プロローグ
お久しぶりです!
こちらは、以前書いていた「異世界で輪廻転生」の大幅リメイク版です。「異世界で輪廻転生」は書いてる最中から話がぶれてしまいどうにもこうにもならず悩み、いろんな方にアドバイスを頂き練り直して一から書き始めました。
待っていてくれた方は大変申し訳ございません。こちらを頑張りますので何卒ご理解をお願いします。
フェルルは今、眼下に広がる景色に唖然としている。美しかった城下はボロボロに壊され、楽しげに笑っていた人々は泣き叫びながら我先にと逃げている。逃げ惑う人たちの足元には無数の死体が転がっている。
「なんだよ、これ……」
つい数時間前まで変わらない毎日だったのに、なんでこんなことになってるんだよっ! なんで街が…… みんながこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……フェルルは城壁から街を見下ろしながらそう思った。力を入れすぎたせいか、気づけば握り締めていた拳から血がぽたぽたと落ちていた。
「見ーつけたっ! キミ、フェルル・シフォンベルク君…だよね? あはぁ、こんな所に居たんだぁ、お城の中探してもいないから街に逃げちゃったのかと思ったよ」
背後から女性の声がする。その声に弾かれるようにバッと後ろを振り返ると……
そこには、元は真っ白であったであろう修道女が着ているような服を真っ赤に染めた女性がニコニコと笑いながら立っていた。その女性は今にも腰に携えた剣を抜こうとしている。
「まぁ、悪く思わないでねぇ。こうなったのもあなたがそんな能力をもって生まれてきたのが悪いんだからね~」
天使のような真っ白な翼を背中から生やしながら悪魔のような笑みを浮かべ彼女は剣を抜き、振り上げた。
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~数年前~
「……? …ェル?」
耳元で優しい声が聞こえる。肩を軽く揺すられ、眠っていた意識が徐々に覚醒していく。うっすらと目を開けると、そこには見覚えのある女の子の顔があった。
「あと…五年…」
「長いよっ!? ほら、変なこと言ってないで早く起きなさい!」
寝ぼけた頭で適当にボケると、当然のかのごとくツッコミという名の拳が男の子の頭に入る。ゴンッ! という音とともにベッドの上でのたうち回るのを。
「いってぇぇぇぇぇ! 何すんだよ!? この暴力女!!」
「ん? なんだって?」
「ひぃ! な、ナンデモナイデス……」
目が笑ってなかったんだけど……どう考えても女がしていい顔じゃないんだけどと言いたげな表情で彼女を見つめる男の子。
「まったく、昔はお姉ちゃん、お姉ちゃんって言ってわたしの後ろをついて来て可愛かったのに……どうして、こんなに生意気に育っちゃったんだろ」
はぁ、と嘆息しながら半眼でこの男の子を睨みつけるのは、この子の育ての親というか姉のような存在であるフィーデル・ハイエルン。明るく人当たりがよく、誰とでも分け隔てなく話せる。美少女と言える顔とスタイルの良さが目立つ十五歳。
だが彼自身は、自分を殴ってくる怖い女だ、こんな姉を嫁にしたいと言ってくる男どもは馬鹿なんじゃないかと本気で思っているとかいないとか。
十二年前、ここ独立国家シフォンベルクの街のはずれにあるこの教会の前に捨てられていた彼を拾ってくれたのが彼女の父親クロイツ・ハイエルン。フィーデルの父親だけあってかなりのイケメンだ。男性の中でも高身長であり優しい顔立ちでいつもなにかしらの本を片手に持っているのが特徴だ。昔は王国の魔道士だったらしく、フィーデルが生まれたのを機に辞めたみたいだ。
「生意気に育ったっていうなら、それはフィー姉の教育が悪かったんじゃない? ほら、一緒に暮らしてるんだからどうしても似てくるじゃん?」
彼がニヤッと笑いながらそう言うと、フィーデルはむすっとした表情で彼の鼻を摘む。
「弟のくせに生意気なんだけど。フェルルの分際でニヤけ面で偉そうにすんな」
「おいこら、バカ姉、フェルルって呼ぶんじゃねえよ。どんなネーミングセンスしてんだよ」
そう言ってフェルルはフィーデルの頬を引っ張る。彼は、なんだよフェルルって思いっきり女みたいな名前じゃねえか、と最近思うようになってきたらしく名前を呼ばれると嫌そうな顔をしている。
傍から見たらじゃれあいにしか見えないであろう姉弟喧嘩をしていると、部屋の扉の方から視線を感じ、フェルルは言い合いを止めて視線のする方に視線を移す。するとそこには、ニコニコと笑いながら立っている神父服姿の男性がいた。フェルルが固まったのに疑問を持ったフィーデルが同じように視線の先を確認すると、ぴきっ、と固まってしまった。
「姉弟仲がいいのは大変喜ばしいことですが……お互いに思春期真っ只中の異性なんですから、もう少し節度ある行動をしてくださいね。特にフィーデルは女の子なんですから、いくら弟であろうと過度な接触は家の中でも出来る限りは控えてくださいね。父としては二人があらぬ関係にならないか心配なのですよ」
いつの間にか来ていた神父服の男性……クロイツにそう言われ、フィーデルはなぜか顔を真っ赤に染めた。そして、フェルルから離れると一瞬で父のもとへと移動した。
「ちょ、パパ! 変なこと言わないでよ! フェルが勘違いするじゃんか!」
「ですがね、父として言わなきゃいけないことだと思いましてね。僕も人の親、娘を送り出すなら見ず知らずの男性よりも実の息子のようなフェルルに送り出したいじゃないですか。フィーデルだって、フェルルと姉弟じゃないと分かったときはボソッと――」
「わーわーわー! ほんと何言ってんの!? てか、フェルも関係ないみたいな顔してないでさっさと着替えなさいよ!」
クロイツに言い負かされたのか、フィーデルはいきなりフェルルを叱りつけてきた。完全な八つ当たりである。フェルルは、何を言われたのか知らないけど父娘喧嘩で負けたからって弟に八つ当たりするのはやめてほしいと思いながらため息をついた。
「なんか、そのやれやれ顔めっちゃムカつくんだけど……」
弟の反応にイラっとしたフィーデルはそう言ったが、フェルルは反応すると後がめんどうだと考えたようでシカトすることに決めたみたいだ。めちゃくちゃ、話聞いてんの? とフィーデルが言ってきてるけど気にしたら負けと思い目線すら合わせないようにしている。
「フィーデルもその辺にしときなさい。フェル、着替えて顔を洗ってきてください。朝の掃除と祈りを済ませたら朝食にしましょう」
クロイツに口を塞がれ唸り声をあげてこちらを睨んでくるフィーデルに恐怖を感じながらもなんとかフェルルは、了解、とだけ短く返事をする。フェルルの返事に頷くとクロイツははフィーデルの首根っこを掴むと彼女を引きずりながら部屋から去っていった。
あの細い体にどんだけ力あるんだよ、とフェルルは引きづられていく姉を見ながらそう思った。
「さて、早く着替えないとフィー姉に怒られるし着替えるか」
そう言って、フェルルは木で出来ている無駄に重いタンスから着替えを出しその場で着替え始めた。服装は動きやすいように半袖のシャツと黒の七分丈ほどのズボンだ。
フェルルは着替え終わると部屋を出て庭に設置してある井戸へと向かう。急いで顔を洗い終えると、二人の待つ礼拝堂へと歩く。走ったりすると、父から尋常じゃないほどのプレッシャーを与えられるのを知っているため、どんなに急いでいても落ち着いて歩く。
「ごめん、お待たせ!」
フェルルは礼拝堂につくと待っていた二人に声をかける。
「いえいえ、あれからそれほど時間も経っていませんし問題ないですよ。そうですよね、フィーデル?」
「う、うん! ぜ、ぜぜぜぜぜぜん、全然、ま、まま待ってないから!!!」
「フィー姉!? なんでそんなに震えてんの!?」
フェルルが礼拝堂に入ると、今まで本を読んでいたであろうクロイツと、その隣で正座をしながらガクガクと震えているフィーデルがいた。
「さて、それでは掃除に入りましょうかね。フェル、フィーデルも雑巾と箒を持ってください」
「いやいやいや!? その前にフィー姉が壊れてるんだけど!?」
「こらこら、フェル? お姉ちゃんにそんなこと言っちゃいけないな。フィーデルはいつも通りじゃないか」
「は? あれのどこがいつも通り……はあぁぁぁぁぁ!!」
いつもと変わらずニコニコと笑っているクロイツに対して少し怒鳴るようにそう言い、礼拝堂に入ってからずっとひどい有様だった姉を指さそうと見る。
するとそこには、いつの間にか立って窓を拭いているフィーデルが居た。
「何やってるのよ、フェル。サボってないで早く掃除しなさい」
「いやいや、さっきまで震えてたじゃん!」
「……? 何を言っているのかわからないわ」
「なにこれ、めっちゃ怖いんだけど……ま、まあいいか、気にせず掃除に入ろう! うん、そうしよう。何もなかった、何もなかったんだ……」
フェルルは小声でそう呟くと、さっきまで見たことをなかったかのように振舞うことに決めた。平和が一番! 彼はそう思い、箒を手に取ると掃除を始めた。
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