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一章9話 親代わり

 紺色のブレザーとは対照的な鮮やかな赤色のネクタイを整えながら、レオンは前方に建つアカデミーの校舎を見据えた。


「どうされたのですかレオン様? 中に入られないのですか?」


 隣にいるアリスに小首を傾げられ、レオンは苦笑する。


「よくよく考えると、俺ってアカデミーから逃亡したまんまなんだよね。今日も無断欠席したし。どうしよう、見つかったら絶対に怒られる」


「そうだったのですか。逃亡して以来というと、召喚の儀を執り行った昨日ということでしょうか? 私のせいでご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」


「いやいや、アリスは別に悪くないって。それに、基本的にはローザ先生っていう人に見つからなければ大丈夫だから。でも、アリスは制服を着てないからどうしよう」


「それならば簡単ですよ。私は封印剣の中に入りますので」


「いいや、それはダメ」


 レオンはアリスの言葉をすぐさま否定した。


 しかし、アリスは納得がいっていないかのように首をひねる。


「何故なのですか?」


 そう問われたレオンは照れ臭くなり、アリスから視線を外して答える。


「それは、アリスが人間だからだよ」


 レオンが答えると、アリスは驚いたように目を見開いた。


 その反応を横目で捉え、レオンは思わず微笑む。そして、視線をアリスに合わせた。


「もしかしたらアリスはそんなことに意味はないと思うかもしれない。けど、俺はそんな些細なことだからこそこだわりたい。アリスは人間なんだから、封印剣に入る必要なんてない」


 レオンが言い終えると、アリスはレオンに向かって深々と頭を下げた。


「レオン様、ご配慮に感謝いたします」


「いいってそんなの。それに、アリスの存在が公になるのは色々とまずいと思うし。だから悪いけど、アリスはここで待ってて。すぐ帰ってくるから」


「わかりました。それではいってらっしゃいませ、レオン様」


 見送られ、レオンは校庭を抜けてアカデミーの校舎へと向かった。

 授業中の時間帯ということもあってか、人影は見受けられない。足音を立てぬように教室の横の廊下を抜けると、突き当たりの階段を登って二階へ、そして階段正面にある資料室へと入る。


 身長の倍はあるだろうかという背の高い本棚が所狭しと並べられているそこには、古本特有の懐かしい匂いが充満していた。


「どうやって開けよう」


 連なる本棚の最奥、大きな南京錠がぶら下がっている棚を見据え、レオンは嘆息した。

 近づいて戸を引いてみるが、やはり南京錠によって開くことは阻まれる。


「壊すしかないか」


 決定し、なにか壊すのに使えそうなものはないかと辺りを見回したその時、足音が近づいてきていることに気がついた。


 レオンは咄嗟に本棚の裏へと隠れ、足音の主を待つ。


「すまないな、授業中だったのだろう?」


「いえ構いませんよ。大事な御用だということは察しがつきましたし」


 本棚の隙間から覗く声の主、ローザとリッキーを視界にいれてレオンは困惑する。二人の間に接点が存在しているなど、レオンは知らなかった。


「それで? 何かレオンについてお聞きになりたいことなどはありますか?」


「ああ、そうだな。アカデミーでの生活はどうだ? 馴染めているのだろうか?」


 南京錠が付いた棚の前、ちょうどレオンが身を隠す本棚の斜め前方で二人は止まると、声を潜めて会話を続ける。


「他の生徒と比べ、心身的に劣っている部分は見受けられませんよ。とは言え、全てはリッキー様がレオンをしっかりと教育してくださった結果だと思います。王国剣士団剣士長という地位にありながら、孤児であったレオンを育て上げるなんて、並の人間には真似できません。お世辞抜きで尊敬いたします」


「そうか……」


 ローザの脱帽にリッキーは嘆息混じりの返事をした。


 それを不審に思ったのか、ローザは小首を傾げる。


「何かレオンについて心配事でもあるのですか?」


「いや、まあ大丈夫だ」


「そうですか。年頃ということもあり、最近は反抗的な態度も見られます。実際、今日は無断欠席をしておりますし。それに、昨日の召喚獣召喚の儀式においても、問題を起こして逃亡しました。ですが、何はともあれ根がとても優しいのは承知しておりますから」


「だろうな。それで? レオンについての資料はこの棚の中か?」


 話題を切り替えると、リッキーは大きな南京錠がぶら下がる、レオンが壊そうと考えていた棚に向かって顎をしゃくった。


「そうでした、本題はそちらですものね。今鍵をお開けいたします」


 ローザがスカートのポケットを弄って鍵を取り出そうとすると、リッキーは首を横に振る。


「開ける必要はない」


「はい?」


 聞き返すローザにリッキーは答えない。腰のベルトからぶら下がる酒瓶に手を伸ばすと、それを思い切り棚に向かって投げつけた。


 資料室内には古本の匂いを覆い隠すように、酒特有の鼻をつく匂いが広がる。


「あの、これは一体?」


 戸惑ったようにローザは問うが、リッキーはやはり答えない。徐にポケットからジッポを取り出し、火をつける。


「レオンはもう十分に成長した。アカデミーに通う必要はない」


 リッキーはジッポを酒が滴る棚に向けて投げた。当然ながら引火し、一瞬にして棚は炎に包まれる。


「なんてことをなさるのですか! 早く消さないと!」


 ローザは叫び、消化剤を取りに行くためか資料室の外へと駆け出そうとする。

 が、リッキーはそんなローザの右腕を掴むと、首筋に鞘から抜いた剣の刀身をあてがった。


「今朝、レオンが俺にホワイト家がどうのという不可解な質問をしてきた。そんな悪影響の元凶は、おそらくアカデミーだろう。俺の十四年間の苦労を水の泡にする気か? この罪、どう償う?」


「何を言っているのですか! ふざけている場合じゃ!」


「ふざけてる? 貴様の頭の中は花畑か? 状況くらい理解しろ!」


 リッキーは鋭い瞳をさらに細め、鋭利とさえ言える視線をローザに向ける。

 そんなものを受け、ローザは小さく悲鳴を漏らすが、リッキーに構う様子はない。

 呆れたような嘆息を漏らし、あてがっていた刀身をするりと振り払う。


 血飛沫が上がった。


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