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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
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車内座席占有計画

「稽古場には五人ばかり残して、万一知っている人と会ってもわからないように、めいめいが変装してばらばらに出てゆきました。二十人ばかりが始発の新木場駅から先頭車両に乗りました。中央を厚く端を薄目にぽつんぽつんと座席を占めたんです。おかしなもので後から乗ってくる人はひとつくらい空いていても、もっと広く空いているところがあれば必ずそっちに座るんです。ですから、辰巳、豊洲あたりではほとんど先頭車両には乗ってきません。まだうしろの車両が空いてますからね。乗って来るのはすぐに下りる人だけです。月島あたりからは少しずつ他のメンバーが乗ってきて先手先手で隙間を埋めてゆきました。ホームの停車位置にさりげなく固まって待ってますと、乗客は自然と他の扉の方にまわるんです。銀座一丁目もそうです。そして有楽町で鎌田先生が乗り込んできたときは、そこはもうわれわれの仲間が座席も吊革もすっかり占領していました」

「酔ったようなサラリーマンというのも団員の方ですね」

「はい。そうです」

「酒の匂いも、人相の悪そうな男を扉付近に張りつけたのもそうですか」

「そうです」

 机を隔てて立花と秦が向かい合い、うしろの机には有田が座って記録をとっている。

「第四金曜日は鎌田さんの乗る電車も車両も決まっていた。そうですね」

「はい。判で押したようにそうなのだと座長がいってました。外れたときの為に、偶然に駅で出会ったように装って元にもどす役も決めてました。鎌田先生が入って来ると中の団員がさりげなく移動して先生を中央の座席に座るようにしました。あとはご承知のとおりです」

「計画どおりにうまくいくものなんですか」

「うまくいかないときは中止します。でもあまり重なっては稽古に支障が出ますから二回まで、それでだめなら白紙にもどす、そういう約束でした」

「そうでしたか」

「座長の出は有楽町駅をでてかっきり一分たったところと決めてました。軌道のカーブの騒音が一段と大きくなるところがあるんですが、その前からかたまりの縁に位置した連中には、大声で話をさせました。鎌田先生がなにか声を出してもわからないようにです。でも座長が棚の上の鞄を鎌田先生の頭に叩きつけた時には本当にびっくりしました。約束では、死んだ妹さんと同じ思いをさせてやりたいから力を貸して欲しい。それが済んだら弁護士会に彼を告発する。みんなには決して迷惑はかけない、そういってわれわれを口説いたのですから」

「立花さん。あなたの役目はなんですか」

「永田町から銀座一丁目で乗り換えて和光市行きの先頭車両に乗りました。かたまりの近くに他の乗客がくっついていたら、さりげない方法で縁から外すことでした」

「立花さんひとりじゃありませんね。このリストを見て一緒のメンバーを言ってください」


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