最底辺クラスの俺が実は最強の神童な件に誰も気づいていない件
俺のDクラスから三つ隣ということはAクラスだな。Aなだけあって優秀な生徒ばかりが集まっている。どいつもこいつも自信に満ちていて眩しく感じた。
ちなみにこの学校は生徒を成績順にA B C Dと振り分けている、とのことだがそれがおかしいことに俺は気づいている。なぜなら俺がDクラスだからだ。
何か陰謀があるに違いないぜ。
ところでAクラスにもソフィアの姿が見当たらないな。
とりあえず窓際にいる活発そうな女の子……いややっぱり前の席の黒髪少女に聞いてみよう。あっちはなんか友達とお喋りに夢中そうだからね。
「なあちょっといいか?」
「なんですか?」
こちらを振り返ったその子はやはり、想像通り美少女だった。こっちで正解だったぜ。95点!
「ソフィアって名前の女の子知らないか? このクラスだと思うんだが」
「ソフィアさんでしたら、実家に帰っていて暫くは戻って来ませんよ」
淀みなくスラスラと説明してくれる。透き通るような綺麗な声だな。
いやそれよりも――
「ソフィアいないの?」
「はい」
そっか。俺何しに学校来たんだろう。もう帰ろうかな。
そんな事を思っていると、黒髪美少女が俺をじっと見ていることに気づいた。
「……」
俺の様子を伺うような、何かを待っているようなそんな……
ところでこの子、首輪着けてるな。可愛いけど、変わっているよな。
「……」
「……」
見つめあう俺と美少女。
なんだろう、新しい恋が始まるのかな。いや全然そんな感じじゃないや。
「あの、ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい」
そう言って彼女は前を向いた。独特の間合いだな。
それから彼女がこちらを向くこともなく、俺も用は済んだし、もう行くか。
しかし俺を呼び止める奴がいた。
「ねえアンタ」
後ろの席で騒いでた奴で、確か最近流行りのギャルとかいうのだ。
その姿を見た瞬間、衝撃を受けた。
なぜなら胸元は開いているし、スカートは短くてパンツが見えそうだからだ。
嘘だろ、何の面白味もない地味な制服が、あれじゃあまるで男を誘う勝負服のようじゃないか。
上着を腰に巻いているのとかまじグッド。
顔も……なかなか美人だ。80点。
「なんだ?」
「ソイツと何話してたの?」
そう言うギャルはニヤニヤ笑っていた。
やっぱ75点くらいだわ。
「つうかみない顔だけどぉ、コイツだれぇ?」
甘ったるい声でギャルその2が言う。75点、喋り方がウザいのがマイナスポイントだ。
「多分ソイツDクラスだよ」
机に頬杖をつき単語帳をパラパラとやりながら、チラリとこちらをみるギャルその3。
他の二人と違い俺に興味はないみたいだ。そして他の二人と違い大人びて見えるな85点。否、短いスカートから覗く太ももがエロいぜ90点だ。
「ああ、俺はDクラスだけど」
三人とも俺より年上に見えるな。体つきからしてふむ16といったところだろう。
ちなみに学校の入学規定に年齢制限はない。上限も、下限もだ。
「ふーん、やっぱ見たことないわ」
「なんか地味な顔だしぃ、忘れたのかもぉ」
「あはは、ウケる~」
ウケねえよ。なんだよこいつら。
「ってかさ、君がネルト君でしょ」
その3は俺の事を知っているみたいだな。
そうか知られてしまったか。入学式以来一度も姿を現していない謎の生徒。Dクラスでありながら王宮選抜の特待生。その正体が神童と呼ばれた俺であると。
「ユリア、コイツ知ってんの?」
「結構有名だよ」
そっかあ、俺有名なのか。困ったなあ、そんなつもり無いのになあ。
「どういうことぉ、教えてぇ」
知られてしまったのなら仕方ないなぜ。
その3改めユリアさん、教えてやって下さい。俺が噂の神童――
「その子、引きこもりだよ。入学式から来てないらしい」
……うん?
「えっ、ちが……」
「はは、ウケる~」
「あぁそういえばぁ、私も聞いたことあるぅ。オマエがあの引きこもりなんだぁ」
その1その2が爆笑していた。笑ってんじゃねえ。
糞、使えねえなユリア。やっぱギャルその3で充分だわ。
つうかクラスメイトとか皆俺が引きこもりだと思ってたの?
「あの俺特待生で王宮に呼ばれてて」
「んな訳ないじゃん、アンタDクラスでしょ」
……。まあそうだよね、普通はそう思うよね。
「えっとホラ、俺神童って言われてる」
「聞いたことないよ」
あっ聞いたことないんですか、そうですか。
まあでもフルネーム言ったら分かるよね。アルバトロスってなんかすごい貴族だし。
「ネルト・アルバトロスって、本当に知りません?」
「ネルトとか聞いたことないしぃ」
聞いたことないらしいおかしいな。
「ていうかぁアルバトロスって、あのアルバトロスじゃないよねぇ?」
「それはないわ~。だってどう見てもアラン様やフランシス様と比べて顔の造形に差がありすぎるでしょ」
うるせえよ、それは俺が一番不思議に思ってたんだよ。
あとあれだ、見る角度が悪いんだ。三人娘がななめ45度から俺の顔を見れるようにずらしてやる。どうだ。
「何それ、ちょっとアンタ面白すぎ~」
ハイハイ面白いですね。
「ところでアンタさ、アイツに何話しかけてたのよ」
ひとしきり笑ったあと、その一はそんなことを聞いてきた。アイツとはあの黒髪美少女のことだ。そういえばさっきもそんなことを言っていたな。
「別にちょっと聞きたいことがあっただけです」
いつのまにか俺は敬語になっていた。母様の本の通り、ギャルには用心すべきだったのだ。完全に心が折られたわ。
「それにしては鼻の下が伸びてた気がするね」
黙ってろその3、単語帳でも見てろよ。
「オマエさぁ、惚れたんでしょぉ?」
「首輪見てたけど散歩プレイがしたいんだね」
その2は喋り方がイライラするな。イライラするんだが、何故か背筋がゾクゾクしてしかも悪い気分ではない。衆目の前で惚れただの好き勝手言われているというのに、どうしたんだ俺。多分あの嗜虐的な目がいけない。
もう一人は無視しよう。
「まあお洒落で普通にかわいいと思います」
いや首輪がね。
あっ、95点の子が振り返ってこっちを見た。また目があったぞ。やっぱすごい美少女だ。
そして再び見つめあう。
瞳は赤いんだなあ。睫毛長いなあ。そんなことを考えていると。
「でもアイツ既に相手がいるんだよね」
その1がそんなことを言った。
ふーんそうなんだ。美人だしいてもおかしくないよね。だからそれが何って感じだ。
「残念そうだねぇ。まあ元気出せよぉ」
なんで慰められてんだよ。別に傷付いてねえよ。
「ヤリまくりらしいよ。ナニとは言わないけどね」
コイツは余計なことしか言わないな。最悪だ。そういうのを聞かされるとさ、なんかこう気分悪くなるだろ。
「ユリア下品よ」
「お前反応が童貞すぎぃ」
「いや勝手に決めつけんなよまあでもまだ13だし例えそうでも別におかしくないし……つうかさ、やめろよそういうの」
「んん? 何オマエ、マジになってんのぉ?」
「ちょっとからかいすぎたかな」
別にからかわれるのはいい。むしろご褒美だな。
こいつらは俺をからかって楽しんでいる。俺はからかわれて愉しんでいる。こういうのをウィンウィンの関係というらしい。
意外に俺はギャルとの相性がいいのかもしれない。
しかしだ――
「あの子の事は言っちゃ駄目だろ」
こっちの声は聞こえているはずなのに、彼女は反応しない。後ろ姿しか見えないから何を考えているのか分からない。
ただ一つ言えるのは彼女の姿勢が綺麗だということだけだ。淑女のお手本ともいえるその姿は俺が来たときから微動だにせず、まるで彫刻のようだ。
「ふーん……」
ギャル共はしばらくこちらを見定めるようにして。
「分かった。お詫びに一ついいことを教えてあげる」
そんなことを言った。




