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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
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踏切事件

 千崎がコップをおいてふたりに顔を近づけた。

「これまで誰にもいわへんかったのやが、恵比寿、本橋ゼミにこんな噂があるんや。聞いたことあらへんか」

「どんなです」

「学校の駅でだ」

「大岡山のですか」

「そうだ。まだ地下に潜らない時の話だ。駅舎とホームの間の踏切でどえらい事故があった」

 千崎がまたひと口煽るのを、恵比寿と筒井は塩辛を噛みながら待った。


「遮断機の前で待っていた乗客がうしろから押されて、丁度入ってきた電車につっこんでしもうた。ふたり即死、ひとり重傷。首なし死体が線路脇に投げ出されホームに首が転がり、居合わせた三人だか四人だかがばったりと失神」

 塩辛を噛んでいたふたりの口が止まった。千崎は酔いが回ってきてる。

「伊能さんが修士課程の二年のときやった。俺は学部の四年だな。ということは恵比寿は二年かな」

「僕は高三で、受験勉強の真っ最中」

 筒井が呟いた。

「それが主任となんか関係があるんですか」

 うん。千崎はうなずくとまたコップを煽った。

「事故の原因は、通過を待っている人混みの中で誰かがふざけ合ってよろけて前にのめり、それが押し圧力になってドミノ倒し、一番前にいた人間たちが犠牲になってしもうた、ということになったんや。・・・が」

「ええ? まさか、その誰かって」

 恵比寿は眼鏡越しの目を剥いた。

「ちゃうちゃう」

 千崎は手をひらひらさせた。

「な、わけないやろが」

 そうですよね。恵比寿は苦笑いをした。

 人混みの中でふざけ合うなどという情景とは対極にいるのが伊能主任である。

「が・・・踏切の一番前に背の高い人がいたんやって。ふつうなら一番先に踏切につっこんでしまう位置やな。ところがその瞬間にその男は横にすっと動いた・・・」

「えっ、それが主任ですか・・・かわしたということ・・・」

 千崎は曖昧に首を振ると新しいコップをまた口に運んだ。

「それがな、かわしたというのやなく偶然そうなったというのが、居合わせたすべての目撃者の証言でやね。警察もその人をとくに追求せえへんかった、というんや」

「へええ。運が良かったということですか」

「という噂をやな。俺が修士で入った本橋ゼミで聞いた。恵比寿はゼミがちがうから聞いてないのかもな」

「ええ、初耳です」


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