第2話 神様だろあんた……。
なんだこのジイさん。
もったいつけてタメたと思ったら、「ーーお主は死んだのじゃ」だぜ?
そんなのここにきてから十分あった時間で解決してしまったぞ?
「ありゃ?なんじゃもう気づいておったのか。状況理解が早いのか遅いのか、ようわからん奴じゃの」
ん?どういうことだ?
ここにきてからそんなに時間は経っていないってことか?
結構経ってる気がするんだが。
「主がここにきたのは長くても数十分ほどじゃろうな」
ほうほう。ならば、確かに大して時間はかかっていないわけか。
ま、こんな真っ白な空間じゃあ時間の概念もわからなくなってくるわな。
しゃーない、しゃーない。
「ふむ、真っ白な空間。なるほどの。まぁそこまでのレベルではなさそうじゃな」
あ?何のことだジイさん?
いや、そろそろそれも含めていろいろ説明が欲しいんだけど?
「あぁ、そうじゃったそうじゃった。わしはそれを話しにきたんじゃった。
というかお主、随分と順応が早いのぅ。もう口で話す気すらないようじゃし。」
いやぁ、考えるだけで伝わるんだし、わざわざ口に出す必要もないかな、と。
あと、口でも話すとなんか色々こんがらがりそうだし、いろいろ、な。
「ふむ、一理あるの。確かに、このままの方が伝わりやすいかもしれんな」
でしょでしょ?
俺あったま良い〜。
「今は、馬鹿みたいじゃがな」
うっ。
ま、まあそれも愛嬌ってことで。
切り替え切り替え。
あと、早く説明プリーズ。
「よしきた。まあ、簡単に言うとじゃな。
お主は死んだから、これから、死後どうしたいかを決めてもらうわけじゃ。」
ふむ、つまりは、最近はやりの異世界転生のチャンスが俺にも巡ってきたということだな?
「うむ、そういう道もありじゃな。」
他にもあるのか?つーか死者に全員こんなことをやってるわけか?面倒じゃない?
一体、一日に地球で何人の人が死んでると思ってんの?そこらへんはどうなのよ?
「ふむ、正確に言うならば地球だけであっても、もちろん人間以外の全生物の魂も管理せねばならんからの。単純に数だけで膨大なのじゃが」
なら、なおのこと俺にこんなにかまってていいの?
めっちゃ邪魔してない?大丈夫?
「一言で言えば、大丈夫じゃ。大体の魂はまとめて処理され、少し複雑な強めの魂に関しても死魂管理センターの受付で処理しておるからのぅ。今のところはうまく回っておるよ。死する者が多い時期などはなかなか、忙しいがの」
なるほど。死者が多い時期ってのは、戦争とか?
「それもあるが、地球で言うところの氷河期などの境い目などの時とかもじゃの」
はぁ〜、結構壮大な話なんだな。
で、考えるにここは死魂管理センターってことなのか?ならジイさんは受付ってことか?
受付なら、なおのこと美少女とか美女がやるべきじゃないの?
百歩譲って、最近とかはむっさいおっさんとかがあるんじゃない?
まあ、これはギルド的なものの話だけどさ?
それでも、髭を腰まで蓄えたジイさんではないんじゃね?
「うむ、じゃからここは死魂管理センターでもないんじゃよ。」
え?じゃあここはどこだって言うんだ?さっきまでの話と違くない?
何?俺だけ特別扱いなわけですか?
「まあ、特別といえば特別じゃの」
え、マジ?俺ってばやっぱり他とは違う特別な存在だったんだな!やったー!神様が言うんだもんな!
とかいってはしゃぐと思いますか?この俺が?
あんなわかりやすい様に、あからさまな含みがあるのに?
これはあれだ、経験あるよ。
試験問題とかプリントとか、先生が一人一人に配ったのに俺のやつだけ印刷ミスだったのかどうだったのかわからんが、白紙だった時のあれだ。
「うっ。まあ、あれじゃよ?お主の魂だけ他のとは違くてな?なんか、こう、の?あれじゃよ?」
簡単に言えば、あれだろ?
ミスったんだろ?
miss、しちゃったんだろ?
You、はっきりしちゃいなよ?
ジイさんのどもりとか焦りなんて字面で見れば可愛いかもだが、実際見たら結構ヒドイもんだぜ?
「う、うむ。ゴホンゴホン。まあ、はっきり言えば。死者の魂を集めておく『集魂籠』から、まとめて処理できる『軽魂』と少し手間がかかる『並魂』、結構な手間が必要な『重魂』に分けるんじゃが、お主の魂は『集魂籠』の底の方に残っておったという訳じゃの」
ふむ、単語の意味はよくわからんが。そこはかとなーく、洗濯カゴの底に挟まってて洗い忘れてしまった片方だけの靴下感があるな。
「まあ、その認識で構わんと思うぞぃ?」
要するに、なんか処理し忘れたし、一つだけだし、手洗いで良いか。みたいな感じで、個別にジイさんが対応してくれてるってことか?
「うむ、そのとおりじゃの。じゃから、この別室まで連れてきたわけじゃ。」
なんだ、じゃあそういうことも予想して別室があるのか。
「いや、確かにさっき分けた『軽魂』『並魂』『重魂』の他にもう一つ『徳魂』という、生の間に徳を多く積んだ者や、神に気に入られた者用の『徳魂室』という場所もあるにはあるんじゃが、今は使っておっての。取れなかったんじゃ」
あり?じゃあここはどこなんだ?
「わしの私室の中の第3休憩室じゃの」
…………。
「…………」
なーんか、色々ツッコミたい場所だな。
特に……
あんたの休憩室三つもあるのかよ!
絶対いらねぇだろ!つーか絶対使ってないだろ!
「ツッコむとこはそこなんじゃな。まあ、言いたいことはわかるがの?ここは知り合いに作ってもらった部屋での?なんか色々盛り込んだ部屋らしいんじゃが。落ち着かなくての。
まあ、たしかにほとんど使ってはおらんのじゃがな」
だと思ったよ!
ってか話が逸れたよ!
逸れまくりだよ!
最初に質問して逸らしたのは俺だけど!
俺の今後の話から随分と曲がりくねったよ!
この先に行っても幾つもの小さな光なんて待ってくれてなさそうだし!
まあ、結構ためになる話は聞けたけどさ。
俺も安易に質問するのは我慢するわ。
マジごめんな、諸君。
「うむ、では話を戻そうかの」
よしきた。
「死後、選択できる道は人それぞれで異なるんじゃが、主に、『転生』『天国』『地獄』『就職』『無』とかがあるかの。
『転生』はその名の通り、魂を肉体と結んで普通に生まれ変わることが主じゃの。まあ、肉体を再生させて別世界に〜とか、赤ん坊になって〜とか、色々あるがの。
次に『天国』。これはまあ、お主らの考えるところの楽園的な場所じゃの。そこで満足すれば、意識が消えていって、綺麗な魂となるわけじゃ。あとは、まあ『転生』と同じ様にかの。
『地獄』に関しても、お主らの考えるものでそう変わりはしないの。まあ、想像以上に辛いこともあるじゃろうが、ものによっては地獄以上に辛い世界もあるからなんとも言えんが。
『就職』は、あれじゃ。神界や天界、魔界その他もろもろの世界で管理者側として働くということじゃの。地球人は選ぶ者もままおるの。どこでもそう変わらんが、基本的には神や先輩天者のパシリとかかの。
最後に『無』じゃが、これは魂が限界を迎えたためや、強者の怒りを買った者が魂ごと無に帰されるわけじゃな。その後は普通に世界に循環して、また魂やエネルギーになったりとか、まぁなんか難しいことになるわけじゃ。
大体こんなものじゃの。何かあるかの?」
いや、まあ、概要はわかったよ?
わかんないことは今聞いても理解できないから、気になったら自分で考えてみるかまた聞くわ。
つまり、今から俺はその中のうちのどれかを選べば良いのか?
迷いそうだな。
「なに、そんなに急かさんよ。」
そう言ってジイさん、はおもむろに白い空間の中から何かを取り出す。
「ほれ、大体のことはここに書いてある。」
目の前に置かれたのは、「本」、「PC」、「タブレット」、「ノート」「筆記具ケース」
「それらは、お主が『本』と思ったのは『死後の手引き』。『PC』、『タブレット』『ノート』『筆記具』に関しては、そのままじゃ。
つまり、その手引きでどうするか考えて、わからないところはパソコンで調べて、タブレットを開くと出てくる画面に希望事項を打ち込んだら完了じゃ。
『ノート』『筆記具』も使いたければじゃな。
それをわしに渡せば、わしが処理するからのぅ」
おぅふ。めちゃくちゃ先進的だな、これは地球人が作ったってことか?
「まあ、地球人が作った者もあれば、もっと進んだ世界の者が作ったところもある。まあ、大体はその死者の文明レベルに合わせてわかりやすい様に手続きがされているわけじゃ」
なるほど、すごい親切だな。こういう外にホワイトなとこは中がブラックなのか気になるところだ。
「その辺は、その者次第じゃろ?受け止め方や、やりがい、ガス抜きの巧さによって大半の者はブラックと捉えたりホワイトと捉えたりが変わるもんじゃ。」
なるほど、そういう考え方があるのか。ためになるな。
ところで、これはどれくらい時間を使って良いわけ?
さっきも言ったけどめちゃくちゃ迷いそうなんだけど?
「まあ、そうじゃの。1週間くらいでどうじゃ?
向こうの4つの砂時計は、大きい順に1年、1ヶ月、1週間、1日じゃ。」
そう言ってジイさんが指し示した方を見ると真っ白な空間だと思っていたのに、確かに4つの砂時計が現れた。これはどういうタネなんだ?
「あぁ、それは簡単じゃ。お主の魂レベルはそこまで高くないからの。十回に一回、並魂に行けるかどうかじゃろうな。普通なら軽魂として処理されると思うんじゃがな。
じゃから、お主の魂ではわしがこの部屋の物のレベルを下げることによって見えたり、触れたりできるようにしているわけじゃ。タブレットなども触ろうと思えば触れるじゃろう?手があると考えて触ろうとしてみぃ。」
ふむふむ、手があると考えて、か。
おぉ!ほんとだ!
普通に触れたぞ!びっくりだな!
なるほどな。要はあの1週間の砂時計が落ちるまでに、タブレットにある項目を記入すれば良いわけだな!
「そのとおりじゃ、わしは他にも仕事があるからのぅ。自由に考えておけば良い。」
了解だ!
でも、1週間もいて腹が減ったり眠くなったりとかするのかな?
「まあ、基本的には魂によるが、そうじゃの。
もし腹が減ったり眠くなってしまったらあれじゃからのぅ。わしらの責任じゃしの。
お主でも使える様にキッチンと、ダイニング、寝室くらいは用意しておいておこうかの。
まぁ、お主の魂レベルでは使うことはないかと思うがの」
そうして気がつくと、確かにキッチンやダイニング、寝室が見えた。
はぇー。何から何まで、だな。
つーか、この部屋以上にでかいな。休憩室とか言いながら部屋が三つ余裕で出てきた。
神様の感覚と庶民の感覚はそれこそ天と地ってわけか。
まあ、必要じゃない可能性の方が高いそうだし、とりあえず今後について決めるか。
「ではわしはそろそろ戻ろうかの。2つ目の砂時計が落ちきる頃には戻ってくるじゃろう。あぁ、あと向こうには行くでないぞ。お主の魂レベルでは消滅しかねんからの。」
ジイさんが指差した方を見るとそこには、
………………何も見えなかった。
「……すまん、そうじゃったの。忘れとった」
この忘れんぼめ。医者でも紹介しようか?認知症っぽいジイさんだけど。
「じゃから、なぜそんなに変な医者ばかり勧めるかのう?そして、なぜそんな医者ばかり知っておるのじゃ」
医者ってだいたいそんなものじゃね?俺の周りはそんなのばっかよ?
「……うむ、かわいそうじゃな。話を戻すが、先にも言ったがこの部屋は貰い物でな。色々変な仕組みが多いらしいのじゃ。どんなのがあるか忘れてしまうほどにな。じゃから、主は基本的に見える場所以外は行くでないぞ?」
そういうことか、わかった。気をつけるよ。
「よし、では1週間後にの」
おーけー。それまでに色々考えておくことにする。
そしてジイさんが手をかざすと、この真っ白い空間に切り込みが入っていく。
「うむ、ではな」
神を名乗るジイさんは、この真っ白な空間から出て行った。
ーーそして、当然の様に、ジイさんは1週間では帰ってこなかったーー