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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
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プロローグ

              

 全知全能のと口にする時、その人は全をどう思い巡らすか。

 質問を変えてみよう。もし全知全能の者に会えたら、何を問うてみたいか。

 人によって様々だろうが、試験の問題を、などという人はいると思う。入学であれ資格であれ受験生にとってそれは夢にまでみるほど切実なものだから。いっそのこと解答を教えてくれといった方がいいかもしれない。

 試験や資格などを抜いて、

「十億円の当たり籤は何番でどこの売り場で買えるか」

 と聞く人は、気が利いているとは思いたくないのだが、実際は多そうである。

 一方、「来年の今頃、私はどこでどうしているでしょう」

 と聞く人は、これは案外少ないような気がする。

「どうかなあ...」などと考え込まれたら怖い。

 しかし、そういう自己利益直結式の質問だけではないだろう。

 世の中には多くの真理の探求者がいる。科学者や哲学者などがそうだが、巷間、市井にも多く存在するのではないか。

 ただ、そういう人たちは概して頭が良いからその副産物として懐疑的な傾向がある。まず、「本当に知ってるんだろうね」と何度も訊ねるにちがいない。人によってはその担保まで求めるかもしれない。

 数学者や物理学者なら〈宇宙と時空の真相〉を聞きたいという人が多いと思う。宇宙にはハテがあるのかとか、ビッグバンは本当にあったのかとか、ソノマエはどうだったのかなどだ。

 しかし、全知全能の者は、もし親切であればだが先ずこういうのだろう。

「教えてもいいが、あんたの脳が豆腐のようになっても責任はもたないよ」と。

 こういわれれば怖気づいて引き下がる人も多いだろう。

 しかし、「かまいませんとも」と敢然と立ち向かう人も少なくはあるまい。分かったという気がするだけでもいいのだ。その為なら脳が油揚げになってもいい。

 生物学者や医学者なら、〈生命の誕生と老化と死の謎〉を聞きたいという人が多いだろう。無論これもまた、「教えてもいいが・・・」という親切が先ず示される。そこで恐る恐る、

「あのう、わたしが理解できますでしょうか。脳がオカラになる前に」と聞く。すると全知全能の者はこういうね。

「Final Question?」

 そこで、(なんだ、ケチじゃないか)などととは思ってはいけない。即座に「Final Question」と答えましょう。

 もし、「不可なり」という返事がもらえれば、(われわれはまだまだ勉強が足りないのだなあ)とか(見当違いの方向にいっているのだ。別の角度を探してみよう)などと、謙虚に受け止め発奮すればいいのだし、「可なり」という答えを得れば、(われわれの研究は前進方向に進んでいる)と勇気凛々となるはずである。

 こんなあんなと夢想を続ければ、これだけでまず一週間は退屈せずに過ごせる。

 そこで本編はあっというまに紙数が尽きてしまい、万事にとりとめのない筆者などはタイトルがなんだったかさえも忘れてしまう。それほど、ことは限りがない。

 だが、所詮人の考える全というのはその程度のことだ。本当にそれがわかった瞬間に、それは全などにはほど遠い隅っこにあるひとつの話柄でしかないことを知ることになる。そんな気がしてならない。

 それであれば、「人はなぜ罪を犯すのか」「人はなぜ人を恋うるのか」という極く手近なところの質問は悪くないだろう。いや本当に悪くない。ただやはり、

「分かり易く教えてくださいね」とはつけ加えたい。


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