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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
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ゴルファーと犬

「よし。少なくとも公演はやる気だ。そうなると次はいよいよ動機だな。なぜ集団殺人を犯すに至ったか。脅し、共通の利益、鉄の掟、買収、カルト、同情を惹いて巻き込む・・・」

「どの道そういう演技ならオハコでしょう」

「よし。標的をはっきりとアルテナと山崎に定め、もう一度洗い直そう。しかし、難しいな。マスコミがああも先走っていては」

 佐野がそういい眉間に皺を寄せた。

「そうですね。それに山崎が主犯かどうかもまだはっきりしてませんしね。つつき方には余程慎重にやらんと・・・参事官。ここは煙幕を張りましょう。マル被がでたようにマスコミにリークするというのはどうです」

「やむを得ないな。それいこう。これは近藤さんだな。いうまでもないですが実在の関係者に偶然にでもヒットしないように、森下とのデータベースともすり合わせてください」

「わかってますよ。まかせて下さい」

 近藤はすぐに部屋を出ていった。どのルートを使ってどうするかはマルヒ中のマルヒなのだろう。


「それからアルテナの捜査は極秘とする。悪いが本部の中でも伏せておく。ここにいるメンバー以外に五人だけ加える。その五人も一課長に連絡をしてメンが割れてない者を他の係から回してもらう。榊、ポスターを見てくれ。初日はいつだったかな」

 榊が急いでポスターのところに寄った。

「あさってです。日曜日、午後二時開演です」

「近いな。アルテナの集団犯行なら全員がぴりぴりしているはずだ。聞き込みには慎重が上にも慎重を期さねばならん。榊は残念ながらここで待機だ。メンが割れている恐れが無きにしも非ずだ。その代わり踏み込む時には先陣を切らせてやる」

「あ」

 有田がびっくりするような大声をだし、ぱちんと手を合わせるとポスターの前に駆け寄った。

「これ、これ、このゴルファーと犬」

 有田はこつこつとそこを叩いて悔しがった。

「参事官、実はですね。今年の夏でしたか世田谷東署に行ったときに若いやつからこんなことを聞いていたんです」


 有田はその一件を披露しながら、盛んに悔いた。それを話してくれた若い刑事も、自分も天下りに大きな非難があったT氏への怨恨ややっかみなどの生臭い方面にばかり頭が行き、プロの演劇集団の〈遊び〉などはまるでお呼びではなかった。自分の迂闊さもさることながら、例えば秦の耳にでも入れておけばどうだったろう。今とはちがった結果になったのではないか。



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