の死体を調べていたらしい。
「何か分かった事はあるんですか?」
「はい、彼らは人為的に興奮状態にさせられて理性を奪われていますね。
これは魔物興奮剤と言われている物を使われています。
残念ながら理由までは分かりません。」
なぜ魔物興奮剤の使用わかったのかと言うと、この薬を使って死んだ魔物目は緑に変色し、シャルルさんはそこで判別をしたと言っていた。
なので魔物興奮剤を使ったかどうかを生きている間に見極めるのは難しく、至難の業と言っていた。
さらに魔物の死体や損傷などのまともな、死体が無くて調査が難航していたらしい。
因みに魔物興奮剤は、甘い香りがするらしく、効能は1回嗅ぐ程度ではたいして効果が無い。
しかし何回も吸い続けることで理性が奪われていくらしい。
1回服用するのだったら、魔物のステータスが上がるだけなのだそうだ。
それでも半分は死んでしまうそうなので、魔物興奮剤は追い詰められて最後の切り札に使うものと説明してくれた。




