2話目 転移先
次に目を覚ましたのは森の中であった。確か俺は図書館にいたはず……ここはどこだ?そうか、やっと終わったんだ! あの地獄から!
よっしゃーと野太い声を上げて一人はしゃぐ。はしゃいでいると、ポケットから紙が落ちてきた。
紙にはこう記されている。
『長い間の勉強お疲れさまでした。
色々と聞きたいことがあったでしょうけど、私たちの世界で必要以上話すことは、監視がついている為叶いませんでした。申し訳ありません。
尚、いまも監視されているため書けませんが、そちらの世界にある神社へ行けば大体はわかるはずです。
なので必ず見つけて下さい。それと、このことに関しては絶対他言無用でお願いしますね。
それではご幸運を。』
以上が手紙の内容であった。当面こちらの世界での目標は、神社を探すことになるだろう。
今更気づいたのだが、全く体が疲れていないことにびっくりした。ぶっ通しで勉強をし続けていたのに、不思議だ。
そして俺は1つ重要なことに気づく。それは、巫女さんのセリフが長いことである。今後は気を付けよう。
そんなくだらないことを考えていると、ガサガサと音がし始めたので後ろを振り返ってみる。
そこには一ノ瀬……もといエリザベスがいた。
「ちょっと、まことちゃんっ! どこ行ってたの!? 」
すごい剣幕でエリザベスが迫ってきていた。
「神様が出てきた時にいなかったから、まことちゃんは大丈夫なのかなって思ってたのよ!
この森に着いてからもいなかったから、30分くらい探索してたわ。
急に大声上げちゃってごめんなさいね」
どこ行っていたのと聞かれても、巫女さんに他言無用だと言われているのを思い出す。なので何と答えようか迷ってしまう。そして咄嗟に浮かんだ言葉を言った。
「とりあえず、何度も言うの面倒くさいし皆が、揃ってから詳しいことを言うから、それまで待っててくれるか?」
怪しまれる気もしたが、適当なことを言われて問い詰められる方が厄介なので、ちょっとした賭けに出た。
「わかったわ。約束よ? ちゃんと教えなさい。あと、私についてきて」
「うん、わかった。どこへ向かうんだ? 」
「あ、そうそう、ほかのクラスメイト達の子も同時に呼ばれちゃったらしくて………
まことちゃん除いて皆いたの。だから皆で協力してキャンプ地を作っていたのよ。そこへ向かうわ」
彼女たちはどの様に転移したのだろう? とエリザベスに転移について聞いてみる。
そうすると、げっそりとした様子で語り始めた。
異世界の神様曰く。『最近空間の歪みが強いらしく事故みたいな物で、偶々あなた達が選ばれてしまった』とのことらしい。
偶然にも40人近く呼ばれたのは少し無理があるように感じる。
更に詳しく聞こうとするも。キャンプ地に着いてしまった。けれどもそこは、俺が想像していた異世界キャンプ地とは違う。
そこにはテントが張ってあったのだ。もっと無人島っぽいキャンプを想像していた。めちゃめちゃ現代で、備品も充実していた。
「誠もやっぱり来ていたんだあ。良かったあ。僕たちいなかったら誠はボッチだったからね」
着いて早々、太った声で細川が言ってきた。
細川は優しいからそういった俺の心配もしてくれているのだが、ボッチとか余計なことを言ってくる所が玉に瑕だ。
「神様が僕たちにテントをくれたんだよねえ、いやあ助かったよ。
更にご飯も貰ったからさ、どんな味がするのか楽しみなんだあ」
ヨダレを啜りながら、そう細川が楽しそうに話している。ご飯の興味が強すぎて、本当に心配していたのかと少し疑う。
細川と話していると、1人の男が話し始める。
「みんな聞いてくれ、いま立花が合流した。
クラス全員が揃ったから皆が集まり次第、今後どうしていくか決めていこう」
元気よくクラスをまとめている長身の金髪イケメンは如月 爽太だ。
彼は生徒会長でありスポーツ万能、成績優秀で何でもでき、人にも分け隔てなく接し、誰にでも優しくする正真正銘のスーパーイケメンである。
バレンタインでチョコをいろんな人から貰っているが、ここまでイケメンすぎると非リア同盟の我々には何にも感情もわかない。慣れって怖いね。
そこに変態眼鏡の影野とアホの体現者森口が帰ってきた。彼らもエリザベスと細川と同様、心配をしていた。
いつものメンバーが揃ったので、改めてエリザベスが聞き込みを始める。
「それで……誠ちゃん何があったの? 」
すっかり言い訳を考えることを忘れてしまっていた。
「えーと……実は俺、神様に会わないで気づいたらこの森にいたんだ。俺もよくわからなくて、すまん」
ほかのクラスメイト達も俺のことが気になっているのか、聞き耳を立てている。そしてそんな訳ないだろうと、コソコソと話す声が聞こえた
「まーまー、いいじゃん。誠が生きていたんだからさ。はいこれでお終い。会長、みんな揃ったぽいし、これからどうするか決めよう」
そうアホの森口は空気を読まずに、自分が思ったことをズバズバ言う。
俺はこういう所が嫌だが、正直なところ助かったので、素直にありがとうと言った。いや、空気を読んでくれたのだろうか
「取り敢えず今日はみんなの食料を分けて、一晩明かそう。
魔物とかがいる世界って言っていたから、五人一組で交代しながら見張ろうと思う」
反論する人間は存在しないので、そのまま如月が続ける。
「取り敢えず明日は周りを探索しながら、人を探す班とここでバリケードを作る班に分かれようと思うんだけど、いいかな?
何か意見がある人は言ってくれると、助かる! 」
全員沈黙を貫いたので賛成とのことだった。皆急に異世界に転移させられたので、やはり元気がない。
そして8グループに分かれて見張りをすることにした。
テントは全部で8個だったのでグループごとに寝ていたのだが、皆不安があるのかなかなか寝付けずにいた。
「何か修学旅行の夜を思い出すよなー」
そう森口が口を開いた。
「確かにあの時の夜は楽しかったよな。皆で枕投げをしてたし」
影野のが喋った。彼はどんな会話も取り敢えず繋げてしまう癖がある。
「俺たちこれからどうなっていくんだろうなー? 」
「さあな.......取り敢えず生き残ることだよな......」
そのやり取りを最後に、俺たちのテントの中は静かになった。因みに細川は既に眠っている。幸せな奴だ。
そして見張り交代の知らせが入ったので、眠い目をこすりながらテントから出ると、とても綺麗な星空が万遍に広がっていた。
天の川の星が更に増えた感じだ。夜空なのに、とても煌びやかに輝いている。
星空で目は冷めたものの、俺の体は目が覚めてくれなかった。
「お前ら、何でそんなにげんきそうなの?」
俺は気だるい声で四人に尋ねる。
「何かこっちの世界に来てから、体が少し軽くなった感じがするんだよなー。
ジャンプしようと思ったら、結構高くまで飛んじゃった的な?」
また森口の虚言癖が出た。けれどほか4人も、『あー、確かに』って言っていたのでどうやら本当らしい。
「ていうかさ、誠が小さい時って本当に何も覚えていないのか?」
場をつなげようと急に影野が聞いてきた。
「そうだな、本当にぼんやりとしか覚えていないな。強いて言っても、小さい頃友達とワイワイやってた陽キャだったってことかな」
「いや、子供に陽キャとか陰キャとかいう概念ないからな?」
影野が突っ込むと場はシンと一気に張り詰め、一堂に緊張が走る。彼は滑ってしまったのだ。
更に巻き込み事故に合わない為に。
お互い無言で高度な心理戦を繰り広げている中、俺は思わずに吹き出してしまった。
「ククク。腹がよじれる......影野が滑って男5人が見つめ合ってるのとか......
もう考えただけで、くッ」
「バカやめろ、夜警中に大声を出したら意味がないだろ」
また影野が突っ込みを入れてくる。お笑い芸人でも目指してんのかな?
「確かになー、誠が笑ってるのって基本人を馬鹿にしている時だよなー」
アホの森口が人が悦に入っているときの邪魔をしてくる。
そういう所が嫌われちゃうんですよ、お前もだろだって? うるせー!
そんなこんなで不安をかき消そうと5人で話し合っていたら、交代時間が来たのでテントに戻る。俺は泥のように眠ったのだった。
そして朝起きて、おしょんをしに行った。
何か女子たちが調理をしているらしかったのだが、それを横目に男女で別れたトイレ用のスペースに足を運んだ。
用を足していると甘い匂いがしてきた。これはお昼ご飯を楽しみになってくる。
トイレが終わったら、横に野生のイケメンが現れた。
同じ制服を着ていたが怪しいと思ったので
「お前はだれだ?」
「私よ、エリザベスよ、エ・リ・ザ・ベ・ス」
「嘘だ、エリザベスはかわいいんだ。そこら辺んの女子よりも。」
ん? まてよほかの女子よりかわいいオカマってことは、イケメンなのか。そうなのか?
「やだもう、かわいいだなんて、誠ちゃんッたら。
でもほかの女の子よりかわいいなんて言っちゃうとモテなくなっちゃうわよ~」
この優しさはエリザベスだと直感で感じる。
一ノ瀬とかイケメンですって苗字しちゃってるもんなあ。でも違和感しかないなあ。
「あら、信じてないわね。お化粧落としたからって、わからないって顔をしているわね。
小さいころよく一緒に遊んでたのに悲しいわ」
そんな小さいころの顔なんて覚えてないですよ普通。
「ま、まあそんなことより早くご飯食べに行こう? 何か女子がご飯作るとか言っていたし。
でもなんでエリザベスは一緒に作らないんだ?」
「女子が言うには緊張しちゃって作れないですって。なーんか腑に落ちないわね。」
それって、イケメンすぎるからってことですよね。
確かにエリザベスは高身長で性格が良くて、顔がイケメンでそんなこと言われるって、いいことじゃん。いいなー、うらやましいなー。つい心の中で嫉妬が出てしまう。
戻ってみると男子は何かをつくっていた。
細川に聞いてみると、取り敢えず何に出会うかわからないからってことで石を棒に括り付けた。
原始人が使ってそうな斧ができた。人数分が作り終わるころには朝ご飯ができていた。
神様にもらったスープとパンらしく、昨日のカロ〇リーメイトとは違ってきちんとした食事であったので、とても美味しそうに見えた。
「順番に並んでとって食べてねー」
そう明るく言う女の子は姫宮 一花学校のアイドル的存在だ。
身長は低く、黒髪ボブカット、目がクリクリして鼻筋の通った天使のような女の子だ。
いや、天使である! 彼女に玉砕した男は数知れず。
イケメンにも言い寄られていたが、陥落することもない、無敵の要塞と恐れられていた。
スープをみんな貰いに行き、草の上に座ってなにこれめっちゃ上手いとか言って凄い勢いで食べていた。
少しよだれをたっらしながら、今か今かと待っていると俺の順番が回ってきた。
因みに配給をしているのは姫野さんだ。
「あ、あの」
姫野さんに話しかけられた。
「ん、何?」
少し期待気味に返事をすると
「誠君、スプーン忘れてるよ」
そう明るい口調で言ってくれた。ま、まあ、俺も別に期待なんてしてなかったし、まあ現実はそうだよなあと思いながら細川たちのところへ行った。
でもスープはとっても暖かい。
「みんな聞いてくれ、今日は昨日と違って4つの班でこの辺を探索しながら、木の実とか食べられそうなことを集めるってことにしたいんだけど………
それでいいかな?」
如月が食べてる途中皆に言っていたがやはり誰も反応することもなく、如月も少し困った顔をしていた。
「如月ちゃん、残った2班で魚を捕るとかできないかしら?」
エリザベスが切り出す。さすがは委員長である。
「1班が見張りでもう1班が魚とかを捕まえるってことって事?」
「そうよ、木の実だけじゃ限界があるでしょう?
一応保険って事で良いんじゃないのかしら。
今の私達だったら出来そうじゃない?」
「わかった。他に意見は無いかい?」
沈黙が流れる。
「じゃあきちんとマップを見ながら探索していこう」
如月がそう言い班分けが終わる。
その頃には皆食べ終わっていたので、全員何も言わずにその場から立ち去っていった。
俺たちの班は探索であった。
そんなことより俺は、マップと鑑定の能力があることに驚いていた。
俺も心の中でできるんじゃないかと思って『鑑定っ』と大きな声で叫んでみたが何も起こらなかった。
「どうやって、鑑定とかマップだすんだ?」
「簡単だよお、同じ場所を見続れば鑑定はできるし、頭の中でマップって言えばいったところの情報が自動で記録されるんだあ」
「ありがとう」
「あ、でも人は鑑定できないから気を付けてねえ」
細川が丁寧に教えてくれたので木をじっと見続けた。
しかし、何も起こらなかった。次にマップと脳内で叫んでみた。
しかし、何も起こらなかった。諦めよう。
「やっぱり、できなかったのか?」
森口が一連の俺の動きを見て聞いてきた。
「出来なかったけど何か?」
「俺らが鑑定するからさー、周りを警戒しといてくんない?。」
「わかった」
役割を与えられてお荷物になら無かったので俺は安堵した。
なので俺は周りを警戒した。
警戒中に足跡があると伝えたら、ほかの班員の物だろうという答えが返ってきた。
皆も木の実を取り終えたから帰ろうといっていたが、木の実を持っていなかった。
バックもないので疑問に思った。
「木の実はどこにやったんだ?」
「木の実ならほらここに、収納しているんだ」
そう言って、空中から木の実が出てきた。空間収納ですねわかります。
言うまでもなく俺は出来ない。
「でも、どんなものでも10kgまでは入るんだけど、生き物は入んないんだよな。」
影野が補足の説明を入れてきた。ほかの4人についていくとキャンプ地に戻った。
他の班はもう既に戻ったらしく話をしていたらしい。
何でもそれは、自分たちではない足跡があったとのことだった。
「取り敢えず、委員長の班も足跡を見たか聞いてみよう。」
足跡を見たけれど、どうやらほかのみんなが見た足跡とは違うらしく、皆が見たのは3本の足がある子供ぐらいの足跡だったらしい。
俺が見たのは明らかに大人サイズの靴の足跡だったので、多分皆が見たのはゴブリンなんだろうなと思う。
その瞬間、草むらから何十匹というゴブリンが現れて目の前で対面していた。
ゴブリンの見た目は醜悪で子供くらいの身長であり。不快な声を出していた。
「皆、武器を持って戦うんだ!」
如月が言うと皆斧を持って戦い始めた。
この一瞬で判断出来るのは凄いと思うが、エリザベスと影野だけは少し表情が曇ったようにも見えた。
そして俺は殺気立ったゴブリンを見て「うわあ」、と情けない声を出して尻餅をつき足がすくんで動けなくなる。
しかし他のクラスメイト達は皆戦っていた。
クラスメイト達も最初のほうは圧倒していたが、ワラワラとゴブリン出てくるので、次第に動きが鈍っていくのが目に見えて分かった。
これでも俺はビビッて動けない。
中でもエリザベスと如月の二人が強く、ものすごい勢いでゴブリンたちを叩き殺していた。
凄いと思ったのも束の間、一瞬冷静になるとゴブリンの無惨な死体を見ると吐いてしまう。
そう俺がうずくまっている間にも、ゴブリンたちの猛攻は続き次第にクラスメイト達もぼろぼろになっていった。やっとのことで俺は立ち上がれた。
立ち上がれた時には、目が血走り気性荒くなったゴブリンが、真っすぐにこちらに向かってきた。
俺は上から斧を振りかざしたが、横に躱され木の棒を顔に打ち付けられる。
そして俺は仰け反ったが何とか持ち直して斧を横に振った。しかしジャンプして躱され、また顔に気の棒が当たる。そして斧を落としてしまう。
俺が斧を拾い、敵を見ようとした時には高くジャンプしてきたゴブリンが目の前に迫ってきていた。
咄嗟に斧を上にあげて身を守ろうとすると、運がいいことにゴブリンの目に俺の斧が当たっていた。
ゴブリンは目を抑えながら悶えているので、俺はチャンスとばかりに頭の上から斧を振りかざした。
一発では死ななかったので、何度も殴ったらやっとのことでゴブリンを倒した。
色々な固形物や汁が目の前の元生物からあふれ出てくる。倒したと言うか、殺した。とても気持ちの悪い感覚である。
殺したことによって恐怖で足が竦んでしまう。
怖くなって逃げだすか、友達と一緒に戦うか葛藤していると
「加勢するぞ、皆の物、私に続け。」
騎士団らしき屈強な人たちが助けに入ってくれた。
そのことによってゴブリンたちは全滅し、俺たちは何とか事なきを得たのだった。