26話目 いつの間にやら成長してる
最後の休みは一瞬で消えてしまった。
しばらく休める事は無いのだろうと悟る、それにしても働きたくない。
それじゃあ行きますかと、俺はそう気合を入れて鎧を着こむ。刀も腰につけて俺は準備万端で仕事場へと進んで行く。
少しテンションがおかしい。
1週間ぶりに会った亜人たちではあったが痩せている事は無かった。
更に彼らは人族の言葉で、オヒサシブリデスと言っていたので驚いたが、マリナ達が教えてくれていたらしい。
取り敢えず檻から出して、廊下を歩いているとやはり、こちらを怖がっているのだろうか、俺たちと目を合わせない様に普通の兵士たちは下を向いている。
振り返って改めて亜人族の顔を確認してみたら、犯罪者みたいな顔をしていた。スッと前を向いてスタスタと見慣れた廊下を進んで行った。
久しぶりに外へと出たので俺は清々しい気分になる。
最近ほとんど見ていなかった太陽を見る事ができたので、案外働けてよかったのかもしれない。
そうしていつものように魔物を狩りに行くと、たくさん魔物が出現してきたので直ぐに仕事を終えることが出来た。
1週間何もしていなかったが、しっかりと動きが体に染みついているので戦闘に苦戦する事は無かった。
それ以上に亜人たちの動きが良くなっていた事に俺は疑問に思ったが、強いに越したことがないので嬉しい気分になる。
亜人たちと肉をはぎ取って、また血の味がする肉塊を食べる。暫く食べていなかったので、この味には慣れない。しかしお腹いっぱいに食べられたから良しとした。
俺が一人で黙々とエネルギーを摂取していたら、ドナウドが話しかけてきた。
「旦那、俺たち旦那がへばっている時に新しい戦い方を見つけたんだ。
皆で話し合ってな、だから次の戦闘は見ていてくれ」
分かったと言うとドナウドがみんなの所へ行って、鼓舞し始めていた。
「好きにやってみろと言って貰った、今こそ俺たちの成長を見せる時だ、やるぞ野郎ども! 」
皆オー、と士気が高まっているのが目に見えて分かる。
でもドナウドさん、野郎どもでくくるのは違くないか?
それよりいつの間にドナウドが亜人族を纏め上げていたのだろうと疑問に思ったのだが、亜人族達の声が大きすぎたからだろうか、オーク10匹が目の前に現れてくる。
「いくぞ、野郎ども。」
はいはい、どうせヒャッハー! とか言って脳筋プレイするんでしょ、と思っていたのだが、その考えはいい意味で裏切られた。
この戦いで、亜人達の動きが格段に良くなっていたからだ。
誰も指示することも無く自分たちで、各々のすべきことが分かるように動き始めた。
その姿は一つの生き物と言って良いも過言ではないほど、に動きが鮮やかであった。
初動は、まずエルフが水を刃物のような形にして、ウォーターカットと言いながら4匹くらいのにオークたちを殺した。
オークたちの首が飛んでいく。
そのオークたちは遠距離攻撃をしてくる者達であり、前衛のオークたちは困惑している。
その瞬間をドワーフたちは見逃さずに、40mほどの距離を一瞬で詰め、力一杯オークたちを粉砕していく。
更にドワーフたちには強化魔法がかかっており、スピードがダントツに上がっていた。
今ドワーフは4人しかいない為、1人が足を攻撃して体勢を崩し、体勢が崩れた所でもう1人のドワーフがオークの顔を吹き飛ばしていた。
2匹のオークをやった後、ドワーフたちは一気にエルフより5mくらい手前まで戻り、エルフたちが矢を射かけて足止めをする。
そこでオークの足並みが崩れた所で、獣人たちが後ろから現れて突き殺した。
その時になるまで俺は獣人のことなど全く気付かなかったので、潜伏能力、及びに俊敏性があるなと身を持って体験させられる。
そうして残りのオークは逃げようとするも囲まれているので碌な抵抗もできずに死んでく。
正にこれこそが狩りだと思った。
え? これって俺がいない方が強いんじゃないのか、そのくらい思わされるほどに圧勝であった。
「どうだ、巧く戦えていただろう、旦那?」
「いや、正直思っていた以上に凄かった。この一週間で何をしたんだ?」
「ただ皆で話し合って戦い方を考えたら、巧くいっただけだ。」
凄いな、ご苦労様と言ったら皆満足そうな顔をしていた。そして肉をそぎ落としていたら、紫色の魔石が出てくる。
俺は魔石をポケットへと入れて、砦へと戻ると、門番の兵士がヒィっと声が上がるのが分かった。
なんでかなと思ったら、どうやら彼は治療室から俺の部屋へと運んでくれていた兵士だった。
「ああ、あの時は運んでいただいてありがとうございました。」
俺はお礼を言っておこうと思い、言うと門番の兵士がガタガタと震え始める。
門番の一番の偉そうな人が、風を切る勢いで90度の礼をして謝って来た。俺はびっくりする。
「こいつが先日はベッドに運ぶ時、及びに言葉遣いが雑であって大変無礼を働いてしまったみたいで。申し訳ありませんでした。」
先ほどのドナウド並みの声のボリュームで謝って来た。
俺は現状を全く理解できずにいる。俺が黙っていると更に男の人が続けてくる。
「こいつは最近ここに来たばっかで、勇者様の事を知らないだけなんです。どうかご容赦ください」
これは、勘違いだなと思い、取り敢えず俺は誤解を解いていく。
「頭を上げてください。別に気にしてないですよ。助かりましたし、本当に気にしないでください」
「そう言って貰えると助かります。おい、お前も謝れ」
彼も謝って来たので何でそんなに怯えているか聞いてみると、目を逸らしながらポツリポツリと話し始めた。
「俺は王都から来たんですけど、刀を持った勇者が、女を犯してから口止め代わりに殺して、気まぐれで村の略奪をしたって聞いて。
気に入らない奴は殺すって言う冷酷な人間って噂されていて……」
「あ、うん、分かったじゃあここを通って行くね」
俺は兵士が言いにくそうだったので、話を遮って食料の納入をしに行った。
しかし、俺は王都であることない事言われていることに、どこの魔王だろうかと思う。
彼が怯えているという事は、この砦内皆俺の事を知っているという事だ。
悪いうわさが広まって行くのは、早いだから、最近以上にさけられていたんだと思う。
誤解を解こうかと思ったが、面倒くさいので逆にこの状況を利用してやろうと思い、亜人族を元の場所へと戻しギルさんに元へと足を運んだ。
きちんとノックをして入室すると、ギルさんはまた書類作業に追われていた。
「おお、誠か怪我の方は大丈夫なのか? 」
「ええ、大丈夫です。それより、お願いがあってきました」
ギルさんはペンを止めて俺の方を向いてくる。
俺は、ギルさんがきちんと大事な話を聞いてくれるところに好感が持てる。
「ふむ、言ってみろ」
「亜人奴隷たちと訓練場で訓練をさせてください。」
彼らはもっと強くなれると直感で感じ、それに彼らがあれほど成長しているのに、何も行動しないって言うのは違うと思ったから、こんな行動をしている。
ギルさんは少し考え始め、沈黙が生まれた。
「良いだろう、上には私から言っておくから、明日から使えるようにする。
今日は久しぶりの仕事で疲れたであろう。もう休め、ご苦労であった。」
あっさり了承してくれた事に俺は驚く。
俺はギルさんの部屋から出ると、亜人族のいるところへと向かった。
地下へと入ると相も変わらず、異臭が漂ってくる。
5分もすれば慣れるだろうと思いながら、俺は亜人族たちのもへと向かう。
そこで亜人族たちは、お互いに勉強をしていたことに俺はまたも驚く、そして俺は部屋に洗濯魔法を使い、綺麗にする。
そして俺は、そこでマリナ達に表記魔法の勉強を教えていたら、他の亜人族たちも寄って来たので全員に授業をした。
彼らが強くなってくれれば俺の生存率も上がるので、臭い中ではあったが頑張って、表記魔法を教えた。
そして2時間くらい体感で経ち、キリのいいところで部屋へと戻り洗濯魔法を俺にかけてご飯が運ばれてくるのを待つ。
因みに運んでくるのは一般の兵士である。
ご飯を食べて、表記魔法の札を書いたところで俺はベッドインしたのだった。




