未来を見据えて
「いや違うんだソフィア。あれはフラン姉が震えていてだな」
俺は幼馴染みのソフィアを客間に招いて、必死に誤解を解いていた。
「でもネルト、イヤらしい顔してた」
よく見ていらっしゃる。
使用人達は笑いを堪えている。
「き、気のせいだろ……」
なんかこの状況見たことあるな。
あれだ母様が愛読していた恋愛小説だ。
たしか修羅場とかいって、対応をミスった主人公はヒロインに殺されてたな。
どこが恋愛小説だよ。ホラーの間違いだろ。
「まあ別に、私にはネルトが誰と何をしてても関係ないけど」
ソフィアが拗ねている。
『ソフィアちゃん大事にしろよ。その顔を好きになってくれる娘はそういないぞ』とアラン兄さんが言ってたな。
余計なお世話だが、そう思う。
俺はソフィアの透き通るような水色の髪に手をのせる。
振り払われない。
「あー、その俺、ソフィアのことがす――」
「でもネルトはアイリス様と結婚するんでしょ。私じゃなくて」
そう言うソフィアの目は暗かった。あまりに暗すぎて闇の深淵を覗いているようだった。やべえ、普通に恐いわ。
俺の脳裏に恋愛小説の主人公の、あの悲惨な末路が浮かんだ。
「それは……」
しかしこんなときの為に俺は準備していたのだ。
ソフィアの耳元でそっと囁く。
「大丈夫だよソフィア。俺はソフィアとも結婚する。それで必ず二人とも幸せにするから」
「ホントに?」
「うん」
まああと四、五人増えるかもしれないけどね、もしかしたら十人くらい?
「私のこと、好き?」
結局ソフィアはこれが一番聞きたかったのだろう。
俺は本心から答える。
「ああ大好きだ」
「嬉しい!」
この国は普通に一夫多妻つまりハーレムが作れる。親父も母様以外に妻が何人かいる。しかも全員が母様と同じくらいの美人。
それを知ったときはマジで親父をぶっ殺そうかと思ったが、母様も特に気にしてないしむしろ奥さん同士の仲は良いくらいだし、俺もハーレム作れるじゃんと気づいて俺は溜飲を下げた。
むしろ尊敬した。こいつは俺の目指すべき道の先に立っていると。
それから俺はソフィアにハーレムは普通だよ~、おかしくないよ~と教えてきた。
俺は常に未来を見据える男なのだ。
「よかった~、私アイリス様も好きだし」
アイリス様っていうのはこの国の王女だ。確か第五か第六くらいの王女だったはず。年は俺やソフィアと同じく九歳で、ついこの前俺との婚約が決まった。王女様が婚約者とか俺やばいな。
でも王女様ってハーレム許してくれるのかな。心配になってきた。
まだ会ったことすらないんだよな。
「ネルトネルト、いつもみたいに遊びましょう!」
「そうだな、なにして遊ぶ?」
ソフィアははしゃいでいる。よっぽど俺と結婚するのが嬉しいみたいだ。はやく結婚してえな。こんな可愛い娘とアレをアレできるとか最高だろ。少しずつそういう知識を教えていってぐふふ。
「おままごと! 私がお嫁さんでネルトがお婿さん!」
その光景を使用人達が微笑ましげに眺めている。俺も微笑ましくなった。こんな純粋な娘を汚すとかありえねえよ。誰だよ性知識を教えようとかしたやつ。
「あとお馬さんごっこもしたいな~」
お馬さんごっこねうん別に普通の遊びだようん。
「それと、ぬるぬるのローション?を使ったのも――」
「ソフィア! さあはやく部屋へ行こう。『いつも通り』普通のおままごとをしようじゃないか!」
これ以上ソフィアに喋らせては危険だ。俺はソフィアの手をとって自室に向かった。
こうして女神様と出会った俺の一日は過ぎていった。
ホント濃すぎだろ。




