一章24話 決戦
まず最初に、眼前の剣士の顎を目掛けて拳を放った。それは見事命中し、剣士はよろけて構えていた剣を落とす。
すかさずレオンはその剣を拾い上げ、迫っていたヘルハウンドの脳天を目掛けてそれを振り下ろした。
血飛沫が上がり、付近にいた剣士、封印獣が赤く染まる。
レオンはそれに構わず、付近の新たな剣士に向かって剣を横薙ぎに振るった。
その一撃は剣士の持つ剣によって防がれるが、畳み掛けるように拳を放つ。それは剣士の頬骨をとらえ、ゴキッという嫌な音が響いた。
レオンは骨と骨がぶつかり合う気持ちの悪い感触に破顔するも、素早く剣を振り払い、眼前の剣士を屠った。
額から汗が伝い落ちてくる。レオンはそれを拭いながら、状況を打開すべく思考する。
いくら身体能力が優れているといっても、数の暴力には及ばない。
状況を打開する起死回生の一手はないものか。そう思考しながら、迫り来るヘルハウンドに剣を振り下ろす。
血飛沫があがり、安寧を得たのもつかの間、背後から剣士三人が剣を振り下ろしてくる。
レオンは右足を軸にして素早く身を翻すと、剣を横に構えて振り下ろされていた三本の剣を受け止める。
しかし、力負けして三本のうちの両端の二本の剣先がレオンの額を掠めた。
「らあああああっ!」
言葉にならない咆哮をあげながら、レオンは三本の剣を押し返す。
その結果、三人の剣士は勢いに負けて後方へとよろけ、バランスをとったがために腹がガラ空きになる。レオンはその隙を見逃さず、鎧ごと叩き割るような気持ちで剣を横薙ぎに振るった。
鮮血が噴き、三人の剣士は地に崩れる。
つとーっと額から流れ落ちる鮮血。それは汗と混ざりあいながら瞳へと流れる。無意識に瞼が閉じるのに気がつき、意識的に目を見開く。大勢の敵を前にしながら、一瞬でも視界が遮られ隙が生まれようものなら命はない。
本能的にそう理解していたがための行動だ。
跳躍して飛びかかってくるヘルハウンドの口内に剣を突き立て、背後から迫る剣士の腹に膝蹴りをいれる。
が、剣士が振り下ろしていた剣までもを防ぐことはできず、右肩から脇腹にぬける斜線が刻み込まれた。
「があッ!」
思わず情けない声が漏れ、レオンは体勢を立て直すために跳躍する。
そして上空から安全地を探すが、いつのまにかレオンは剣士たちに包囲されていた。
故に、どこに着地しようと安寧は得られない。それに、着地の際は必然的に無防備な状態になる。
跳躍したことが却って仇となった。
どうすればと思考していると、剣士たちの後方、卑しく笑う細目の男が見えた。
「リッキいいいいいいぃぃ!」
レオンは叫び、リッキーを目掛けて降下する。空中でクルクルと回りながら距離をつめ、リッキーへの距離を稼ぐ。
しかし、想いとは裏腹に、レオンの身体は急激に地面へと降下していく。そのため、リッキーの袂までは僅かに及ばない。
剣士たちが待ち構える中、レオンは無防備に膝をついて着地する。
着地と同時に顔を上げたものの、既に無数の剣と無数の牙が視界のいたるところから迫っていた。
視界が迫る剣士とヘルハウンドによって暗く染まる瞬間、人垣の僅かな隙間から笑うリッキーの姿が見えた。
「ぅおらああああああ!」
レオンはリッキーが見えた隙間をこじ開けるように身体をねじ込む。
事実、剣と牙は迫っていたため、腿や膝下に激痛が走った。
けれども、レオンの上半身は見据えた隙間をこじ開け、伸ばした右手に持つ剣がリッキーの鎧を掠めていた。
リッキーは驚愕の表情を浮かべ、慌てたように鞘から剣を引き抜く。
が、その間にレオンは取り囲む剣士とヘルハウンドを払い、リッキーに向けて剣を振り下ろしていた。
「アリスを返せえええ!」
リッキーは剣を構えられておらず、振り下ろした剣がリッキーの脳天を貫くのに障害となるものは存在しない。
レオンは下半身の至る所からだらだらと血を流しながらも、剣を握る右手に渾身の力を込める。
しかし、振り下ろした剣はあと僅かというところで、リッキーが首をそらしたがために致命傷とはならず、リッキーの右肩を捉えた。
「あああああががッ!」
言葉にならない声を発しながら、リッキーは後方へと後ずさる。
レオンはそれを逃さず、今度は剣を横薙ぎに振るった。
すると、それは見事リッキーが引き抜いた剣に命中し、クルクルと宙を回りながら飛んでいく。
「やめろレオン! お前を育ててやったのは俺だぞ?」
無防備となったリッキーは左手で鮮血が流れる右肩を押さえながら、レオンがよく知るリッキーデルニカの顔をした。
けれども、レオンの中でリッキーデルニカという虚像はすでに崩れ去っている。故に躊躇うはずもなく、レオンは再び剣を構えた。
「嘘だろレオン? まさか本当に俺を殺す気か? 育ての親を殺したりなんかしないよな?」
その言葉に構わず、レオンはリッキーへと距離を詰める。
「嘘だよなレオン? 十四年も育ててくれた恩人を殺すのか? 優しいお前がそんなことするはずないよな?」
命乞いを続けるリッキーの首筋に、レオンは悠然と剣先を突きつけた。
「アリスはどこだ」
「教えたら見逃してくれるか?」
問いに、レオンは左拳を放った。
「ングッ!」
リッキーは咳き込み、嗚咽を漏らす。
レオンはそれを眺めながら、背後から迫ってきたヘルハウンドの脳天に握る剣を振り下ろした。
血飛沫が上がり、ヘルハウンドは絶命する。
「チッ! 背後からの奇襲も意味がないってわけかよ!」
「いいからさっさと答えろ。アリスはどこだ!」
「さすがは異能力使いだな。身体能力が常人のそれよりも遥かに優れている。だが、ブラック家の異能力は未だその真価はわからないか」
言うと、リッキーはニヤリと卑しい笑みを浮かべる。
レオンはその真意がわからないため不安を抱き、剣を振り上げた。
「……やれ」
――――呟かれた言葉。
それをレオンが理解したとほぼ同時に、振り上げた剣に急激な力が加わった。
レオンは意思に反するその力に抗うことができず、剣を手放した。
それから何事かと思考するも、解はでない。
ならば剣を拾おうと、背後へ飛んで行った剣へと駆けると、今度は脇腹に急激な力が加わった。
レオンはまたもや抗うことができず、地に叩きつけられる。
衝撃に、視界が霞む。
けれども、事象に対する解を得なければ抗いようがない。
レオンはぼやけた視界のまま、目線を上にやる。
すると、
「……そんな、嘘だろ?」
風になびく白髪。見下ろしてくる紫紺の瞳。顔のパーツのどれをとっても、よく見知ったものがそこにはあった。
しかし異なる点が一つ。それは、その顔に微笑みが浮かんでいないということ。
そこには、レオンへ敵意を剥き出しにした、アリスホワイトの姿があった。




