14話目 兵舎。
1人ぽつんといる医務室にヒルンドが入ってくる。そしてヒルンドはニタニタと気色の悪い笑みを浮かべて近づいてくる。
俺は彼に何かしただろうかと考えるも、嫌われる理由がわからなかった。
「立花さん、手痛くやられちゃいましたね。」
俺は黙黙り込む。煽られて言い返すと、こいつが喜ぶだけだからと思ったからだ。
「あれ、反応が無いですねー。まあいいでしょう、実はあの闘い国王陛下が見られていて、このままだと魔族討伐どころじゃないので、立花さんを別の任務に就かせるとの事でした。」
要約すると左遷である。俺なりの考察であるが、1人晒し者にして周りの皆を焦らすのだろう。そして要らない奴は捨てるのも勿体ないから、雑魚兵として利用する。それがこの国のやり方なのだろうと思った。
「そして勤務地はなんと、これより北へ行ったザクセン砦です。寒いらしいですが頑張ってください。」
とても明るい口調で一枚の紙を渡された。特に思い入れもなかったので何もないのだが、面と向かって要らないと言われると、少しへこんだ。
「そういう事なんで頑張ってくださいね。」
そう言ってヒルンド笑いながら部屋から出て行く。そして俺は、確かザクセン砦が魔族前哨基地だったのを思い出す。
日々小競り合いが起きており人の入れ替わりが激しいらしい。そこらに死体が転がっているようで、この世の地獄と言われている。
そこへ人の雑兵として戦地に送るように感じだ。内容を見てみると、戦果を挙げた場合のみ褒美がもらえるようで、給金などは一切ないので、ただ働きで死ねと言われているようだった。
そして、ザクセン砦へ行くまでに1ヶ月ほどあるらしいので、王城から出てすぐの所に兵士たちの居る詰め所へ明日までに行けとの命令である。纏めると、早く王城から出て行けという事だろう。
そして俺に1人の案内人が来たので、付いていくと自分の部屋に着いた。
そして、物を整理するように言われたので物を整理していたらメイドのおばさんも入って来たので、今までありがとうございましたと伝えると
「何を言ってるんだい、私も行くんだよ。」
どうやらおばちゃんも左遷させられてしまったらしい。これが美人メイドならどれ程よかったことか、やはり現実は厳しいようだ。
そして城は今日中に追い出されるらしく、30分くらいすると案内人が再び来たので城の城門まで送ってもらう。その途中に遠くからあ「おーい」と俺に呼び掛けていたので振り返ってみると
「ハアハア、立花君、やっと追いついた。さっきヒルンドさんから立花君が旅立つと聞いてね。お別れを言いに来たんだ。」
「ありがとう。」
「出来ればみんなで早く戻せるように頑張るから、立花君も頑張ってね。」
見送りに来てくれたのが如月だった事に疑問はあったが素直に感謝し王城を後にした。
そして無駄に煌びやかな王城にも見下されているような気がする。
城から逃げる去って行きしばらく経つと、ヒルンドもとい、エリンギくそ眼鏡が立っていた。彼はキョロキョロと周りを見ており、人を探しているようだ。
バレない様にい行こうとしたら、相変わらず変態みたいな笑顔をして近づいてくる。
「いやあ、まさかスエノルさんも一緒に左遷ですか、兵舎の方たちにはもう伝えておいたので安心してくださいね。それとここから真っすぐ行ったところにありますよ。」
「ああ、目の前に見えてるからわかってる。」
「それはすみません。あなた方にはわからないと思って、それでは失礼しますね。」
眼鏡を食いっと上げて再び歩いて行った。わざわざ嫌味を言うためにここまで歩いてきたのだろうか、ご苦労なこった。
それよりもメイドさんの事をスエノルさんって言っていたので、今度こそは忘れないように注意しておこう。
それにしてもスエノルさんが全く明るくなかったので相当ヒルンドの事を嫌っているのだろうと思った。
そんなことを思っていたら兵舎に付いた。兵舎は2階建てで屋根は赤く、木造建築でありボロボロである。
そして周りには大きなグランドがあり、陸上トラックぐらいの訓練場があった。
「ん、お前さんが誠か?」
そう名前を聞いてきたのは伊藤博文並みに、ひげを生やした。
モジャモジャで筋骨隆々としている鋭い目を持った厳ついおっさんであった。そして俺は「はい」と答えると
「そうか、今回のザクセン要塞へ行く兵隊のまとめ役をすることになった。ルドルフだ。
そして今回の代表を務めるのが貴族様らしいんだが、遠征の3日前に来ると言っていたからその時に挨拶をしとけよ。」
どうやらルドルフさんは隊長みたいなようだ。この上に1人貴族様が率いるらしいが王城で何か問題を起こしたようで、今回の遠征に選ばされたと言っていた。
遠征軍は他の都市からも出ているそうだが、最近は大規模な攻勢もないので志願兵以外は、ほとんど亜人で構成されており、全員、奴隷の紋章がついている。中には10さいくらいの子供もいた。
兵の士気は低く、亜人たちの顔は無表情で瞳に光を宿していなかった。
「お前さん、勇者様か何か知らねえけど、戦場では生き残ったあ者が正義だ。勇者の肩書なんかより生きている兵士のほうが役に立つからな。死に急ぐんじゃねえぞ。」
分かりましたと伝えた。ルドルフさんの言いたいことは詰まる所、勇者だからと特別扱いはしないし、生き残れよという事だろう。
そして自分の部屋に案内された。部屋は6畳くらいで、ベッドあり、スエノルさんは隣の部屋で寝泊まりをして食事を作ったりするそうだ。一応、元勇者っていうのがあり最低限の事をしてくれているのだろう。
そしてここでは訓練があり、集団行動や剣術の訓練などもさえられるが、が志願兵と奴隷とで分かれていた。
奴隷には互いで剣を交えさせて戦わせているものの、やる気は見受けらなかった。そして奴隷たちは栄養不足なのか今にも倒れそうな体格をしていた。
そして夜になり俺は訓練場で刀の素振りをしていたら、兵士がやって来ておれのことを嘲け笑っていた。かと言って戦おうとすることもなかったので、無視していたら
「おい、お前何とか反応でもしろよ。」
そう言って酒臭い兵士は胸倉を掴んできたので背負い投げをしたら、酔いがさめたのか謝ってきたので許すことにしたが、心の底ではバカにしているんだなと思ったら、少し心が締め付けられた。
再び自主練習に戻ろうとしたら、一人の少年が底に立っていて俺の事を冷たい目で見ている。
「オマエ、、二、ケン、ヲ、オシエテ、ホシイ。」
そう片言で獣人の少年が言ってきた。その少年が持っていた武器は驚いたことに刀であり、本来子供が持つ事はない尋常じゃないほどの殺意にまみれていた。
なので俺は少年に悪いがそれはできないと伝えたら、食い下がることなく、さっさと帰っていた。再び俺が自主練習をしていると、少し離れた所で俺を見ながら練習をしていた。
取り敢えず俺は無視をしながら自主練習に励んだ。そして昼間は集団で訓練をし、夜は自主練習をし1週間が経った。
少年は毎日俺を見ながら練習をしていたので、流石に気が散ってしまうので近づきに行くと逃げようとしたので、獣人の言葉で止まれと言ったら、ビクッとして止まった。
「何でそんなに、強くなりたいんだ。」
俺がそう質問すると
「人族が憎いから。殺したい。」
そう言った彼は、とても殺気立っていたのだ。俺はかける言葉が無かったので、そうかとしかいうことが出来なかった。
そうして俺は再び自主練に戻り、少年も俺も俺を見ながら練習を始める。そしてこの日常は貴族が来るまで続いていたのだった。




