一章4話 出てきたのは女の子でした
陽光に照らされる新緑の校庭。そこに、一列で並ぶ生徒たち。レオンはその中でじっと自身の順番がくるのを待っていた。
「すげー、グリフォンだ!」
歓声が上がり顔を上げると、そこには金色の体毛に包まれた大きな翼を有する一体の封印獣が出現していた。
「お父様が祝いに買ってくれたんだ。羨ましいだろ?」
「いいなー、俺なんかヘルハウンドしか買ってもらえなかったよ。まあ、ガーゴイルよりはましだけど」
同級生の何気ない会話を聞き、心臓が跳ねる。
なぜなら、レオンが右手に握る漆黒の封印剣、その封印獣は渦中のガーゴイルであるからだ。
「次、レオンブラック」
「え? は……はい」
最悪のタイミングで名を呼ばれ、レオンは汗をぬぐいながら列の正面、恩師の元へと歩く。
足を踏み出すたびに鼓動は早くなり、訪れてもいない羞恥心が早く滅失してくれればいいと強く願う。
「どうしたのレオン? 顔色があまり良くないわよ?」
ローザに声をかけられるが、レオンには苦笑を返すことしかできない。
レオンが正しければ、今のところガーゴイルを出現させた者はいない。皆それなりに値がはる封印獣を出現させている。そんな状況でガーゴイルなど出現させようものなら、蔑みの対象にされるだろうことは想像に難くない。
「……やっぱりちゃんと武器屋で買えば良かった」
レオンは小声で呟くと、左手で心臓を叩く。そして一時期的に羞恥心への恐れを晴らし、漆黒の封印剣を天高く掲げた。
「我に使えることを許すのならば、我の前に姿を現し、我の命令に従え! 顕現せよ! 我に使える魔物、封印獣よ!」
詠唱を終えると、右手に持つ封印剣は藤色の光を放つ。その光量は凄まじく、レオンは思わず目を瞑った。
その後、瞼の裏から光源が消え、レオンはゆっくりと目を開ける。
視界を、陽が貫通してしまうのではないかと思うほどに透き通る純白が覆った。
レオンはそれを注視することにより、その純白が髪の毛であることを理解する。そして視線を下げてゆき、一矢も纏っていない女体を見た。
わけがわからない。レオンはそう思い、目線をあげる。すると、紫紺の瞳と目があった。
「お初にお目にかかります、主人様」
鈴の音の様な耳障りの良い声で言うと、少女はレオンに向けて頭を下げる。
わけがわからない。レオンは先の言葉を反芻する。
なぜなら、現れるべきはガーゴイルであったからだ。その相貌は断じて可憐な少女などではなく、石像の皮膚に覆われた魔獣である。
理解など、できるはずがなかった。
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