第1話 死んだようです
大学の講義の後、バイトも終えた帰り道。
何のアクシデントもなく、特別変わったこともない平凡な日常。
一般人と変わっていることといえば、俺には親友、友人と呼べるような相手がいないということくらいか。
友達がいないわけではない。普通にしゃべれるやつならいるし、人よりコミュ力もある方だと思う。
その気になれば男子でも女子でも普通に話せるし、割と仲良くはなれる。
俺は一時期、ほんの短い間ではあるが学校に行かなかった時があった。いわゆる弱引きこもり状態だ。
ーー理由は何だったか?
よく覚えてはいないがそう大した理由じゃあなかった。
たぶん何か人付き合いに飽きていたんだろう。
それで学校に行くことが煩わしくなっていたんだっけ?
かといってそれで何かが変わるわけもなく、一年ほど経って普通に通い始めた。
しかもどこぞの物語の主人公のようにそれを理由にいじめにあったわけでもなく、周りのみんなは何となーく病気だったのだろうと思ったのか、それからはまた卒業まで人に合わせながら生きてきた。
授業には遅れてしまうかな?と思ったが引きこもったのが中学時代だったし、引きこもり中も普通に勉強していたからか授業よりもむしろ進んでいたくらいだ。
内申点の関係で地元では若干学力の低い高校に通うことにはなったが浪人もせずに大学にも受かった。
悪い、自慢だ。
だが、俺には気を許せるような友人という存在はいない。
幼馴染みとかはたぶんいたんだろうけど卒業と同時に疎遠になる方が普通だしな。
ラノベや漫画のようなテンプレ的な幼馴染みなんて存在するのだろうか?
ーー俺は何でこんなことを考えているんだ?
そうだ、これは巷で有名な走馬灯というやつだ。
俺は目の前に迫る、自動車を前にそんなことを考えていた。
あれ?何でこっちに向かって車が突っ込んできているんだ?
俺が今いるのは歩道のはずなのに。
車の運転席を見ると、運転手が気絶している感じだ。
ああ、気絶しているならハンドルをきれなくても無理はないな。
右側の歩道なんて歩くもんじゃないよな。
だって車と正面衝突だぜ?
まあ、背後からドォォォン!とかもそれはそれで嫌だけどさ。
俺は、なぜか冷静に判断していた。これはもうだめだろうな。
だって、ただの自動車じゃなくてトラックだぜ?
しかも、結構大きいサイズのやつだわ。
何このテンプレ?
そういえばトラックに轢かれて死んで転生とか最初に考えたやつって戦犯だよな。
いっつも読むたびに全国のトラックの運ちゃんに謝れって言いたくなるくらいだもん。
まあ、そのトラックに轢かれかけてるんですけどね。
むしろ俺に謝れって感じだわ。
お前の考えたテンプレのせいでこっちは死んじまうぞ!とか責任転嫁してみたりして。
今の俺に避けれるような運動神経があれば回避できただろうが、おそらくアクセル踏みっぱなしで気絶しているこのトラックを避けれるようになるには、どれくらいの動体視力と反射神経がいるのだろうか?
話戻るけど、なんでトラックなんだろ?
どうせならロードローラーとかの方が新しさがあるんじゃね?
いや、あれもパクリとか言われるのか。
某漫画の「ロードローラーだッ!」的なやつがあるしな。あれは轢かれるというよりも下敷きだったけれども。
しかも生きていたけれども。
むしろ相手倒しちゃったけれども。
そうか、時を止めることができれば今の俺でも回避できるだろうな。
ってか、走馬灯とかもう終わってるのに短い時間で結構思考ってできるもんなんだね。
めっちゃ無駄遣いしてる気がする。
あれだよ、こういうのはもっと全国に命かけてるようなスポーツ少年が使うべき時間の使い方だよ。
常日頃からこれくらいの速さで頭が回転してくれればもっといい大学とかいい人生歩めたんだろうなあ。
ああ、もうぶつかりますわ。
仕方ない、何事もチャレンジだ。チャレンジ精神って大事だよね?
やれるだけやってみよう。
俺はできるだけかっこいい声をイメージしながら、口に出す。
あれだよ、気分は声優さん、いやアニメのキャラクターだよ。
「ザ!ワァァァルdーー
ドガッッ
グシャッ!
ドッグォォォッォオオン!!!!!
あ、間に合わなかったわ。
それが、俺が今世で最後に考えたことだった。
***
気がついたら何もないような白い空間に俺は座っていた。
いや、座っていたような気がしたが、よく見ると自分の足が見えない。
それどころか姿も見えない。
どういうことだろうか?
というより、目が見えているのかすらイマイチ判断できない。
もしかして俺は透明人間にでもなってしまったのだろうか?
考えていても答えは出なかった。
うん、面倒だな。
よし、寝ようか。
起きた。
が、何も変わらなかった。
相変わらずの真っ白な空間だ。イメージ的には某片腕片足が機械的な錬金術師で、出てきたような空間だな。あれ?でも例の真理的な扉がない。その辺もっとしっかり凝ろうぜ。
俺はどれくらい寝ていたのだろうか?
結構熟睡できた気がする。ま、あんまよくわかんないんだけどね。
さて、そんな風に少しばかり現実逃避をしてみてもやはり何も変化が訪れないし、真面目に考えてみよう。
俺、何でこんなとこにいるんだっけ?
そうそう、確か車に突っ込まれたんだった。
それで、背後霊的なやつを出そうとして間に合わなかったんだよな。まあ、出せる可能性はほぼほぼ無かったわけだけどさ。
よーし、そこまでは思い出せた。じゃあ次だ。
なーんでこんな真っ白い空間にいるんだろう?
ここはいわゆる天国という場所なのだろうか?たぶん真理の部屋的な場所ではないと思うのだけど。
あれかな?
小説とかの定番だとさ、これから神様的なのが現れて異世界に異種族(エルフ、ドワーフとか)として転生!?とか、
普通に現実世界に転生!とか、
魔物(スライム、ドラゴン、蜘蛛とか)に転生ってのがあるあるだよな。
そんな感じで思考はそれていく……
***
はい!そんなこんなで、この真っ白な空間に来て結構な時間が経ったと思う。
感覚でいうとだいたい一週間くらいかな?二週間くらいかな?よくわかんないや。とりあえず一週間と仮定しよう。
なんか若干テンションが高くなってきた気がするけど、深夜テンション的な感じかな。
とりあえずこの一週間で状況の整理とかいろいろしてみたのよ。
まずあれね。一週間くらい経つけど神様的なのも、天使的なのも来なかったのよ。全然音沙汰なしなのよ。
なんかイベントが必要なのかなーとか思ってさ、少年漫画のように「腹減ったー」とか言えば何らかのイベントが発生するかと思って言ってはみたものの何も起こらなかった。
少年漫画じゃよくある話じゃん?主人公が「腹減ったー」から始まる物語って。
まあ、俺の場合は今まで不思議なことに腹が減らなかったし、それが原因なのかもしれん。もしかしたらそんなに時間が経ってないとかの可能性もあるな。
それかあれかな、「じじいの神様じゃなくて綺麗な女神さま来い!」とか考えてたからかな。
いやさ、テンプレ的には基本どっちかじゃん?あぁ、あとロリっ子ってパターンも最近じゃあるか。
なによ、神様が子供って。結構怖くない?子供ってなにするかわからんじゃん。まあ、じじいでも美人さんでも初対面だとなにするかわかったもんじゃないけどさ。それに、ロリ女神とかも大抵はロリババアだしな。その点ならじじいと違って手元が狂うとかの心配はまだ少ないけど。
あぁ、また思考がそれた。
なんか思考が説明的だな、とか思っている諸君。
その辺はツッコミ無しで頼むぞ?
俺は基本的にコメディー思考だからな。
今後も頼むぞ?
とりあえず誰かが来るまで、待つべきなのか?
もしくはなんらかのアクションを起こすべきかな?
でもなんらかのアクションってなにさ?この空間で修行でも始めればいいのか?
そんな風に思考していき、時間が経つこと数時間(体感的に)。
目の前に変化が起きた。真っ白い空間に長方形の線が入り、ドアのように開いた。
ドアの奥にもやはりというか真っ白い空間が続いていたが、そのドアから人影のようなものがゆったりと入ってきた。
すらっとしたフォルムに長い髪、優しそうな目元に笑顔が似合いそうな口元、そして顎に蓄えたながーいヒゲ。
はい!残念でしたー!
綺麗な女神じゃなくてジジイのパターンでしたー!
空気読めよジイさん。ここは、綺麗な女神様だろう?
ってゆーかちゃんと、ロリ女神は嫌だなーって伏線張ってたじゃん!
そこんとこマジしっかりー
「なんじゃ、失敬なやつじゃのう」
「あれ?俺今何か言いました?」
なんだ?難聴か?病院でも行ってきたらどうだ?いいお医者さん知ってるぜ?
難聴気味な爺さんだけど。
「難聴か疑っとるやつに難聴気味の医者を勧めてどうすんじゃい!」
「え、いやぁ……コンビでも組めば?」
あれ?ていうか、なんか変じゃね?
頭で考えただけで特に何も言ってないのに会話が通じちゃったぞ?
「気づくのが遅いのう。わしゃこれでも神の一柱じゃからの、ただの人間の心くらいは読めて当然じゃろ?」
ほうほう、つまり俺の考えてることはジイさんには筒抜けってことだな?
「うむ、そのとおりじゃ」
目の前に現れた神を名乗るジイさんが自慢げにヒゲを触りながら頷く。
つまりはあれだな、この態度は不敬に当たりそうだな。
でもまあ、仕方ないよね。自分の心は騙せないって言うもんね。何事も諦めが肝心だよ。
ま、一応口調には気をつけてみるか。
「ふむ、えらく達観しとるの。普通主のような若造は心が読まれることを嫌ったり、口先だけは丁寧にしたり、何かしら焦りを見せるのじゃがな」
いやぁ、昔っから焦るってことがあんま無いんだよな。
焦ったっていいこと無いだろうし、遅刻とかしたらすぐ諦めて休んだりするし。
世の中には「何事も誠意が大事だ。そうしないと社会に出て苦労するぞ。」とか言う人いるけど、人生一度きりなんだからもうちょっと自由に生きたらいいのになぁとか思っちゃうんだよな。
まあ、守るべき家族とかができると保守的な発想になるのもわかるんだけどさ。
「ふむ、お主は達観しておるというよりはなんというか、変わっておるの」
ああ、それはよく言われるわぁ。俺的には普通に物事を捉えてるつもりなんだけどなぁ。
で、俺的にはそんなことより今この状況の方が気になるんだけれど。
「ああ、そうじゃったな。ではーー」
ジイさんはためを作り、そして俺に言い放った。
「ーーお主は死んだのじゃ」
知ってる知ってる。