22話目 悪魔公
ギルさんに言われた通りに俺は部屋へと向かうが、その前に匂いが気になったので洗濯魔法を自分にかける。
そしてギルさんの部屋にノックをしては入ると、ギルさんしかいなかった。
「うむ、よく来たな。ルドルフが来るまで少し待ってもらおう。」
俺はギルさんの机の前で暫く間立たされていた。
こういう時に限って、ギルさんは書類を書いて無く、手を組み口に当てて無言で扉の方を見ている。
とても気まずい。
入るぞと言って、雑にドアをルドルフさんがあけるとギルさんが睨みつける。
「これは、失礼しました。」
ルドルフさんが謝るが、
「まあよい、口調を直せ、お前もそっちの方が楽であろう。」
俺は状況を把握できずに、混乱してしまう。
「すまねえな、もともとギルとは小さい頃から友だちなんだよ。
どおせ誰もいないと思って気が抜けちまったみたいだな。」
ガハハと笑っている。そうしたらギルさんが少し表情を柔らかくして
「ただの腐れ縁なだけだ。」
そう言っていたのだが少し嬉しそうに見えた。
「話はそれてしまったが、今回立花を呼んだのは他でもない。
前話した護衛にいつての話である。日程は3日後の昼だ、ルドルフと共に門の前で待っておけ。」
「分かりました。どこへ行くんですか?」
「ああ、悪魔と会いに行く。」
俺は悪魔との戦いを思い出し、また戦うのかと思うと再び震え上がる。
ありがとうございますと言って、部屋から去って行く。
俺はこの2日間で亜人たちのレベル上げをしていこうと決めて、魔物たちを狩っていく。
トロールとも戦うが、既に敵ではなく偶に魔物たちがペンダントのよううな物を落としていったので、兵士たちに売ってみたが二束三文にしかならなかったので、取り敢えず部屋にしまっておいた。
しかし戦っているうちに、皆見る見るうちに、レベルが上がっていっていることが目に見えて分かった。
そして、1人のエルフが鑑定魔法を使えるようになったといったので、鑑定魔法を使わせると皆レベルが確認できただけでも10ぐらいは上がっていた。
因みにそのエルフは、この前取り残された時の女エルフであった。因みに名前はマリナというらしい。
亜人族はもちろんであるが、最近砦の兵士たちも、マリナを凝視していたりする。
確かに彼女の顔は整っており、巨乳、更にモデル体型でスラっとしているので、男が目で追わないわけがない。
話を聞いてみるにエルフは捕まってしまったら直ぐに、男女問わず性奴隷にされてしまうため、亜人であっても興味がわくようだ。
俺の奴隷の扱い方はいい方なのだが、だからってベストかと言ったら、獣人たちが脱走する可能性があるから、一概にはいいとは言えない。
けれど、この世界での俺の奴隷の扱い方が珍しい事は確かなのである。
いよいよ、悪魔に会いに行く日になる。何のために会いに行くは分からないが、多分悪魔と戦いへと行くのであろう。
しかし、わざわざ悪魔と戦う理由がわからないのであった。
そして夜は不安の為、熟睡することはできなかった。
眠い目をこすりながら、言われた集合場所へと進む。俺は亜人たちを連れて、城門へ行くとそこにはルドルフさんと人族の兵士がいた。
「来たか誠、なんだそのひでえ面、お前さん不安でろくに眠れなかっただろう。」
彼はもしかしたら心が読める超能力者なのだろうか、ズバっと俺の今の心境を当ててきた。
それから10分ほど待っていると
「皆、待たせてしまったようだな。よし、行くぞ。」
特に話すことも無く歩き始めるが、俺は未だに悪魔と戦った時、おいて行かれたことを思い出して腹が立ち始める。
直ぐに鬱蒼とした森の中へと入り、一同の気が引き締まっていく。。
無論、俺の気も引き締まり、前へと進むたびに嫌な汗を掻き始める。これは全身鎧で装備しているから暑いと言う、理由でないのだけは分かった。
進む度に森が深くなっていき、俺の不安と緊張も増長していく。
これは今ここにいる、ギルさんとルドルフさん以外皆そうなのであろう。
「ここだ、この洞窟に入って行くぞ。」
ギルさんは返答を待たずにずかずかと進んで行く。
洞窟の空気はべったりとしていて、明かりが無いためとても暗く、人が横に5人くらい横に並べられるくらいに狭い。
しかし、そこでルドルフさんとギルさんが蝋燭を出して火をつけ始める。
微かな明かりと共に俺たちは進んで行くと徐々に洞窟は広くなっていった。
ポチャンポチャンと雫の垂れる音がする。
しばらくすると一段と目立った明かりがあることに気づいた。それは、松明のようなものである。
目を凝らしてよくみて見ると、人型の形をしていたので悪魔であろう。
俺は用いれる五感をすべて使って最大限に警戒をしていると、ギルさんが話し始める。
「ようやく会えましたな。悪魔公殿?私の名前はギルと申します。」
「ええ、こうして会うのは初めましてですねギルさん。私はシャルルと申します。」
そう言うと、白髪でオールバックの190cmくらいあるダンディなおじ様が現れた。
服装はシルクハットとスーツで品があり、紳士を体現している感じである。
「立話も何なので、どうぞこの椅子にお座りになってください。」
「ありがたい。おい、ルドルフ、立花、誰にも攻撃させるなよ。黙って待機しておいてくれ。」
はいと言って亜人たちに伝えると、安堵の表情になる。俺は呆気にとられていたものの、少しは顔の緊張がほぐれていたと思う。
「それでは早速本題へと入りましょう。」
「ええ、かしこまりました。」
「人族との和平の話、考えていただきましたか?」
ギルさんがそう質問し始めると
「うーむ、それはいいんですがこちらも中々魔王様にやんわりと伝えていますが全く興味がないご様子なので、何とも言えませんね。人族はどうなんですか?」
「はい、こちらは国の3分の1くらいの者を既に味方へとつけていますから、和平までとは行かなくても停戦協定までは結べるでしょう。」
「ふむ、こちらは難しいですね。基本悪魔たちは強さで評価される弱肉強食の世界なので、戦争したい人が多いのですよ。」
今彼らは魔人族の言葉で話しているため、今わかるのは俺だけであるが、ギルさんが魔人族の言葉が喋れることに驚いた。
「それでは、シャルル殿が反乱を起こして我々が支援するというのはどうでしょうか?」
ギルさんが提案をするが、これは魔人族の被害が大きいのでシャルルさんが却下をする。
「それは我々同胞が殺し合いをしなければならないので、他の方法は無いのでしょうか?」
「けれどこのまま戦いが続くと、泥沼化してしまい、さらなる犠牲が増えてしまいますよ。」
お互いに自分の種族は傷つけたくないので、一歩も譲らずに話は平行線のままである。
1時間ほど話し合っていたが、何も決まらずに次の会談日程を決めて終わったのであった。
「それでは、また1か月後にお会いしましょう。」
そう言って、お互いに椅子を立ち握手を交わして立ち去って行った。
帰り道は特段何かに襲われるなんてことも無かったので、そのまま砦へと戻る。
俺はどういうことか、ギルさんが立ち去った後にルドルフさんに問いただしてみた。
回答は、昔からギルさんは人族の戦争を無くして、平和にしたいとのことであった。
そしてずっと書類を書いていたのも、サンペルトス王国、言わば勇者がいるところの国の貴族を味方に付ける為に、ずっと密書を送ったり、賄賂や弱みを使ってギルさんの陣営に引き入れたらしい。
いわば外堀を埋めているとの事だった。
今回個のザクセン砦に来たのも、交渉をする為で本国の方にもギルさんと同志の人たちがいるので、ギルさんがいなくても大丈夫なのだそうだ。
そこから俺たちはしばらく自由行動をしてよいとのことだったので、再び森に入って魔物を狩り続けるのだった。




