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一章3話 フードの男と封印剣

 光源へと辿り着くと、そこにはフードを目深に被る男がいた。

 レオンは突然の邂逅に慄き、その場に尻餅をつく。


「心配するな。危害を加えるつもりはない」


 男は言うが、右手には物騒なものが握られている。

 レオンは薄暗闇の中で藤色に光る封印剣を見上げ、命の危機を悟った。


「お前はレオンブラックで間違いないな?」


「……」


「答えろ!」 


「……そう、です」


「そうか。お前にこれを渡しにきた」


 レオンが答えると、男は右手に握る封印剣を鞘に収め、それをレオンに差し出してくる。


 レオンは恐る恐る手を伸ばしてそれを受け取るも、予見していた命の危機は訪れない。


 不審に思い男を見上げると、男はフードを深く被り直し、早足でその場から立ち去っていった。


 レオンはその後を追おうと思うが、足が竦んでいるために叶わない。尻餅をついたままその場に一人残された。


 王都とはいえ、近隣を少し行けばスラム街がある。故に、王都の治安が良いとはとても言えない。実際、王都内での金銭を巡った犯罪行為は多い。


 レオンはポケットに手を入れて光る金貨を二枚取り出す。


「……金を取られたわけじゃないのか」


 呟き、レオンは渡された封印剣に視線を落とす。


 祭日が近づくと決まって横行する犯罪の中に、凶器をチラつかせて無理矢理に封印剣を売りつけるというものがある。

 内容は悪質で、封印獣の中で最弱とされているガーゴイルを、最高位のドラゴンと同等近くの値段で売りつけるというものだ。


 しかし、売買が成立しているという点と、相手側が変装をしているために、検挙率は極めて低いのが現状である。


 レオンは再び光る硬貨を見やる。


「金は取られてないんだよな……」


 再び呟くと、壁に手をついて立ち上がった。


「間抜けな犯罪者だな。剣を渡しておいて金を取らないなんて」

 

 顔を隠していた、剣を渡してきた、という二つの観点から安易な結論を口にし、レオンは男が歩いて行った方向に向けて足を踏み出した。


 そのまま歩いていくと、大通りへと出る。普段よりも人の数は多いものの、先ほどのような人混みはなかった。


 レオンは右手に握る封印剣に視線を下ろし、ややあって家路についた。


 レオンは渡された封印剣の封印獣はガーゴイルであるだろうと考えているが、改めて武器屋で封印剣を買おうとは思わなかった。


 剣士になると決めたものの、封印剣はただ単に明日のアカデミーでの儀式に必要であるというだけ。故に、最弱であるガーゴイルの封印剣であろうと、レオンには関係がなかった。


 それに、無力であろうとするレオンにとって、最弱であるガーゴイルの封印剣は都合がいい。

 一時は命の危機を悟ったものの、思わぬ収穫にレオンの頰は緩む。


 上機嫌のまま自宅の戸を開けると、当然の如く室内に明かりは灯されていない。


 暗闇の中で手を伸ばして電気のスイッチを押すと、レオンはテーブルの上に封印剣を置いた。


「ちょっと見てみるか」


 レオンは椅子に座り、鞘からゆっくりと引き抜いてその刀身を眺める。


 すると、刀身は先のように藤色の光は発しておらず、照らす照明を吸い込んでしまうのではないかというほどに、漆黒に染まっていた。

 加えて、刀身には異様な光沢が見られる。その様子からして、手入れが施されているというよりも、使われた形跡がない。


 最初から封印剣を売ることが目的なのであれば、魔獣を屠って封印獣としたら、価値を少しでも高めるために、それ以降は使わないのが主流である。

 なので、未使用の封印剣とは決して珍しくはない。


 けれども、レオンが手に入れた封印剣は、犯罪者と思しき人物から受け取ったもの。そんなものが、よもや良い状態で保存されているとはとても思えないレオンである。


「ん?」


 刀身に彫られた小さな文字。それに気がつき、レオンはその文字を指でなぞる。


「この罪は忘れない? なんだそれ?」


 なぞった結果導き出された言葉に、レオンは小首を傾げる。


 恐らくは、屠って封印獣とした魔物に対しての謝罪の念を綴ったのだろうが、そんな律儀な剣士などいないとレオンは思う。


 なぜなら、お互いに命を賭けて戦っているわけであって、勝者と敗者がいるのは必然だからである。

 にもかかわらず、敗者への謝罪をわざわざ剣に彫るなど、レオンには理解できなかった。


 それに、売ることが目的なのだから、こんな文字を彫ってしまっては価値が下がってしまう。

それが由縁となって犯罪者の手に渡ったのかもしれないが。


「まあ、考えても仕方ないか」


 所詮は明日の儀式の為だけに必要な封印剣。レオンはそれ以上、その剣が持つ歴史に考えを巡らせる気にはなれなかった。


 ベッドの上に横になると、思考を停止させて瞑目する。


 そして心地よい疲労感により、夢の世界へと誘われた。

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