目撃証言②
[証言4](女性。駅員への第一通報者、三十二才、渋谷のデパート勤務)。
会社から志木市の自宅に帰るところでした。半蔵門線から有楽町線への乗り換えです。いつも今頃の時刻です。ホームに立っていた場所はいつも大体そうなんですが、先頭車両の前から二番目の扉あたりです。混んでいるのですが降りる人も多いので結構座れることも多いんです。それでも一番前の扉ですと、今度は降りる方が多くて乗るのが遅くなります。それで二番目か三番目あたりの扉の前で待つんです。そこからおりた人たちの様子ですか? いつもと変わりがありませんでしたね。それが、今にして思えば不思議ですね。私の推測をいっていいですか。ですから、その方は亡くなっていたとしても初めは居眠りをしているようにまっすぐに座席に座っていたのではないでしょうか。私が見たときは横に倒れておりましたけども。亡くなった方のベンチにはもう誰も座ってませんでした。悲鳴をあげたのは私が最初のようですが、確かかといわれれば自信がありません。でも、最初に発見したのは他の人のはずです。遠巻きに周りを囲むようにして十数人の人が立っておりましたから。その光景は目に入ったのですが、座れると思った嬉しさにその異常さには初めは気がつきませんでした。ちょっと離れたところに腰をおろしかけてやっと気がついたのです。鞄ですか? ええ、下に落ちてましたね。その他には、周りや網棚には荷物は無かったと思いますが自信はありません。おそるおそる、人垣の隙間から倒れていた方の顔を覗いてみてびっくりしました。鼻血が出てました。顔色も髪の乱れもどうしたって普通じゃありません。もう頭の中が真っ白になって、きゃあとか大きな悲鳴をあげたとおもいます。思い切り走ってホームに飛び出し、そこにいた駅員さんに、だれかが死んでますとか倒れてますとか、たしかそういったと思います。
・質問(篠原)周囲にいた人の中になにか気がついたことはありませんか。つまり異常に興奮していたとか。挙動がそわそわしていたとか、何かを口走っていたとかですが。
いえ。みんなしんとしてました。
[証言5](男性、会社員。三十八才)。
江東区枝川の会社から三軒茶屋の自宅まで帰る途中でした。永田町で半蔵門線に乗り換えますのでたいていは先頭車両です。豊洲の駅前で同僚と軽く一杯やりましてこういう時刻になりました。豊洲駅では一番運転室に近いところに座れました。あの時刻なら、あそこではたいていは座れます。殺された方がそのとき居たかどうかは記憶にありませんが、あのあたりの座席はもう塞がっていたと思います。いつものとおり月島、新富町と少しずつ混んできて、有楽町についた時はもう吊革も空いてない状態だったです。亡くなった方のあたりは私の位置からは見ようとしてもみえなかったと思います。物音ですか? なんだか重い者が落ちるような鈍い音を聞いたような気もするんですが、電車が発する音のようでもあり、自信はありません。
・質問(篠原)それはどこいらで聞いたのですか?
それもはっきりとはわかりませんが、有楽町を出たあとではないかと思います。声ですか。普通の話を交わしている声はあったような気がしますが、ざわざわとですね。特に事件を思わせるようなものはなにも。事件を知らされたのは降りてからです。ホームを歩いてエスカレータの前に来たとき、女性の悲鳴が聞こえました。
[証言6](男性、二十五才、交通会館内の喫茶店員)。
私は銀座一丁目から乗りました。成増の自宅に帰る予定でした。あそこから一番口でおりるとホームの前の方に着くんです。すぐに電車が来ましたので一両目に急いで乗りました。思ったよりは混んでましたが、いつもと比べてですか? どうでしょうね。普通は真ん中あたりの車両に乗りますから。私は運手室の壁にもたれるように立ってました。中吊り広告を見るために後ろの方に視線を向けてましたが、吊り革は皆埋まってましたし、その間にも人が立ってましたから奥の方は見通せません。異常な気配には気がつきませんでした。物が落ちるような音ですか。ちょっと覚えてませんね。電車の騒音が結構うるさいですし、そばで酔ったサラリーマン風の人が二、三人で盛んに大きな声でなにかしゃべってましたしね。永田町では随分おりました。空いている座席がみえたので座ろうと真ん中の方に歩いていったんですが、席が空いているのにみんなが立ったままで同じ箇所を見てるんです。なんだろう、だれか急病人でも出たのかと思ったとたんに悲鳴です。びっくりしました。




